電話応対でCS向上コラム

第80回 「論述のコツ」

記事ID:C10006

テレワークやオンライン研修、それに自粛自粛で在宅率を高めている皆さんは、いつもと違う在宅時間をどのようにお過ごしでしょうか。旧知の男性リーダーの一人から、こんな質問を受けました。「家にいることの多いこの際ですから、苦手な能力を少しでも磨こうと思うのです」「それは素晴らしい!何を?」と問い返しますと「書く力です。特に論述が難しいです。ぜひそのコツを教えてください」今回はこの質問を取り上げました。

論述とは何か?

 相談を受けたものの、私の専門は話し方であって書き方ではありません。数冊の本の執筆と、本誌を含めた雑誌の連載などはしておりますが、平凡な書き手の一人に過ぎません。ただ、これまでも何人かの指導者から同様の質問を受けています。やはり論述は苦手な人が多いのでしょう。その時には次のようにお答えしています。「論述文を書くとは、基本的には話すと同じなのです。つまり、何を言いたいのかがはっきりしていること。そのことを平易な読みやすい文章で書くこと。煎じ詰めればその2点なのです」と。このことを、もう一歩具体的に「良い論述の5原則」としてまとめます。

① 論点が明快である(何を言いたいかがハッキリしている)。
② 経験を語る具体例が生きている。
③考え方に普遍性がある。
④簡潔で読み易い。
⑤ 読む人との距離感を近くする。

論理があり主張がある

 論述を書いたり述べたりすることは、なかなか厄介な仕事です。そこには確かな論理があり、主張があります。それが聞き手や読み手にしっかり伝わらなければなりません。それは難解過ぎても軽過ぎてもだめなのです。一口に論述と言っても、学術書や専門書に載る研究論文から、総合雑誌などに載る読み物的なものまで、そのジャンルも内容も多様です。専門家が読む前者の論述が難解なのは当然としても、一般読者が読む後者の専門家の文章が、難しくて読みにくいのにはいささか辟易することがあります。専門語や外国語、難しい漢語をちりばめて、あえて難しくした文章にも出会います。本当のプロとは、そのことに深い知識、情報、見識を持つだけではなく、そのことについて、易しく書けて、易しく語れなければなりません。

 NHKでの現役時代、「われら10代」という教育バラエティ番組を担当していました。その番組の構成並びに台本を書いていたのが、若き日の井上ひさしさんでした。井上さんが、自身の文章作法として言われた言葉(以前にもご紹介しましたが)を、今も忘れられません。「難しいことを易しく書く、易しいことを深く書く、深いことを愉快に書く、愉快なことを真面目に書く」現実には、易しいことをあえて難しく書く人が、なんと多いことでしょう。

 第二次世界大戦当時のイギリスの首相で名言家の、ウインストン・チャーチルの言葉も印象に残ります。「愉快なことを理解できない人間に、世の中の深刻な事柄が分かるはずがない」と。

 ラジオの時代も含めて、私もリポートや構成番組のスクリプト、放送台本なども書いてきました。その基本は常に聴き易く分かり易いことでした。論述や報告を伝えるそのノウハウは、先輩から後輩へ引き継がれ、今も生きているはずです。その方法は以下のとおりです。

1⃣与えられたテーマ(ねらい)を考える。
・ なぜそのテーマか。何を求めているのか。それをしっかり押さえて、それについて自分が言いたいことを決める。

2⃣自分が経験した具体例を探す。
・ 自分の中に取材する。集めた具体例を捨てて捨てて、芯となる具体例に絞る。

3⃣ その具体例から、自分が気づいたこと、学んだことを明確にする。
・ 必要に応じて、書籍、資料などからの引用を効果的に使う。

4⃣広く共感を得られるように、普遍化させる。
・ 最後は、自分がどう生きるか、どう行動するか。自分の決意、主張で締める。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら