電話応対でCS向上コラム

第119回「異説・ほうれんそう」

記事ID:C10103

ご存じの通り、「ほうれんそう」とは、ビジネスにとって欠くことのできない報告・連絡・相談を一括りにした社員教育の要諦で、山種証券の創業者・山崎 種二氏の次男、山崎 富治氏が発案したとして知られています。同様に確認・連絡・報告の「かくれんぼう」も聞きますが、「ほうれんそう」のほうが、新人教育の定番として全国に広まりました。今回は、この「ほうれんそう」の美味を、管理者の皆さんにもおすすめします。

一生のご馳走ほうれんそう!

 日本でも、女性の管理者が増えています。他の先進国に比べればまだまだ少ないようですが、私の知り合いの女性管理者の話をいたします。仮にМさんとしておきます。Мさんは地方都市にある中堅企業で部長職を務めています。決してバリバリのエリートではなく、むしろ真面目で地味なタイプでした。課長になったのも40代の終わり頃で、同期と比べても特に早くはありませんでした。しかし、それからの出世が早かったのです。環境保全、営業企画を経て、50代半ばで、その会社で初の女性部長になったのです。
 特に偉ぶる風もなく、物静かに普通に話すМさんは魅力的でした。課長時代の部下の一人から、Мさんのことを聞く機会がありました。その評判は、一言で言うと、人の話を実によく聴いてくれる上司だというのです。

聴いてくれる 話してくれる

 聴く力、話す力で部下から信頼される上司の存在は、珍しいことではありません。しかし、Мさんの評価は別格でした。心地よく話をさせてくれるのです。Мさんのほうから、さりげなく誘い水のように話題を振ってくれるのです。部下は張り切って話します。さらにМさんは関連情報を惜しみなく教えます。「そんなことまで言っちゃってもいいんですか?」と言いたくなるようなことまで話してくれます。「聴いていてドキドキしちゃうんです」と私に話してくれたかつての部下のSさんは、とても誇らしげでした。
 後日、その話をМさんにしましたら、「話すということは、ギブアンドテイクじゃないかしら。情報を与えなければ考えてはくれません。それに、そんなに隠しておかなければならないことってないんですよ」、Мさんはにこやかにそう言うのです。
 課内で新しい企画提案があると、Мさんは必ず皆にオープンにします。その企画が通ろうが否決されようが、Мさんはやはり皆にきちんと報告します。企画が通った時には、本当に嬉しそうに、また通らなかった時は、本当に残念そうに、Мさんは話してくれるのだそうです。その気持ちと経過を伝えて、課の全員で共有するのですが、そこから、新たな知恵とエネルギーが湧いてくるのでしょう。
 Мさんの考え方や姿勢は、まさに「ほうれんそう」そのものだと思います。その開放的な「ほうれんそう」でМさんは、部長への階段を、また一段上がったのだと思います。

上から下への「ほうれんそう」

 報告・連絡・相談は、円滑な社内コミュニケーションの要諦であり、中でも新人教育の定番として、「下から上に」するものとして教えられてきました。しかし、ある時期から、私は逆に「上から下に」することの重要性、有効性を感じるようになりました。それ以来、「ほうれんそう」の大切さを、新人研修ではなく管理者研修で話すようになったのです。
 「生成AI導入の可能性を探れ、と上から言われている。どうだろう、一緒に考えてくれない?」。もし上司にこう声をかけられたら、あなたはどうしますか。上司が自分に相談してくれた。それは部下にとっては最高にやる気を起こす場面です。さらに上司は、考えるのに必要な、関連する情報や資料を惜しみなくくれました。やがて、あなたが出した企画・提案は、部長会、役員会にかけられ検討が進んでゆくでしょう。気になる経過報告も、上司は許す範囲でしてくれたのだそうです。
 こうしてみてきますと、「ほうれんそう」は、新人教育もさることながら、管理者研修にこそ必要なのではないでしょうか。前述のМさんにお会いしたのは、もう10年も前のことです。企業には守らなければならない企業秘密がありますし、それぞれのセキュリティは厳然と存在するでしょう。Мさんのフランクさは、どこの職場でも真似ができるものではありません。しかし、「上から下へのほうれんそう」は、オープンな職場環境を生みます。そして、部下のやる気と思考力、発想力を育てるのではないかと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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