電話応対でCS向上コラム

第87回 「物言わぬ目の表情」

記事ID:C10022

昨年来、こんなに人の「目」を意識的に見たことありませんでした。何しろ顔の半分はマスクに覆われて、目しか出ていないのですから。古来「目は心の窓」と言われ、目が語る言葉、目が伝える情報は、時に秘めやかに心の内を伝えることもありました。人間理解にとっても欠かせぬツールだったのです。ところが、コロナ禍で出会う人々の目は、意外なほど表情に乏しく無口でした。今回はこの「目の表情」を題材に選びました。

目が語らなくなった

 カラフルで派手なマスクが増えました。それは急速にファッショナブルとなって、顔半分のアピール力を競い合っているのです。残り半分の「目」はどうなっているでしょう。
 「目は口ほどにものを言う」という格言が古くからあります。「口は嘘を言うが目は決して嘘は言わない」とも言います。「眼光紙背に徹す※」「目ぢから」など、目の持つ力は古来より高い評価を受けていたはずです。ところが、これほど大きな力を持つ目の表情を、私たちは失いつつあるように思います。目が語らなくなったのです。
 目だけで判断する人の印象が、いかに頼りないかとつくづく思います。マスクをしたままの初対面の人ですと、まず次に会った時には認識できないでしょう。テレビに登場する人も皆マスクをしたままです。発言者の表情全体が見えないと、これほどもどかしい思いをし、欲求不満に陥るものかとその都度思います。「一度でいいから、ほんの一瞬でいいから、マスクを外して顔全体の表情を見せてくれませんか」と言いたくなります。それをマスク時代のマナーにして欲しいと願わずにはいられません。

目を合わせることが 苦手だった

 もともと日本人は目を合わせることが苦手だと言われます。目を合わせて話をする率は日本人は30%、欧米人は65%という数字を読んだことがあります。
 かつて、東京の女子大学で教えていた時のことです。30人ほどのクラスでしたが、私の講義を聴く時に、ほとんどの学生が下を向いていて私の顔を見ないのです。質問すると答えますから聴いてはいるのでしょう。それでも中に3、4人、常にしっかり私の顔を見て聴く学生がいました。その受講態度を褒めて、理由を訊いたことがあります。「『人の話を聴く時には、しっかり顔を見て聴け!』と父に言われました」彼女たちは、皆そう答えてくれました。

目を合わせることに 慣れる

 人と人との出会いは、視線を合わせることから始まります。それはコミュニケーションチャンネルの開設です。相手を認めた証左になります。
 ところが、現実にはマスクから見えている目は、聴いていない、語ってこない、だから印象にも残らないのです。でも今が目復権のチャンスです。もともと目を合わせる習慣が乏しい日本人は、目を合わせることは照れくさいのでしょうか。であれば、まずは両目を合わさずに片目だけ見てください。照れくささは半分になるはずです。そこからもう一歩積極的にアイコンタクトをして、相手の目から読み取れる情報を探ってください。顔の表情全体で理解し合うことのできない今だからこそ、目で聴き、目で語ることが大事になってきます。
 目で喜怒哀楽を伝える、目で詫びる、目で関心を伝える、目でイメージする、目で判断する。そして、それらの感情を目の表情で伝えるだけではなく、目から読み取るのです。デジタル時代、万能に見えるAIが当分はたどり着けないのが、電話における「声の表情」と、対面でのこの「目の表情」ではないかと私は思っています。この二つの表情は連動しているのです。

見つめる目線の トレーニング

 テレビ、パソコン、スマホばかり見て育った世代は動体視力が低下し、生き生きとした目の輝きが失われる傾向にあると聞きます。目ぢからの回復には、力を入れて瞬きをする。目を大きく見開く。にらめっこも大事なのだそうです。しっかりと凝視する感覚をつかむと照れがなくなります。その修練はコロナ後にも生きてくるでしょう。対面で挨拶する、真剣に聴く、特定の人に伝える、皆さんにではなく同席者個々に挨拶する、それらの場面での力強いアイコンタクトが、凝視のトレーニングで生きてくるはずです。
 心を可視化して表現できるのは目だけです。人は命を目に表し、死と共に目を閉じます。

※眼光紙背に徹す:書物に書いてあることを、表面だけでなく深意まで理解することのたとえ。読解力に長けていること。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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