電話応対でCS向上コラム
第131回 「失敗を力にする」記事ID:C10138
人間は失敗する生き物です。でも失敗でダメになる人と、失敗によって大きく存在感を示す人がいます。発明王トーマス・エジソンは、失敗をめぐる多くの
「私、失敗しないので」
この言葉、どこかで聞いたことがあるな、と思われる方が多いでしょう。テレビ朝日系列で評判になったドラマ「ドクターX~外科医・大門 未知子~」で、米倉 涼子さんが演じるフリーランスの外科医・大門 未知子が、手術前に必ず口にするかっこいいセリフです。そして、このドラマでは、どのような難しい手術でも、彼女は決して失敗しないのです。
この決め台詞は、脚本家の中園 ミホさんのオリジナルでしょうが、偶然にも前出のエジソンの箴言にある言葉と一致するのです。そのスケールや舞台は全く違うにしても、このドラマがヒットした理由はこのひと言にあったような気がします。
失敗なのかミスなのか
自身を振り返れば、仕事でも日常の行動でも、数多くの失敗やミスをしてきました。この二つはどう違うのでしょうか。失敗とは、何らかの目的を持って挑戦したが、力不足などでうまくいかないこと、ミスは、不注意などでうっかりやってしまう失敗を言います。ものを取り違えたり、計算を間違えたり、約束を忘れたり、これらはみんな不注意によるミスです。加齢とともにこれが増えてきました。一方、失敗には常に大きな責任が伴います。目指している試験に失敗する、難しい交渉ごとに失敗する、ロケットの打ち上げに失敗する。これらの失敗は自分にも組織にも、時には国家的にも深い傷を残します。そしてこの失敗というリスクがあるからこそ、成功に大きな価値と感動をもたらすのでしょう。
世界遺産に許されない失敗
話は変わりますが、平成5年に、法隆寺とその周辺の建築物とともに、日本で最初の世界遺産に登録されたのが国宝姫路城です。白鷺城とも呼ばれる白亜の名城の大修理が、平成21年から5年半の月日と24億の工費をかけて行われました。中でも白亜の城を蘇らせる7万5千枚の瓦の漆喰工事は、大変な難工事だったようです。足場の悪い城壁にとりついて、左官職人たちは国宝を守ることに命を懸けていました。その様子が、NHKの「プロジェクトX」で2月8日に放映されました。それは、絶対に失敗の許されない重い仕事だったのです。誰にも転嫁することもできない責任を、一人ひとりの左官職人が背負って、黙々と漆喰を塗っていきます。見ていて涙が出ました。
何を目指すかの確かな目標と、自分がやるのだという責任感があれば、失敗はしないのだ。「プロジェクトⅩ」を見ながら、失敗という言葉の意味を、改めて考えました。
先達が残した失敗に関する名言
企業家として、政治家として、科学者として、スポーツ選手として、大きな功績を残した先達たちは、次のような名言を残しています(以下、敬称略)。
「失敗とは、成功する前に止めること。成功するまで続ければ必ず成功する」(松下 幸之助)。「私の現在を成功と言うなら、私の過去はみんな失敗が土台づくりをしている」(本田 宗一郎)。「失敗したことがない人は、新しいことに挑戦したことがない人だ」(アインシュタイン)。「失敗とどうつき合うかが大切だ。失敗の原因を第三者に向けるのではなく、自分に何が足りなかったか問うべきだ」(イチロー)。「成功で私を判断しないで欲しい。失敗から何度這い上がったかで判断して欲しい」(ネルソン・マンデラ)。「人生は敗者復活戦だ」(2022年、甲子園で優勝した仙台育英高校野球部監督の須江 航)。「かつて私は、選手たちに失敗しない方法を教えてきた。しかし今は、失敗してそこから学ぶ時代になった」(サッカーの日本代表監督として、ワールドカップを二度にわたって指導してきた岡田 武史)。
「AIは失敗しない」と言われます。であれば、人間は失敗から学ぼうではありませんか。
- ※ 箴言
- 「戒めの言葉」や「人生の教訓となる短い言葉」。

岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。