電話応対でCS向上事例

高級レストラン、ホテルのスタッフがテーブルサービス技術を競う世界的大会「クープ・ジョルジュ・バティスト」。 日本人初の優勝者が語る、サービスの本質

優れた電話応対には、お客さまを第一に考え、気づかう心が求められます。2018年7月に開催された「電話応対技能検定(もしもし検定)指導者級資格保持者のための品質向上研究会」では、レストランのメートル・ドテル(接客の責任者)としてお客さまから高い評価を集める宮崎 辰氏をお招きし、「サービスの本質」についてお話をうかがいました。

もしもし検定品質向上研究会レポート

 今回行われた品質向上研究会は、7月6日(金)・7日(土)の両日にわたり、140名の指導者級資格保持者が参加し、グループに分かれての勉強会、実技指導の事例発表などのプログラムを通じ、品質向上、指導、審査について学びました。宮崎氏の講演は「世界一のおもてなし ~サービスの本質~」というテーマで行われました。宮崎氏はまず、このような語りで講演を始めました。

 「私と皆さんは生活スタイルも職業も違います。私の話が皆さんのお仕事のお役に立てるかどうかは分かりません。ただ一つ共通して言えるのは、私も皆さんもすべてお客さまのために仕事をしているということです。本日の話はレストランが舞台ですが、きっと皆さまの仕事との共通点があると思います。それを持ち帰って役立てていただきたいと思います」(宮崎氏)

お客さまがいらっしゃる前から、サービスは始まる

 宮崎氏の仕事であるメートル・ドテルはレストランを訪れたお客さまに快適な空間を提供し、シェフ、ソムリエ、フロアのスタッフに的確な指示をして“お客さま満足”という目的地に導きます。その仕事は、お客さまがお店にご来店されてからではなく、“お客さまがお店に行こうと思った瞬間”から始まると、宮崎氏は語ります。

 「電話をいただいた時の声のトーン、年齢、話す速度、電話番号から判断できる大まかなご住所などから推測して、そのお客さまにふさわしいテーブルを選び、準備します。私の仕事は料理を提供することではなく、お店やブランドのファンを作り、リピーターになっていただくことです。もちろん、私個人のファンになっていただければ言うことなしです。お客さまのお食事中にも神経を研ぎ澄まし、最上級のご満足を提供することが務めです。また、お帰りになった後も、お礼のメールやお手紙を欠かしませんし、しばらくお見えになっていないお客さまには『お元気ですか?旬の食材が入りましたので、また遊びにいらしてくださいね』などとお誘いいたします。シェフやソムリエの仕事がお料理、ワインを提供した時に終わる“点のサービス”だとすると、私の仕事はずっと続く“線のサービス”なのです」(宮崎氏)

言われたからやるのは作業、その作業の理由を説明できるのが仕事

 宮崎氏は続いて、常にお客さまのことを考え、自分が必要とされ、感謝の言葉をいただくことこそがこの仕事の生きがいだと強く訴えます。そしてお客さまにご満足いただくため組織のリーダーとしてスタッフの管理、指導に話は進みます。

 「私はスタッフの体調から、ある程度のプライベートの状況まで把握しています。体調や心が不安定では、お客さまに心からご満足いただくことはできません。そしてスタッフには、すべての仕事の手順や方法には理由があることを強く伝えています。肉料理を大皿から切り分ける時にクレソンをいったん外す。パイナップルを切る時、実を押さえる左手に手袋をする。なぜクレソンを外すのか、なぜ手袋をするのかを問われ、その理由をきちんと言えるのが仕事です。マニュアルにあるから、言われたとおりにやっているからなら、それは単なる作業でしかないのです」(宮崎氏)

 そして電話を受ける、電話で話すというコミュニケーターの仕事に関連しては、ご自身がかつてお客さまの留守番電話に入れたメッセージについて、「あらためてこちらからお電話差し上げます」の一言がなかったため、お客さまから「なぜ自分が折り返しの電話をする必要があるのか」とお叱りを受けたというエピソードを紹介した上で、以下のように語りました。

 「『自分が企業とお客さまを結ぶ大事な仕事をしている』という気持ちをおろそかにしてはいけません。お客さまは一度のミスで離れてしまうこともあります。お客さまのお気持ちを想像し、要望をくみ取る力を常に意識することが大切です。そしてマニュアルは大切ですが、お客さまの心を本当につかむには、マニュアルを超えたアドリブも必要なのです」(宮崎氏)

お客さまへ期待以上のサービスを提供することがプロの使命

 最後に宮崎氏は、サービスへの期待値とお客さまの満足度の関係についてのご自身の考えを強く訴え、講演を締めくくりました。

 「お客さまの期待値の70%を満たすだけなら、普通のサービスです。それが90%になれば、素敵なサービスとなります。しかし私たちプロは、期待値を大きく超えるサービスを提供しなければなりません。それがお客さまのご満足につながり、ファンになっていただくためのステップになるのです。そのためには常に考え続けること、そしてお客さまのお気持ちやライフスタイルに思いを馳せることが大切なのです」(宮崎氏)

 世界一を目指すために努力を重ね、そしてその夢をかなえたメートル・ドテルの言葉は、研修会参加者の心に強く響いたことでしょう。

宮崎 辰(みやざき しん)氏:Fantagista21 代表 メートル・ドテル

世界的に有名な「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」(ミシュラン三ツ星)恵比寿でメートル・ドテルとして活躍中に、サービス日本大会「メートル・ド・セルヴィス杯」(2010年)で優勝。さらに2012年には日本代表として世界大会「クープ・ジョルジュ・バティスト」に挑戦し、日本人として初の優勝に輝く。その後、各メディアから出演・取材依頼が殺到する。2017年に同レストランを退社し、現在はミシュラン星付きレストランに勤務する傍らサービス普及活動や企業研修、講演、セミナーなどメートル・ドテル業発展のための活動を行う。

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