電話応対でCS向上コラム
第73回「省略される言葉たち」「全国的に“サ高住”が急増しています」と言われて、何のことかお分かりでしょうか。“サ高住”とは「サービス付き高齢者住宅」のことで、この省略語を最近新聞などでも見かけるようになりました。初めて見た時には「何?これ」と思った言葉も、だんだん慣らされて違和感を感じなくなります。違和感を感じない人が増えてくると、そのうちその言葉は認知されて、大手を振ってまかり通るようになります。言葉の乱れの始まりです。
増える省略語?
省略語を生み出す大本は圧倒的に若者たちでしょう。どこかで誰かがつぶやいた一言が、燎原(りょうげん)の火の如くインターネットを通じて広まり、またある時は、新聞、テレビ、週刊誌が意図的に省略した新しい言葉を生み出しています。NHKの番組でも「あさいち」「しぶ五時」「クロ現」などは、省略されたほうが番組名として馴染まれています。
若者たちが生み出した省略語はまた、インパクトがあります。令和で明けた正月の賀状には、今年も「あけおめ」という省略賀詞が飛び交っていました。
カフェでコーヒーを注文する時に「ホット、ありありで」と言います。「コーヒー一つ。砂糖とミルク入れてください」などとは言いません。イマイチは「今一つ」の略で、若者に限らず年配者も普通に使っています。用法が広がって、ゴルフでナイスショットをした時などに「きょうイチだね」などと言います。
センスの良い省略語
省略語にもセンスを感じる言葉もあります。「彼、最近あいうえおなんだよ」何かと思ったら(愛に飢えた男)のことなのだそうです。「フロリダ」とは、風呂に行くのでしばらくラインから離脱すること。
「また今日もぼっち席か」(ひとりぼっちの席)。孤食の若者が増え、学食(これも省略語)やレストランでも、窓や壁を向いた一人用の席を設ける店が増えているそうです。「ぼっち席」、何か哀感がありますね。
「リスケたのむよ」(スケジュールの見直しを頼む)。この言葉も簡潔で響きもよく、定着しそうな省略語です。テンポよく仕事が進んでいる時に使う「サクサク行く」などもきれいな響きの良い言葉ですね。女性の活躍の場が増えたせいか「〇〇女」が大流行りです。天文が趣味の女性をソラミちゃんと呼ぶのもきれいなネーミングです。
定着してきた省略語
セクハラ、パワハラもほかに言い換えようもないほど使われています。就活、婚活、終活という言葉も後戻りしそうもないほど定着しました。
バイトも、正式呼称であるアルバイトと言う人はほとんどいません。むしろバイト先、バイト敬語、バイト代など、省略語のほうが大手を振っています。ヤバいなども、その意味を広げながら認知されつつあります。
省略語は教えるものではなく、意識的に流行らせるものでもありません。時代にフィットした言葉がある時期使われ、また消えて行きます。中には上記の言葉のように定着するものもあります。ある企業の営業担当の男性が、お客さまと電話で話していて「それってマジすか」とつい普段のタメ口が出てしまい、本人ではなく上司が後で厳しいお叱りを受けたという話も聞きました。
省略語や流行語は決してすべてが悪いものではありません。ただ言葉に厳しいお客さまは必ずいます。安易なタメ口が癖にならないように、大切に使いたいものです。
言葉については保守的に
省略語について、社会時評的に見てきましたが、皆さんがお客さまとの会話でこうした言葉を使われることはまずないでしょう。しかし、お客さまの言葉が分からないことはあり得ることです。電話応対者は言葉のプロです。省略語や流行語についても常に敏感にアンテナを張っておいてください。言葉の流行は常に易きに流れ、面白さを追うものです。美しく豊かな日本語をともに守りましょう。
10年前、電話応対技能検定がスタートする時に、私どもは一つの確認をいたしました。「日本語は常に揺れ動いている。その変化をしっかり捉えつつも、もしもし検定は、基本的には保守的なスタンスを守り続けよう」と。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。