電話応対でCS向上事例
-マナー講師と企業の教育担当者のオンライン座談会-新入社員の「電話恐怖症」を克服するために
記事ID:C20089
近年、電話をかけたり受けたりすることに強い不安を感じる「電話恐怖症」が話題です。実際にビジネスの現場でどのようなことが起き、電話恐怖症を克服するためにどのような対策が実施されているのかを知るため、電話応対の指導を行う講師と企業の教育担当者を招いて、オンライン座談会を開催しました。
電話業務に苦手意識を持つ20代は7割以上
図:電話業務に関する実態調査「 電話に対して苦手意識を感じていますか」
ビジネスの現場では近年、電話応対業務に強い苦手意識を持つ若年層の従業員が増加し、課題が表面化してきています。AI電話自動応答サービスを提供する、株式会社ソフツーの電話業務に関する実態調査(図参照)によると、「電話に対して苦手意識を感じていますか」という質問に対し、電話に苦手意識を感じる(「とても感じる」「やや感じる」)と回答した割合は57.8%を占め、20代では7割以上という結果になっています。
現代社会は情報通信インフラの発展により、電話以外にもコミュニケーションツールが豊富で、日常生活においても電話を利用する機会が減少しています。特にSNSを利用する頻度の高い若年層はその傾向が一層強いと思われます。しかし、ビジネスにおいては、お客さまとのコミュニケーションに電話が使われる場面はまだまだ多く、電話応対は必須の業務と言えます。そのため、社員の電話恐怖症を緩和するための指導方法にも注目が集まっています。
そこで、今回は日本電信電話ユーザ協会のセミナーでも講師を務める、株式会社ハッピーマナークリエイト代表取締役の吉村景美氏の司会のもと、株式会社しちだ・教育研究所カスタマーソリューション部の日高 透予氏、丸文通商株式会社管理部の山室 真奈美氏、甲賀農業協同組合(以下、JAこうか)総務部の山下 耕平氏、岡本 小百合氏、辻 優希氏に参加いただき、オンライン座談会を開催しました。
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株式会社ハッピーマナークリエイト
代表取締役
吉村 景美 氏
公益財団法人日本電信電話ユーザ協会契約講師。現代礼法研究所所属。ビジネス社員のマナー・コミュニケーション教育や、大学生や高校生の面接指導まで幅広い人材育成を手がける。 -
丸文通商株式会社
管理部 法務・経営企画課 主任
山室 真奈美 氏
医療機器・理化学機器を取り扱う専門商社。レントゲンやMRI 、分析科学機器などの販売からメンテナンスまで手がける。 -
株式会社しちだ・教育研究所
カスタマーソリューション部 主任
日高 透予 氏
幼児教育を柱とした独自のメソッド「七田式教育」を提供。国内に約230教室と海外に16の国と地域で幼児の教室をもつ。
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甲賀農業協同組合
総務部 教育人事課
山下 耕平 氏
滋賀県甲賀市と湖南市を活動地域とする農業協同組合。農作物の直売所の運営や農業従事者の指導、金融、葬祭まで事業は多岐にわたる。 -
甲賀農業協同組合
総務部 教育人事課主担当者
岡本 小百合 氏 -
甲賀農業協同組合
総務部 教育人事課副担当者
辻 優希 氏
先輩世代にもあった電話業務に対する苦手意識
吉村:今回のテーマ「電話恐怖症」について、皆さんの会社の状況を教えてください。
日高:座談会に参加するにあたって、当社の勤続3年以内の社員にアンケート調査を行いました。その結果、「とにかく苦手」と「ビジネス電話はできればしたくない」の回答を合わせた約9割の社員が電話業務に苦手意識を持っていました。また、苦手な理由については、相手の表情が見えないことや情報の受け取りミスへの不安などが多く見られました。
山室:当社の若い社員にも電話が苦手な人が多いですが、アンケート結果を聞くと「うちに限ったことではないんだな」と、あらためて思いますね。
岡本:電話を使う機会が少なくなっていることが大きな要因と感じています。今はネット予約が普及し、私自身も電話を使う機会が減りました。
山室:私も最初は苦手で、配属された部署のフロアが静かだったため、電話応対の声が先輩方に聞かれてしまうことにとてもプレッシャーを感じ、電話に出るのがすごく嫌だったことをよく覚えています。
吉村:近年ほどではないにせよ、上の世代も、新人時代には電話が苦手だったということですね。それでは、電話恐怖症について、具体的なエピソードがあったら聞かせてください。
日高:ある新入社員が、研修中の電話応対シミュレーションの時間になって突然、姿を消したことがありました。彼は極度の不安で腹痛になり、トイレにこもっていたのですが、電話応対がそんなにも嫌なのかと驚かされました。そんな彼も、なんとか研修を終え、電話応対コンクール(以下、コンクール)にも出場したのですが、なんと県大会で入賞しました。
岡本:どのようにして電話恐怖症を克服したのですか?
