電話応対でCS向上コラム
チャットコミュニケーションと心理的安全性記事ID:C10159
チャットツールや生成AIの普及で、テキストのやりとりが仕事の中心になりつつあります。顔の見えない環境で心理的安全性を保つには、どうすれば良いか。今回はチャットで実践できる二つのコツをご紹介します。
顔が見えない時代の「沈黙」の重さ
昨今、生成AIの活用が広がり、業務でテキストを扱う場面はますます増えています。AIには気軽に質問できるのに、上司や同僚には聞きづらい——そんな皮肉な状況が、多くの職場で起きているのではないでしょうか。
ある若手社員が、チャットで上司に相談のメッセージを書いた。そんなシーンを思い浮かべてください。ところが、しばらく待っても上司から返信がありません。お客さまと約束した期限が迫る中、若手社員からすれば上司にリマインドするのも気が引ける…。「なにか、上司を怒らせるようなこと、してしまったかな…」と思い悩むわけです。
一方で、上司から見た景色は全く違います。「相談か。しっかり力になってやりたいから、ちょっと時間がある時に相談内容を読み込んでしっかり返事をしよう」と思って後回しに。しかし、日々の業務に忙殺されている中、気がついたらすっかり忘れてしまっていた…。
読者の皆さんにも、どちらかの経験があるかもしれません。上司としては、ただ忙しかっただけ。むしろ「漏れてたら、気軽にリマインドしてくれたら助かる」。けれども若手からすれば「上司が返事をくれない…」と、悲しいすれ違いが起こります。
対面であれば、うなずきや「ちょっと待ってね」の一言で伝わるサインが、チャットではゼロになります。あるいは、部下も対面であれば上司の忙しさを目の当たりにして「ひととおり落ち着いたら声をかけにいこう」と思えます。
つまり、リアルとリモートで、沈黙の意味が変わったのです。チャットにおける沈黙は「不在」と同じ、より踏み込んで言うならば「無視」にすら感じられます。反応のない環境では、次に声を上げること自体を躊躇するようになります。完成度が90点になるまで相談できない、在宅の相手に遠慮して連絡をためらう——こうした遠慮の積み重ねが、手戻りや仕事の遅れにつながります。
「反応」と「返信」を分ける
チャットで最も大切な原則は、まず反応を返すことです。ここで重要なのは、「反応」と「返信」は別物だという認識です。「返信」には理解や判断が必要です。時間がかかることもあるでしょう。一方「反応」は「相談ありがとう」「後ほど見ます」など、たった数秒でできます。本当に忙しい時は「承知」とスタンプひとつ、「あとで見ます」といったリアクション絵文字一つでも構いません。これがチャットにおける「うなずき」です。
忙しくて判断がすぐにできなくても「週明けまでには返信しますね」と一言伝えるだけで、相手の不安は大きくやわらぎ、次も声を上げやすくなります。
「受け入れ」ではなく「受け止め」へ
二つ目のコツは、メンバーの発言に対して、まずお礼を伝えて「受け止める」ことです。「共有ありがとうございます。そういう視点があるんですね」などです。これは「受け止め」であって、相手の意見への全面的な賛成、つまり「受け入れ」ではありません。受け止めた上で「その上で、私はこう考えます」と続ければ良いのです。
心理的安全性とは、同意できない意見に対して、それをなんでも「受け入れる=承認」することではありません。けれども「◯◯さんはそう思うんだね。ちなみに、どうして、そうした方が良いと思ったの?」と背景を掘り下げることや、掘り下げた結果、第三のアイデアが出てくることもあるかもしれません。
チャットでは語順が特に大事です。「でも」「いや」から書き始めるテキストは、対面以上に冷たく映ります。まずはお礼を一言、その上で自分の意見を言う。この順番を意識するだけで、同じ内容でも相手の受け取り方は変わります。今の時代ですから、言い回しに迷ったら、送信する前にAIに「こういう相手に、こういう状況で、こんな返信をしようと思うんだけど、どう思う?」と聞いてみるのも良いでしょう。
このようにチャットでは、対面なら自然にできていた「うなずき」や「ありがとう」を、意識して言葉にする必要があります。「反応する」と「受け止める」。まずはこの二つから試してみてはいかがでしょうか。
株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所 理事。武蔵野大学 しあわせ研究所 研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。