電話応対でCS向上コラム
第24回 自己信頼を築く記事ID:C10117
これまでアサーティブなコミュニケーションについて解説してきました。最終回は、アサーティブを実践するために心に留めておいていただきたいポイントをご紹介します。
自己肯定感を持てない人が増えている
私が初めてアサーティブを伝え始めた20数年前、講座に参加する人のほとんどは女性でした。そして多くの人が、周囲の人間関係で悩みを抱えていました。夫、姑、子ども、友人、職場の上司や同僚に、「言いたいことが言えない」と感じて、アサーティブ講座に参加されていました。
時代が変わり、人々も職場の意識も変わりました。“パワハラ”や “セクハラ”という言葉が認知され、それを防止する法律や制度もできました。
それでも、多くの人が人間関係に葛藤し、コミュニケーションに悩む、という状況は変わりません。むしろ、分かりやすい「敵」がいなくなった分、状況が複雑化し、答えが見つからない中で、コミュニケーションの課題がとても難しくなっている気がします。
生きづらいのは自分の能力が足りないから、自分のコミュニケーションが足りないからと自信をなくして、自己肯定感が持てない人が増えているようにも思います。
自分をねぎらう方法を持つ
自己信頼が常に100%である人など、存在しません。どんなに元気で明るく見える人でも、心の中では悩んでいたり葛藤していたりするものです。自己信頼が上がったり下がったりは、いつでもあることなのです。
大切なのは、自己信頼が揺らぐようなできごとに直面した時に、どういう手当てをするかです。辛いからといって暴飲暴食をしたり、職場でいやなことがあって落ち込んだからといって家族に八つ当たりをしたりするなど、自分や他人を傷つける方向に走ってしまうと、あとで後悔や罪悪感にさいなまれます。
大きな落ち込みになる前に小さなリセットをかけてあげ、自分に優しくしてあげましょう。いざという時の備えのために、いくつか方法を考えてみると良いかもしれません。
自分に花束を買ってプレゼントする、おいしいものを食べる、スポーツジムで汗を流す、思いっきり泣ける映画を観にいく、など。
実際に書いてみると、結構自分に優しくする方法は身近にあることに気づくでしょう。
相談できる人を作る
これは私(著者)が以前、仕事に疲れ果てて燃え尽き寸前になっていた時のことです。
厳しい上司に毎日のようにひどく叱られ、いつまでたっても仕事が終わらず、睡眠時間を削る日々が続いていました。だんだん体がしんどくなり、自分でも何を感じているのか分からなくなり、心のマヒ状態となっていました。ある日、とうとう職場で涙が止まらなくなり、私は決心して、上司に3ヵ月の休暇を願い出ました。
休職している間に、私の辛い気持ちに耳を傾け、相談に乗ってくれたのは、一人の友人でした。私が落ち込んで泣いてばかりいた時にも、「そうか、辛かったんだね。でも、あなたは大丈夫よ、どうであってもあなたを好きだからね」と言い続けてくれました。
自分はボロボロになっていても、そのままの自分を本当に大切にしてくれる友人に救われました。そこで痛感したのは、「一人で抱え込まないこと」「しんどくなったら早めに相談すること」、そして、「相談できる人間関係を日頃から作っておくこと」でした。
それらを心がけていれば、思いもかけないことで足をすくわれても、大変な失敗をしてどん底に落ち込んでも、必ずまた前を向いて歩き始めることはできるのです。
無理してがんばることでも、落ち込まないようにすることでもなく、自分のありのままを認め、弱さも至らなさもすべてひっくるめた自分自身に、「それでよし!」と言ってあげることと、そんな自分を支えてくれる人間関係を持つことが、自己信頼を築くもう一つの道なのです。
人間関係はすぐには変わりません。自分という価値を見失うことなく、周りの人との信頼関係を作りながら、諦めず粘り強く問題解決に向き合っていくことが、長期的には、自己信頼を持った自分と、アサーティブな人間関係を生み出していくことになるでしょう。
たとえどんな違いがあろうとも、一人の対等な人間として向き合い、お互い理解し合おうと努力すれば、問題解決に向かっていける。そうした希望を持って、時間をかけて一歩一歩、アサーティブに歩き続ける人が増えることを願っています。
皆さんのこれからのチャレンジに、心からエールを送ります。
森田 汐生氏
NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。