電話応対でCS向上コラム
第139回「がんばれコンクール!」記事ID:C10161
電話応対コンクールの出場者が、最盛期から見ると半減していると聞きます。「そうだよね。AIが応対する時代に、あまりにも時代遅れだ」という声も聞こえてきます。はたしてそうでしょうか?コンクールファンの一人として、今回はこのコンクールについて考えます。
コンクールは時代遅れか?
私とコンクールとのお付き合いは昭和53年に始まります。かれこれ半世紀、その間に今のコンクールの原型はほとんど変わってはいないのです。本音で言えば時代遅れと思ったこともありました。しかし、変わらずに今年は65回を迎えるわけですからそれだけ魅力があるイベントなのです。
しかしここにきて、劇的にAI時代が進行し、世の中が変わり始めています。電話といういわばアナログの通信手段がどう巻き返すか、正念場を迎えています。電話応対とは本来限りなくインプロビゼーション※のツールです。事前にお客さまとのやり取りが分かっている電話応対などありえません。それだけに、どうやってユーザーの支持を得て存続の説得力を持たせるかです。
コンクールは話し言葉を守る
令和に入って、日本の文化が急激に変わりつつあると感じます。音楽も芝居もアートも文学も、だんだんと通じなくなっているのです。単に私だけが、変化についてゆけなくなったのかも知れませんが、言葉までが通じないとなると、大きな問題です。そこでコンクールのパワーに期待するのです。テレコム・フォーラムにも何回か書きましたが、デジタル時代の進歩は、一方で日本語力の衰退を招いています。カタカナ語の氾濫、省略語や意味不明な造語などが野放図に巷に溢れており、それがコミュニケーションの断絶を生んでいるのです。日本語の視点からは、IT化の進む学校教育にもあまり期待は持てません。ネット社会には、日本語を壊しこそすれ守ろうという声は上がってきませんし、マスコミにも顕著な動きは見られません。唯一期待が持てるのが、全国に話し言葉の輪を持つ、ユーザ協会のコンクールだと思いたいのです。これからのコンクールは、日本語話し言葉を守るという意識づけを明確にするのです。そのために、生成AIの機能をどう活用していくかです。
コンクールと生成AI
コンクールに生成AIが選手として登場する可能性は十分考えられますが、それはあまり意味のない試みです。審査員としての起用も考えられますが、AIに信頼できる審査を任せるには、よほどしっかりした指導者が、確かなAI教育をしてからのことで、まずはAIを教育できる優秀な指導者を育てなければなりません。となりますと、残るベストな選択はAI模擬応対者の育成です。
生成AIの模擬応対者は、全国どこにいても対応できます。どのような問いにも柔軟に応えます。AI模擬応対者から良い答えを引き出したかったら、良い質問をしなければなりません。選手の訊く力。訊き出す力が問われます。それはまさに選手のインプロ力が審査されることになるのです。
現行のコンクールの、問題点の一つであるスクリプトを書いて覚えることは無意味になります。AI模擬応対者は最高の活躍の場を得られるのです。それはインプロ力の戦いになるかも知れません。それも面白いのではありませんか。
言葉は、本来もっと自由で多彩で広がりのあるものです。だがその割には今のコンクールは言葉を窮屈にしています。狭い枠の中で正解を作り過ぎるのです。
指導者の皆さんは、ベースとなる美しく、自由で、心地良い日本語を、AI模擬応対者にも教えてあげてください。
昭和の時代が作った電話応対コンクールは、日本語という素晴らしい言葉と、他を思いやる日本人の温かい心を守り育ててゆく素晴らしいイベントでした。しかし、デジタル化の波は容赦なく襲いかかります。守りを固めなければなりません。思いはあっても変えることには難しさがあるでしょうが、守りを固めながら、伝統のある電話応対コンクールを、日本語話し言葉を、ご一緒に守りましょう。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。