電話応対でCS向上事例
-指導者級資格保持者のための品質向上研究会レポート-電話応対での“感じのよさ”を丁寧さの原理から考える
記事ID:C20117
2026年1月9日(金)、電話応対技能検定の指導者級資格保持者(第1期生~第36期生)を対象とした「品質向上研究会」が開催されました。今回は、十文字学園女子大学教授の滝島 雅子氏による講演「電話対応のための待遇コミュニケーション ~声・ことば・心で伝える『感じのよさ』~」についてレポートします。
コミュニケーションにおける“感じのよさ”を探る
講師 十文字学園女子大学
教育人文学部文芸文化学科教授
元NHKシニアアナウンサー
滝島 雅子氏
電話応対技能検定の指導と審査の品質向上のための研究会が1月9日にオンラインで開催され、80名が参加しました。専門委員会 稲葉委員長の講話の後、十文字学園女子大学教授の滝島 雅子氏が講演を行いました。滝島氏はNHK入局後、アナウンサーとして報道番組を中心に担当し、2012年からはNHKメディア研究部で放送における言葉の使われ方の調査・研究を行ってきました。講演について滝島氏は、“人間関係”と“場”に重点を置いて交流を捉える「待遇コミュニケーション」を中心に電話応対で留意すべきポイントなどを整理し、敬語表現を含めた“丁寧さ”や“感じのよさ”実現のための方法を皆さんと一緒に考えたい、と語ります。
まず、事前アンケートの“電話応対における感じのよさ”に対する回答を取り上げ、明るい声などの「音声表現スキル」、丁寧な言葉づかいなどの「内容の伝え方」、心が通う応対や共感など「気持ち・態度」のように回答を分類し、音声だけで丁寧さや感じのよさを伝えないといけない電話の特異性を示します。そして、文化庁の文化審議会が2018年にまとめた『分かり合うための言語コミュニケーション(報告)』について説明しました。報告書を引用して滝島氏は、言語コミュニケーションの四つの要素として「正確さ」「分かりやすさ」「ふさわしさ」「敬意と親しさ」があると言います。中でも「ふさわしさ」は、場面や状況、相手の気持ちに配慮した話題や言葉を選び、適切な手段・媒体を通じて伝え合うことであり、今日の講義で取り上げるべき内容だと語ります。
意識と内容、形式が重要となる、待遇コミュニケーションの考え方
では、どうすれば感じの悪さを回避できるのでしょうか。それを考える際の観点として滝島氏は、「待遇コミュニケーション」を紹介します。待遇コミュニケーションとは、「人間関係」と「場」に重点を置いてコミュニケーションを捉えようとする考え方です。これは早稲田大学大学院日本語教育研究科の蒲谷宏教授が長年研究しているテーマであり、コミュニケーションする話し手(表現主体)と聞き手(理解主体)が場面を認識し、「意識(きもち)」と「内容(なかみ)」、「形式(かたち)」を連動させつつどのようにコミュニケーションするのかを考える枠組みと定義されています(図1)。相手への敬意や配慮を一方的に示すのではなく、相互作用の中で調整しながらそうした意識を作り上げるものと捉えるのが待遇コミュニケーションだとも言えます。これは当たり前のように感じますが、日常業務の中で見失いがちな観点ではないか、と滝島氏は示唆します。
丁寧さの原理から考える感じのよい表現
続いて、電話応対の中で丁寧さや感じのよさをどのように実現させていくのかに話題は移ります。蒲谷教授ほかの共著『敬語表現』では、伝える側がどのような意図を持ってコミュニケーションを取るかに注目し、①自己表出表現、②理解要請表現、③行動展開表現の三つの表現行為に分けられる、としています。そして、電話応対で多くみられるのが「行動展開表現」だと言います(図2)。さらに行動展開表現を行動、決定権、利益・恩恵の三つの観点から分類し、「~してもいいですか」のように相手に許可を求める言い方を「許可求め表現」、「~してくれますか」「~してもらえますか」を「依頼表現」、「~しませんか」を「誘い表現」などに分けて把握することができるとしています(図3)。
そして、電話応対の現場で多い「依頼表現」の構造を詳しく説明しました。「書いてくれますか」とお願いする場合、書くのは相手、書くかどうかを決めるのも相手、書いてもらうことで利益・恩恵を受けるのは自分です。依頼表現というのは、自分の利益・恩恵のために相手に動いてもらう表現であることが分かります。依頼は相手に負担や迷惑をかけることであり、そうした構造を持つことが分かると、申し訳ないという気持ちになり、言葉を添えるということにつながるわけです。講義では、それ以外の表現について、行動、決定権、利益・恩恵が誰にあたるのかの個人ワークと解説を行いました。
さまざまな行動展開表現の中で最も丁寧なのはどの表現なのでしょうか。蒲谷宏教授の著書『待遇コミュニケーション論』にある「丁寧さの原理」によると、「行動」は自分、「決定権」は相手、「利益・恩恵」は自分という構造になる表現が最も丁寧な表現になります。この考え方に照らして考えると、「これを使ってもよろしいでしょうか」などの「許可求め表現」は、「行動」は自分、「決定権」は相手、「利益・恩恵」は自分という構造になっており、行動展開表現の中では最も丁寧な表現だと捉えることができます(図4)。最近、この種の「~てもよろしいですか」といった「許可求め表現」が使われる場面をよく耳にしますが、相手に対していかに感じよくできるかを大事にする社会環境において、この表現が選ばれている理由は「丁寧さの原理」からみても明白だと滝島氏は語ります。
さらに、「丁寧さの原理」によって、「許可求め表現」が構造上最も丁寧であるということを踏まえると、「あたかも許可求め表現」を使うことで、相手に対してより丁寧な印象を与えることができると解説します。「あたかも許可求め表現」とは、本来許可を求める必要はない場面でもあたかも許可を求めるような表現を使うことです。例えば、何かを取ってほしいことを相手に伝える場合、「取ってください」は「行動」=相手、「決定権」=自分、「利益・恩恵」=自分の「指示・命令表現」ですが、これを「取っていただいてもよろしいですか」という「あたかも許可求め表現」に変えることで、相手により丁寧な印象を与えることができます。丁寧さを追求すると、「~てもよろしいですか」という“あたかも”許可を求めるような表現にたどり着くとも言えます。
電話応対において“感じのよさ”を実現するために
午後の講義では、ディスカッションやグループワークなどの実践を行いました。丁寧さと効率性の両立に関するワークでは、電話を受ける本数を重視する環境においても言葉を尽くさないと丁寧さにつながらないといったジレンマを抱える意見がありました。滝島氏は、傾聴力が大事という意見を受けて、相手の意図を察することが大切で、それが丁寧さと効率性の両立のヒントになるとコメントしました。また、すべて「~してよろしいでしょうか」のようにへりくだり過ぎるのは問題があるという意見に関し、確かにどんな場合でも許可求め表現にすればよいわけではなく、お客さまに行動を求める場合に言い換えが有効な場面もあり、日頃から言葉の引き出しを用意することが大事、と解説しました。普段、電話応対部門で指導する立場の受講者からは、オペレーターを指導する際、「丁寧語にするとよいと伝えてきたが、今後は行動、決定権、利益・恩恵の観点から論理的に示すことができる」といった声が多く聞かれるなど、大変有意義な講義となりました。
出典:蒲谷宏・川口義一・坂本惠 『敬語表現』大修館書店、1998年蒲谷宏 『待遇コミュニケーション論』大修館書店、2013年文化審議会国語分科会 『分かり合うための言語コミュニケーション(報告)』、2018年
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