電話応対でCS向上コラム
心理的安全性と健全な衝突記事ID:C10162
心理的安全性のある組織は「ヌルい組織」ではありません。むしろ「建設的な衝突」が生まれる組織です。意見のぶつかり合いを「避けるべきもの」から「活かすもの」へ。健全な議論が生まれる条件を考えます。
あなたのチームで起きていること
あなたのチームで、こんな場面はないでしょうか。
若手メンバーが会議で切り出します。「この作業、もっと効率良くできると思うんですが…」。ベテランの先輩が即座に返します。「今のやり方でずっと上手く回ってきたんだ。リスクを取ってまで変える必要はないんじゃないか」。若手は「…すみません」と口をつぐみ、その場は静かに収まります。
ところが会議のあと、二人の間にどこかぎこちない空気が漂い始めます。若手は「余計なことを言うのはもうやめよう」と感じています。ベテランの方も「現場のことも分かっていないのに口を出された」と感じています。
管理職であるあなたから見れば、若手の発言は業務の進め方についての意見だったはずです。しかし気づけば「ベテランのやり方を否定した・された」という、人と人との問題にすり替わってしまっている。こうした場面に心当たりのある方は、決して少なくないでしょう。
衝突には種類がある
実は組織論の研究では、職場の衝突を大きく三種類に分けています。一つ目は「人間関係の衝突」。相手そのものへの感情的な対立です。二つ目は「意見の衝突」。仕事の中身や判断をめぐる対立です。三つ目は「進め方の衝突」。役割分担や手順をめぐる対立です。これらの研究によれば、三種類の衝突はいずれも、基本的には業績にマイナスの影響を与えます。
ところが、一つだけ注目すべき例外があります。心理的安全性のある環境に限って、「意見の衝突」が業績にプラスの影響を与えることが明らかになっているのです(図参照)。率直に意見を言い合える土壌があれば、異なる視点がぶつかることで議論が深まり、一人では到達できなかった結論にたどり着けます。
先ほどの場面を振り返ってみましょう。あの場で起きていたのは、まさに「意見の衝突」が「人間関係の衝突」に変質した、ということです。心理的安全性が低い環境では、仕事についての意見のぶつかり合いが、人と人とのぶつかり合いへ発展しやすくなります。逆に、心理的安全性がある環境では、意見は意見のまま扱われ、建設的な議論として深まっていきます。大事なのは衝突そのものをなくすことではありません。衝突の「質」を変えることなのです。
意見の衝突を活かす二つのコツ
では、管理職として、意見の衝突を人間関係の衝突に発展させず、チームの力に変えていくにはどうすれば良いでしょうか。日頃から意識できる二つのコツを紹介します。
一つ目は「人ではなく、意見について語る」ことです。「あなたは分かっていない」と言われれば、相手は人格を否定されたと感じます。しかし「その案の○○の部分が少し気になります」と言えば、議論の対象はあくまで意見そのものです。「あなた」から「その案」「その意見」に変えるだけで、同じ反対意見でも、相手の受け取り方は違うものになります。
二つ目は「反対意見への最初の一言を変える」ことです。「いや」「でも」から始めるのではなく、「なるほど、そういう見方もありますね。その上で」と、まず相手の意見を受け止めてから、自分の意見を述べる。ここで大切なのは、「受け止める」ことと「受け入れる」ことは違う、ということです。
心理的安全性とは、決して相手やメンバーの意見をなんでも受け入れ「(上手くいかないと思うけど)…いいね、やってみようか…」と言うことではありません。むしろ、すぐには同意できないことでも、一度受け止める。「聞きました」という合図を送るだけで、相手は「否定された」のではなく「聞いてもらえた上で、別の意見がある」と感じることができます。
衝突を恐れるのではなく、衝突の質を変えること。健全に意見を交わす力が心理的安全性を育み、組織の学習と成長を加速させます。
株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所 理事。武蔵野大学 しあわせ研究所 研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。