日高:彼は、電話恐怖症であることに違和感を覚えるほど、プレゼンテーションが上手でしたので、私も含めて皆で彼のプレゼンテーションを絶賛しました。それが人に話すことへの自信につながったのかなと感じました。
山室:当社では電話応対の流れをつかむことで、苦手意識を克服する社員がよく見られます。取引先は医療関係者や官公庁の方、メーカーの方が多く、やりとりもある程度定型的です。そのため「こう言われたら、こう返す」といった流れをつかみやすく、経験を積むことで苦手意識も薄らいでいくようです。
辻:流れという意味では、人によってはスクリプト(台本)を書いてあげることがあります。それから、3コール目までに電話に出ようねと励ますのですが、どうしても手が伸びず、4コール、5コール目でやっと出るという新人がよく見られます。
岡本:電話はなるべく新入社員にとってもらい、経験を積んでほしいのですが、先輩たちがすぐにとってしまうということもありますね。中には1コールも鳴らないうちに、電話機が光った瞬間にとってしまう人もいます。
吉村:それは、すごい!でも、実は早すぎます。たしかに「3コール鳴らすのは会社の恥」と教えられることが一般的ですが、早ければいいというものでもありません。相⼿も⾃分も 少し余裕をもつ時間が必要ですので、1コールは鳴らしてからとる⽅が良いと思います。
電話応対コンクールで苦手意識を克服する者も多い
吉村:皆さんの会社の新入社員研修での電話応対教育はどのようなものですか?
山室:当社は4月1日の入社式から配属まで約2ヵ月間あり、その期間に研修を実施し、そのうち電話応対やビジネスマナーを半日間かけて行っています。一般的な電話応対を学んだ後、ロールプレイングによるテストがあり、合格が必須のため、少し厳しいと感じる新入社員もいるようです。
日高:私たちも4月1日の入社式から約2ヵ月間、研修を実施します。最初に全体的な研修があり、私が5時間ほど、言葉のコミュニケーションやコンクールの話をしています。その後、各部でジョブローテーションを行い、私の在籍するカスタマーソリューション部では電話応対研修を実施しています。部員の応対録音をメモしながら聞き、現場のリアルなやりとりを体感してもらいます。その後、スクリプトを活用し電話応対のトレーニングを実施。その際、録音を本人に聞かせながらフィードバックするという方法で行っています。
山下:私たちは電話応対のデモ機を活用して練習を行い、その評価を本人にフィードバックしています。研修は入社前の3月上旬に行い、その中で7時間ほどの時間を使って電話応対の研修を実施しています。
吉村:7時間というのはすごいですね。研修後、現場に配属された新入社員の方々は、しっかり電話応対ができるようになっていますか?
岡本:苦手な人はやはり、なかなか克服できないですね。しかし、新入職員全員と5年目の職員は毎年、コンクールに出場していて、その練習を積み重ねていく中で苦手意識を克服していく者は多いです。
山室:当社でも毎年コンクールに向けて指導をしているのですが、なかなか実務に結びつかないという悩みがあります。もちろん、日常の業務に活かされている者も多いのですが、中にはコンクールに参加したらそれで終わりという者もいます。そのような場合、どうすれば良いでしょうか?
吉村:コンクールは、お客さまとの想定会話を何度も練り直し、考えていく中でお客さまへの対応力を身につけていく良い機会になっているはずです。会話の中の言葉を練る、音声をチェックするといった練習を通じてスキルアップし、例えばクレームに対しても上手に言葉を選びながら柔軟に対応できるようになるというのが、コンクールに参加する意義ですので、その点を周知徹底した上で取り組めば良いのではないでしょうか。
声が無表情な人が増えてきた
吉村:新入社員研修の中でしっかり電話応対研修を実施しても、特に苦手意識が強く、克服は難しい新入社員がいた場合、皆さんの会社ではどうしていますか?
