電話応対でCS向上コラム

第22回 ハラスメントを予防する〈その3〉

記事ID:C10110

ハラスメントに関する訴えをどう受け止めるかについては、“聞き方”も工夫ができます。本人の感情、起きた事実、そして本人の望みをうまく聞き出すことで、話を整理することができます。

感情的になった若手社員の話を聞く

 職場の人間関係で悩む社員の話をどのように聞いて受け止め、不満や怒りを感じる状況を解決していくかは、ハラスメントのリスクを予防するもう一つのアプローチです。当事者の言い分を受け止め、状況を正しく理解することができれば、事態を長引かせて状況が悪化するというリスクを排除することができるからです。
 今回は、相談を受けた時に、私たちがどのような対応をしたら良いか、アサーティブな聞き方として具体的な方法を考えてみましょう。

若手社員が上司のパワハラを訴えてきた

 入社1年目の川下さん。上司である脇本さんのところに来て「主任からパワハラを受けたので、仕事ができない」と訴えました。主任は日頃から新人に厳しく接する人ではありますが、脇本さんからすればそれはパワハラであるとは思えません。川下さんの傷ついた気持ちも理解できるのですが、ここはパワハラだと受け止めるのではなく、これをばねに成長してほしいと考えています。
 脇本さんは、感情的になっている川下さんの話をどのように聞き、対応することができるのでしょうか。

気持ちを受け止め、言語化する

 最初に行うのは、川下さんの気持ちを受け止め、それを正しく言語化することです。
 「そんな風に感じるのがおかしい」「それは違うと思うよ」と、相手の感じ方を否定したり、すぐさま自分の意見を伝えたりはしないように。
 川下さんが感じたことは事実なので、まずは気持ちを受け止め、もやもやしている感情を「言葉に」していきます。「なるほど、それでショックを受けたのね」「◯◯があって、それが嫌だった、ということですね」。
 本人は傷ついて混乱しているかもしれませんし、腹を立て動揺しているかもしれません。しかし、その感情を適切に言語化(言葉にする)ことで、本人の気持ちが整理され、次の“事実”について話を進めていくことができてきます。ここはあくまで“そのまま”受け止めます。

どのような具体的な事実があったか確認する

 川下さんは、具体的にはどのような事実があってパワハラだと感じたのでしょうか。そのように感じてしまった川下さん側から見た事実を、丁寧に聞き出します。その時、川下さんが話しやすいように、選択肢を含んだ投げかけ質問を使いながら、具体的な事実を聞き出していくと説明しやすくなります。
 「例えば、主任の話し方がきつかったとか、ほかの人の前で叱責されたことが何度かあったとか、具体的に教えてもらえますか」などです。

本人は何を望むのかの要望を確認する

 事実を理解したところで、事実が正しいかどうかの判断は留保し、さらに本人の望みを言語化していきます。「それで、私にやってほしいことはありますか」など、川下さん自身が望むことを確認しながら丁寧に言語化します。
 これは、とても大事なプロセスです。本人は往々にして感情的になっており、その勢いで「辞める」などと言っている可能性があるからです。このように、気持ちを受け止めてもらい、事実を一緒に確認してもらい、その上で自分の望みを聞いてもらえることで、本人は徐々に落ち着いて状況を考えられるようになっていきます。

話してくれたことに感謝して、 話を引き取る

 最後に、話をしてくれたことに感謝して一旦話を終わらせます。ここで、話せて良かった、相談して良かったと思ってもらえれば、解決に向けての大きな一歩を踏み出したことになるでしょう。
 「言いづらかったのに、話してくれてありがとう。では私のほうで一旦引き取って検討してみますね」
 あとは、上長と相談しながら対応の仕方を検討していけば大丈夫です。
 主任を呼んで状況を確認し、主任の側の行動改善に結びつけることもできますし、再度川下さんと話し合い、何ができるかの具体的な対策を探っていくのも良いでしょう。
 以上のやり取りを、アサーティブでは積極的傾聴(アクティブリスニング)と言います。気持ちに共感しつつも、さらに深く質問し、仮説を立てながら事実と問題を明確にしていく。こうした傾聴の方法も、アサーティブに伝えることと併せてぜひ活用してみてください。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら