電話応対でCS向上コラム
第23回 どんな自分であっても大切にする記事ID:C10113
日常の中で特に自分が“不利な立場”に置かれる時には、伝え方の難易度が増してきます。どんな場面でも、どんな自分であっても大切にすることを忘れないでください。
自分も相手も尊重する
「アサーティブ」を定義すると、自分も相手も尊重しながら、自分の思いや意見を誠実に、率直に、対等に言葉にして表現する考え方と術すべとなります。私たち一人ひとりが、自分の尊厳を保ち、他者への敬意を持った振る舞いをすることで、多様性が認められる社会を土台から築いていくことにもなります。
その根本にあるのは、「わたしはわたしでOK」という出発点です。自分が何を大切にしているのか、何を伝えて、何を伝えないでおくのか、他者とどのような関係を持ちたいかを決めるのは自分自身の権利である。それが一番の根本にあります。
相手にイエスと言ってもらうことが、アサーティブの目的ではありません。自分にも相手にも誠実になって自己表現することが、アサーティブな姿です。それには勇気が必要になることもあります。
障害を持つ自分を大切にする
入社3年目の木村さんは、パニック障害を抱えています。学生の頃に発症して一度は寛解したのですが、就職してから再発するようになりました。今は、人混みが多いところ、新しい人と出会う場所については、できる限り避けるようにしています。
職場の上司には自分の事情を伝えて理解してもらい、窓口業務ではない内勤の仕事を任せてもらっているのですが、同僚や後輩には自分の状況を伝える気持ちにならず、なるべく距離を置いて仕事をしています。
とはいえ、仲の良い先輩の一人である山下さんは、木村さんを気にかけて何かと話をしてくれます。イベント参加や食事に誘ってくれるのですが、それを上手く断れないことに、木村さんは悩んでいます。
誘いを断る度に、山下さんは冗談っぽく木村さんに言ってきます。
「最近、付き合い悪くない?もう少し外に出たほうがいいよ」
行かない理由をあれこれ詮索されたり、付き合いが悪いと決めつけられたりすることは、木村さんの望みではありません。自分の障害についてはまだ話すつもりはありませんが、山下さんとの関係は良好にしたいと思います。どのように話すことができるのでしょう。
「苦手なんです」と率直に伝える
木村さんには選択肢があります。話してもよいし、話さなくてもよい。今は話すタイミングではないと思ったら、断るための理由を詳しく説明する必要はなく、「〇〇が苦手なんです」と、明るく答えるだけでOKです。
「そんなに苦手なの?なんで?」と突っ込まれたら、「詳しくは言えないのですが、私、ほんとうに電車が苦手なんですよ」。そんな風に、落ち着いてくり返せば、相手は「そうなんだ」と受け取り、それ以上踏み込んでくることはありません。
ここで大切なのは、自己卑下することなくさわやかに伝えることです。自分を大切にしながら、誠実に、素直に伝えます。相手との関係性を大切にしていれば、相手を尊重して伝えることは可能になります。
一人ひとりが尊重される組織環境を
障害を抱える当事者である木村さんが、自分の状況をいつ誰に開示するかは、木村さん自身が決めればよいことです。自分の障害について話してもよいと思ったら、そのタイミングで自分の状況をアサーティブに伝えてみてください。
「いつも私のことを気にかけてくださって、ありがとうございます。これまで話していなかったのですが、実は、私パニック障害を持っていて人の多い公共交通機関が苦手なんです。私が『行けない』と言う時は、『そうなんだ』って思って受け止めていただけますか?先輩とは、これからも良い関係でいたいので、大丈夫そうな時は自分から言いますので、その時はよろしくお願いします」
そんな風に、さわやかに、自己卑下することなく自分の状況を言葉にしてみると、相手は思った以上に肯定的に受け止めてくれるに違いありません。
信頼できる人間関係がある職場は、人が活かされる職場です。日常の小さなやり取りの中で、相手と誠実に向き合い、率直に、そして対等に言葉にすることが、信頼のかけ橋を築いていくことになるでしょう。自分の思いを伝えるかどうかは、自分が選びます。そして選んだ時には、アサーティブに伝える術があることを、覚えておいてください。
森田 汐生氏
NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。