電話応対でCS向上コラム

第55回「短いセンテンスで話す」

センテンスって何?

 辞書で「センテンス」と引くと、「文、文章」と載っています。昔、英語の授業などで、「このセンテンスのつながりは…」などと説明された記憶があります。でも大人になってからの日常会話ではあまり聞きませんね。つまり、「センテンス」という言葉は知っていても、皆さんが日常的にこの言葉を意識することはあまりないと思います。

 私のいた放送の世界では、センテンスとは句点から句点までの一文のことを言います。そしてこのセンテンスを短く話すことは、情報伝達者として、アナウンサーが心しておかなければならない基本の一つでした。主語と述語が離れ、一センテンスの中に修飾句がいくつも入る日本語では、長いセンテンスの文章は伝わり難いのです。

一センテンス一情報

 若かった現役時代、リポートや中継をする時には、「センテンスは短く話せ」と常に言われたものです。「だらだら話すな!一つの情報は一つのセンテンスに収めて句点を打て!」と。それが「一センテンス一情報」という言葉で表した、分かりやすい話し方のコツでした。「話は言葉で理解するのではない。『間』で理解するのだ」という原則があります。ですから、句点を多く打って「間」をとる必要があるのです。

 実況中継などでは、「句点は平均5秒に一回打つ」ことが努力目標でした。それができた時、中継もリポートもテンポの良い無駄のない放送になります。

 例でお話ししましょう。アナウンサーが横浜港に中継に出ています。まずAアナの中継です。「私は今、横浜港の中央桟橋に停泊しているパナマ船籍のMSCスプレンディダという13万7,936トン、全長333.3メートル、定員は4,363人の巨大な豪華客船の前に来ています」

 次にBアナです。「横浜港に来ています。中央桟橋に巨大な船が停泊しています。パナマ船MSCスプレンディダです。13万7,936トン、全長333.3メートルあります。豪華客船です。定員は4,363人です」。いかがでしょうか。Aアナは一センテンスで、Bアナは六センテンスで話しています。分かりやすいのはどちらであるかはっきりしていますね。

4分15秒を一センテンスで話した市長

 かつて取材したS市の成人式で、雄弁家と言われる市長の祝辞を録音したことがあります。延々と話が続きました。最大一センテンス4分15秒。これは記録です。もちろん市長にセンテンスの意識はなかったでしょう。そして雄弁に語られたのです。

 話し方教室や話し方研修、話し方のノウハウを記した本は数多くあります。そこに共通して書かれていることは、狙いを考える、情報を集めて絞る、何を話すかを判断する、組み立てを考える、分かりやすい言葉で話す、などのノウハウです。ところが、「短いセンテンスで話す」というコツに触れている文献は意外と少ないのです。センテンスを短く切って話すことで、話がいかに明快に伝わるか、ぜひ試してみてください。この時、切り方にコツがあります。センテンスが長くなるのは、無意識に、「が」「ば」「たり」「ので」などの接続助詞を多用しているのです。センテンスが長くなりそうでしたら、接続助詞はひとまず封印して、句点を打ってセンテンスに区切りをつけます。その上で接続詞を使ってつないでいくのです。ただセンテンスは常に短かければ良いわけではありません。ショートメールなどに慣れ過ぎると、しっかりとした文章が書けなくなってしまいます。何事も場に応じた対応が必要でしょう。

改まるほどにセンテンスが長くなる

 ところで、日本語の書き言葉、話し言葉では、改まるほどに長いセンテンスの文章になることが多いのです。あれもこれもと情報を盛り込み過ぎたり、さまざまな修飾句を付け足したり、それを接続助詞でつないでいくために長くなります。その結果、主語と述語がどんどん離れてしまって、両者のつながりが分かり難くなります。本当に伝えなければいけない情報は何か、それを整理して絞り込むことが必要です。情報が多い電話応対コンクールの問題などでは、情報の取捨選択力とともに、短いセンテンスで伝える表現力を問われるでしょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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