山室:今年は特に現場から要望があり、新入社員研修だけでは不十分な社員については個別の研修を2回行いました。近年は声に抑揚がなく、“無表情”な若手社員が増えているように感じます。敬語も使えて丁寧に話してはいるのですが、どうしても事務的に聞こえてしまうんです。そのため、本人の声を録音して聞かせ、抑揚を意識している時としていない時の差を感じてもらうようにしているのですが、なかなか改善が難しいです。
日高:私たちもスクリプトを使って練習していますが、山室さんと同じように抑揚がないという課題を抱えています。「できるだけに自然に」と言っても、ロボットみたいな話し方になる社員もいます。そこで、スクリプトを本人が話しやすい言葉に変えてハードルを下げたり、少し言葉づかいがおかしくても笑顔で伝えることが大事ということで、鏡で笑顔を確認しながら話す練習も行っています。
辻:コロナ禍で常にマスクをつけていた影響か、特に若い世代に、笑顔を作れない人が増えたように感じますね。対面の接客において笑顔が少なく、声も小さくて、お客さまに「あの人、元気ないね」と言われることがあります。
吉村:長期間、マスクをしていたため、表情筋が鍛えられていないというのは、新たな課題になっていますね。表情筋を動かすトレーニングも定期的に行うことをおすすめします。
山室:声が“無表情”な人に抑揚をつけさせるコツはないでしょうか?
吉村:よくある方法では、昔話のように話す練習があります。保育園で子どもに読み聞かせする時は、「むか~し、むかし…」と抑揚をつけて読みますよね。また、発声練習用のスクリプトを愉快な内容にするのも良いと思います。例えば、テーマパークのような楽しいシーンをイメージして、「さあ、お客さま!」というようなものです。ほかにも好きな歌は感情を込めやすいですので、研修に歌を取り入れるのも良いと思います。おそらく、声が“無表情” な人は言葉に心をこめること、つまり感情移入ができていないんですよね。私の師である岩下 宣子先生はよく、声には気持ちを音声表現で伝える「地の声」「裏声」「息の声」の3つがあると言います。例えば、お葬式で普通に「地の声」で「本日は誠にご愁傷様でした」と言うより、聞こえるか聞こえないような、かすれた「息の声」でも、感情がこもって聞こえれば、内容もより伝わるということがありますよね。感情を込めると伝えたいことがより伝わるということを体験し、声の表現の重要性を理解してもらうことも必要だと思います。
社員一人ひとりが会社の顔、代表である
吉村:新入社員の電話応対に関する困りごととして、ほかに何かありますか?
日高:新入社員では分からないようなお問い合わせ、クレームの場合は「詳しい者に代わります」などと応えてもらうか、時には「私は入社して間がなく、きちんとお答えできないので、上の者におつなぎします」と応えてもらいます。ただ、時には「だったら、最初から出るな」とお叱りを受けることがあります。そんな時は本人もひどく傷つきますし、私も責任を感じ、どうすれば良いのか考えてしまいます。
吉村:新入社員の方がめげてしまうような状況は、本当にかわいそうですね。怒っている人には何を言っても言い訳に聞こえるでしょうし、「謝ったら良いという問題じゃない」と言われることもあります。そういう人は「必ず何か言ってやりたい」「何を言われても腹が立つ」状態だと思います。ですから、そうした電話を受けた場合は「この怒りの半分は、私のせいではない」と心の整理をする逃げ道を作って上手く流せるようにしましょう。
山室:皆さんは社内でさまざまな教育をされるお立場だと思いますが、そもそもビジネスマナーや電話応対と言われると、抵抗感を持たれることがよくありますよね。そのため私の場合は、これから社会で生きていく上で自分を受け入れてもらいやすくするためにそうしたスキルが必要だと説いています。皆さんは、研修の最初の一歩としてどのように説明していますか?
日高:私は「たまたま電話に出たあなたの応対によって、そのお相手の会社に対するイメージが決まるんだよ」と、責任ある業務だということを伝えます。また、やりとりしたことは必ず報告するように伝えます。理由は、そのやりとりに、会社の欠点や見直すべきポイントが隠れているかもしれないからです。電話をとった者が自分の中だけで終わりにしてしまったら、会社は大事なことに気づく機会を失います。そういった意味でも、大切な役割を担っているということを自覚してもらいます。厳しいかもしれませんが、大切なことですので、できたことをしっかり褒めながら習慣づけています。
山下:初めて接するお客さまの場合、職員100人のうち99人がしっかり挨拶できていたとしても、たまたま対応した一人の挨拶が悪ければ、そのお客さまが感じるこちらのイメージは悪くなると思います。そのため、新入職員には一人ひとりがJAこうかの顔であり、代表者であると思ってお客さま応対に取り組んでほしいと伝えています。
吉村:岩下先生は「マナーは愛」というお話をよくされるのですが、私もその素晴らしさを伝えたくて、マナー講師の道を歩んできました。皆さんの会社の新入社員の方々にも、その素晴らしさが伝わり、ビジネスマナーや電話応対の抵抗感が払しょくされると嬉しいです。電話恐怖症の対策については、皆さんも新入社員研修から丁寧に実施されているんだなということを感じました。これからも頑張ってください。