電話応対でCS向上コラム
第10回 心を伝える添えことばを電子メールの時代になって、単刀直入に本題に入る文章が多くなりました。その影響で、話しことばでも、心くばりのひと言やメンタルな表現は、避ける傾向があるように思います。はたしてそれで良いのでしょうか。そこに「ひと言を」添えるか添えないかで、話し手の印象が大きく変わる例はいくらでもあります。意味内容には関係がないひと言が、心を伝えるには大きな意味を持つのです。その添えことばのうち、話の前に付けることばと、後に付けることばについて見てみましょう。
事前に添えて気持ちを和らげることば
久しぶりの休暇を家でくつろいでいるBさんのところに、後輩のT君から電話がかかってきました。「A社のSさんのケータイ番号知りませんか」――そんなことで休暇の人間に電話してくるなよ!と、Bさんは機嫌が悪くなります。このときT君が「お休みところを申し訳ありませんが」と事前にひと言添えてから頼めば、Bさんは気分を害することはなかったでしょう。事前に添えることばには他に「夜分に申し訳ございません」「今お話してもよろしいでしょうか」「とっくにご存じでしょうが」「このようなことを申し上げて失礼とは存じますが」「大変勝手ではございますが」「お叱り覚悟で申し上げます」などがあります。先方の状況や気持ちに心を配って、少しでも相手に負担をかけそうなときには、本題に入る前に、そのひと言で、それとなく気持ちを和らげておくのです。
事後に添えて好感を得ることば
反対に話の後に添えて、相手によい余韻を残し、好感を持って頂くひと言があります。「話が長くなって申し訳ございませんでした」「貴重なお時間を有難うございました」「要領の悪い説明で申し訳ございません。お分かりになって頂けましたでしょうか」「説明が行き届かず失礼致しました」「お話が出来て本当に良かったです」「またぜひお話を伺わせてください」――事後には、こうしたひと言を、気持ちをこめて惜しみなく添えてください。
添えことばをパターン化させない
応対中に「少々お待ちください」と言って、電話を保留にすることがあります。そして再び応対に戻るときに、ほとんどの人が「お待たせいたしました」と言います。ところが、このひと言が、パターン化して事務的で、ただ言っているだけに聞こえるのです。5秒お待たせしても1分お待たせしても同じ言い方なのです。これでは添えことばがかえって不満の原因になります。状況の見えない電話では、常に柔軟な心くばりのひと言が大事です。ひと言をさり気なく添えられるように、語彙を増やして積極的に添えてください。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。