電話応対でCS向上コラム

第21回 ハラスメントを予防する〈その2〉

記事ID:C10107

本人が問題だと感じていないことを指摘しなければならない時に、伝える側のハードルは高くなります。どのように問題を共有し、解決の方向に向かっていくことができるのでしょう。

部下のパワハラに介入する

 ハラスメントの防止の観点として、一般的にはハラスメントの“加害者”と“被害者”という二項対立で捉えられることがほとんどです。
 前回でも触れましたが、ハラスメントのリスクは、放置すると“ブラック(違法行為や業務の範囲を逸脱した行動)”へと進んでいってしまいます。だからこそ、ことが大きくなる「前の」段階でハラスメントの芽を摘む必要があるのです。そこでもアサーティブな対応は役に立ちます。 

【事例】ベテラン部下が威圧的で困っている 

 佐藤さんはコールセンターで現場チームの取りまとめをしていますが、年齢も経験も異なるチームメンバー内の一人、非常に優秀なベテラン部下である丹野さんの言動に頭を抱えています。先日も、全員の前で新人を長時間にわたり叱責していて、ほかの派遣社員からも「丹野さんが怖い」という声を耳にするようになっています。
 現場のリーダーとして、佐藤さんは丹野さんに言動を変えてもらえるように話をしたいと思いますが、プライドの高い彼女にどう対応すべきか迷っています。

相手は「困った人」ではなく 「困っている人」

 ハラスメントリスクに介入する時に重要なのは、相手を“困った人”として対峙するのではなく、“困っているかもしれない人”と考えて対応することです。
 丹野さんの言動は確かに周囲に影響があり“困った人”であるかもしれません。しかし、彼女は彼女なりに悩みごとを抱えているかもしれません。その悩みごとにまずは耳を傾けることが、最初の出発点となるのです。丹野さんの言動の背景にある理由は何かを、自分が理解したいから教えてほしい、というつもりで聞きます。相手の悩みを解決し、一緒に職場を良くしていきたいのだ、というスタンスで話を進めていくと良いでしょう。
 「今朝ほど新人の〇〇さんにかなり長い時間指導をしていましたが、何かあったんでしょうか」
 それに対して丹野さん側の理由を聞くことができたら、しっかりと受け止めます。すぐに反論やソリューションを出そうとしないで、共感することを忘れません。
 「なるほど、そういうことがあったんですね。それは、大変でしたね。対応いただき、ありがとうございました」

問題に対する自分の懸念を 正直に伝える

 相手の行動に対する評価ではなく、自分が何を懸念しているのか正直に伝えます。
 「丹野さんの威圧的な態度」が本当の問題ではありません。丹野さんの言動の結果、「チームの若手メンバーに思った以上の影響が生じていること」が問題であり、その解決のために話をします。
 「若手メンバーが、『自分も怒られるんじゃないか』と思って、本来であれば丹野さんに聞くべき質問を私のところに相談にくるようになり、まずいと思っています」
 このように丹野さんという「人」が問題なのではなく、その結果「何が起こるか」「何が問題なのか」を具体的に伝え、それに対しての自分の懸念を言葉にします。

自分の責任も認める

 丹野さん一人を“加害者”にすることが、話し合いの目的ではありません。実現したいことは、若手が成長できるチーム、心理的安全性の高い職場です。その点においては丹野さん一人が責めを負うべきではありません。
 丹野さんに新人育成を任せっきりにしていた自分の責任もあるでしょう。若手自身もミスをしないように業務に取り組む努力が必要です。職場のコミュニケーションに関しては、誰もが当事者ですから、その点について言及することを忘れません。
 「私も丹野さん一人に任せて、フォローが足りなかったかもしれませんよね」などです。
 ハラスメントのリスク介入は、周囲にいる人たち一人ひとりが、自分も当事者であると意識することがカギとなります。小さな芽ほど対処のハードルは下がります。当事者として相手に寄り添い、対等な人間として相手を尊重しつつ、伝えるべきことはしっかりと伝えていく。それによって、私たち自身がリスク対応力をつけていくことができることを覚えておきましょう。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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