電話応対でCS向上事例
-指導者級資格保持者のための品質向上研究会レポート-ハラスメントのない職場を構築するための「リーダーが知っておくべき労働ルール」とは
記事ID:C20067
2023年7月7日(金)、電話応対技能検定(もしもし検定)の指導者級資格保持者(第1期生~第31期生)を対象とした「品質向上研究会」が開催されました。今回は、社会保険労務士の市川 恵氏による講演「リーダーが知っておくべき労働ルール~ハラスメントにしないならない指導方法とは~」を中心にレポートします。
“知っているようで知らない”労働に関する用語
講師 社会保険労務士
法人恵社労士事務所
代表社会保険労務士
市川 恵氏
今年2回目となる研究会は、前回同様オンライン(ZoomMeeting)で開催されました。専門委員会稲葉委員長の講話に続き、社会保険労務士法人恵社労士事務所 代表市川 恵氏が講演とワークショップを行いました。市川氏は全国で企業や団体向けの働き方改革に関する講演や労務セミナーなどの講演活動を行っています。今回は、働き方の多様化が進む中、企業や団体のリーダー層が働く上で知っておいてほしいルールについて講演を行いました。
午前中の講義では、「雇用」「労働時間」の定義や「会社とは何か」など、あらためて明確にしておきたい用語を解説し、また、会社の指揮命令の考え方、リーダーとして部下に接する際に気をつけるべきことについて語りました。冒頭、市川氏は「電話応対の業務はフリーランスでもできると思いますか?」と投げかけます。解答は「(雇用契約ではないフリーランスでは)できないこともないが、組織の電話応対は難しいと思う」というものでした。これは雇用と請負という契約の違いを理解する上で参考になる事例と言えます。また、職場で「指導」する立場であるリーダーの発言の重要性について、軽い気持ちで「うちの会社は有給取れないんだよね」などと部下に話した場合、部下は会社から有給休暇を取得しないよう指示されたと捉えてしまうという例を挙げて説明しました。
会社にも従業員にも守るべき「義務」がある
次に、市川氏は○×クイズを出題します。1問目は「自分のミスをカバーするために残業をしたのだから残業代を請求すべきではない」、2問目は「職場でも、自分の不注意で怪我をしたのなら労災申請はすべきではない」、3問目は「妊婦さんや育児中の人は体調が不安定なので、負担が大きい重要な仕事をさせてはいけない」という問いで、解答はすべて×が正解でした。
まず残業については、ミスをカバーしなさいと命じた時点で労働時間になり賃金が発生します。労災申請については、会社には「安全配慮義務」があり、怪我をする可能性がある状態にしていたことは、会社の責任となります。妊婦については、会社には「職場環境配慮義務」があり、皆が働きやすい職場であるように配慮する義務があります。しかし、妊娠中や育児中であることを理由に、一方的に簡易な業務に移し待遇を下げることはマタニティハラスメントの一つとされています。なお、会社には「安全配慮義務」「職場環境配慮義務」に加えて、働き過ぎによる不調にならないように管理する「健康管理義務」があります(図1参照)。
続けて、市川氏は従業員の義務についてこのように述べます。「『誠実労働義務』『企業秩序維持義務』『守秘義務』『職務専念義務』の四つは、会社と雇用契約をした時点で従業員に発生する義務であり、それができていない場合、会社は『指導』を行う必要があることになります」(図2参照)。
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【図1:会社の「義務」】
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【図2:従業員の「義務」】
グループワークの1回目は、「定時を過ぎても上司に断らず残っている部下がいるが残業になるか? また、そういう人に対してどのような声がけをするか?」というテーマでディスカッションを行いました。
市川氏は、会社や就業規則によって異なるためケースバイケースと前置きした上で、「リーダーには勤怠管理を行う義務がある」と続け、会社でよく問題となることが多い「労働時間、休憩時間、休日、残業」「有給休暇」「育休・産休」「上司からの指導、懲戒」について、例を挙げて解説しました。
「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数が右肩上がりで増加
午後の講演テーマは、昨今話題に上ることの多いハラスメントに移りました。市川氏は、「会社ではパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントが起こりえます。前述の『職場環境配慮義務』の観点からも、会社はそれらを防止しなくてはなりません」と切り出します。都道府県労働局に寄せられた企業と労働者の紛争に関する相談状況を見ると、「いじめ・嫌がらせ」が右肩上がりで伸び、ハラスメントが増えていることが分かります(図3参照)。
【図3:ハラスメントの現状】
次に、パワハラに関する○×クイズを出題します。「①パワハラとは仕事中に人を殴ったり暴言を吐いたりすることだ」「②パワハラは上司が部下に対して行うものだ」「③厳しく指導する時は皆が見ているところでやった方が良い」「④暴言はすべてパワハラである」「⑤パワハラは本人がパワハラと感じればパワハラだ」「⑥仕事は見て覚えるものだ」
これらもすべて×が正解です。①はパワハラは暴力や暴言に限らないため、②は部下から上司へのパワハラもあるため、③は精神的な追い込みが必要以上の攻撃になる場合があるため、④⑤は強い叱責がすべてパワハラになるわけではなくやりすぎが問題であるため、⑥は自分が指導をしていないのにもかかわらず本人のせいにするのはパワハラの可能性があるためです。一方で、市川氏は「近年、すぐにパワハラと騒ぎ立てる人もいるため、それを恐れて何も言えない上司が増えているようで、企業からは、適切な注意は『指導』でありパワハラではないことを説明してほしいと言われることが多くなっています」と最近の傾向を話しました。
電話応対の現場では「カスハラ」についてどう対処しているのか
市川氏は最後に、電話応対など顧客対応の現場で起こりえるカスタマーハラスメントについて話します。「厚生労働省発行の『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』によると、カスハラは、パワハラ、セクハラに次いで3位となっていて、非常に問題となっています」(図4参照)。
【図4:ハラスメント相談件数の傾向】
そこで、グループワーク2回目では、「外部の方からの嫌がらせや行き過ぎた叱責・クレームから従業員を守ることは会社で対応する必要があるが、どのような対応が可能か?」というテーマでディスカッションが行われました。あるグループでは、「相手が『死ね』といった暴言を言ったら電話を切ってもいい」などと明記されたカスハラ対策マニュアルの存在について紹介があり、また、現状の把握・分析、ハラスメントを受けたスタッフのフォロー、その後誰がそのカスタマーに対してもの申すかといったフローを決めている企業の例が挙げられました。
講演中、市川氏がチャットで質問を募ると、参加者から残業や有給休暇、休憩時間などについて多くの質問が寄せられており、参加者の関心の高さがうかがえる講演となりました。
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