電話応対でCS向上コラム
第143回「声離れが進む!」記事ID:C10173
若者の活字離れという言葉が問題化し始めたのは、昭和の末期頃でしょうか。テレビ文化が華やかに賑やかに幕を開け、漫画・劇画のブームと相まって、若者の足を書店や図書館から遠ざけました。そして今、インターネットの普及、メッセージングアプリの台頭、爆発的なスマートフォンの浸透、そして驚異的なAIの登場が、人声という血の通った通信手段を、マイナーなツールにしてしまいました。声離れが進んでいるのです。今回はこの声離れについて考えます。
電話は書き言葉のツールになった
昭和、平成の電話応対は、話し言葉によるコミュニケーションツールとして、ビジネスに、プライベートに、日本中隈なく広がり普及し、政治に経済に娯楽に、大きな役割を担ってきました。「声は人なり」というコピーが評判になり始めたのもこの頃です。人と人とをつなぐ「声」が注目されたのです。時代が進んで平成から令和になると、通信手段は大きな変革期を迎えました。SNSの普及で、話し言葉に代わって書き言葉が、メインツールになったのです。
さらに、AI時代を迎えて、1000年の昔から私たちが守り受け継いできた話し言葉自体が、本来の機能を失いつつあるのです。電話の多くが、語彙の少ない書き言葉で済ませるようになり、音声は豊かな表現力を失くしつつあります。
匿名性の強いインターネットでは、誤解からくるトラブルも増えていると聞きます。
人類の歴史は話し言葉に始まる
ご存じの通り、人類のコミュニケーションは20万年の昔から、伝えることを主目的とした話し言葉に始まります。書き言葉の歴史はほんの5000年ほどです。それはまだまだ不完全なものかも知れません。私は学者ではありませんので、確たる証拠は持ち合わせませんが、でも、あれだけ文字言葉が栄えた日本の歴史を見ても、話し言葉にこそ、深い知恵と情とがあったのではないかと思えるのです。そしてその話し言葉を支えたのが「声」です。それは情と共に伝えられてきたはずです。それだけに、AIというまだまだ発展途上のツールに簡単に乗り換えることに、私は不安を覚えます。
良い声を作るポイントは響き
素敵な声、きれいな声、聴きやすい声を作る最も重要なポイントは、声の「響き」だと思います。私はアナウンサーの現役時代、「いい声ですね」と言われたことは一度もありませんでした。むしろ自分の声にはコンプレックスを持っていました。しかし、現役を退いてから、電話の相手の方から「流石アナウンサー、いい声してますね」と、お褒めをいただくことがしばしばあるのです。しかし、私自身は自分の声がいい声だと思ったことは一度もありません。
中堅アナ時代、アナウンスの指導に当たっていた大先輩のアナウンサーが、自他ともに美声との評価の高い有名アナウンサーを指導している場に同席したことがあります。
その指導は辛辣でした。「いい声出すな! いい声出したら伝わらない!」。聴いている私が怖くなるような厳しい指導でした。所詮いい声には縁がなかった私ですが、アナウンスでも電話応対でも、いつも気をつけていたことは、普通の自分の声で、聴き手に向けて普通に伝えよう、ということでした。「普通に」くらい難しいことはありません。でもその意識が、声を出すのに一番楽でした。体調の良い時には、それなりに響く声が出ていました。
魅力的な声を作るポイント
あっという間に、私たちの周りにAIが溢れてきました。AIが人間を真似るのではなく、人間のほうがAIを真似る感があります。いくら真似てもAIには出せない人間の声を鍛えていかなければなりません。声帯医学の権威、米山 文明さんの指導を受けたことがあります。
良い声を作るには、「発声器官と全身の鍛錬が必要だ」と断言されました。一例を挙げれば、基本は母音の「アエイウエオアオ」です。自分の出しやすい高さで「ア・ア・ア・ア・・・・」と、スタッカートでもよいので発音してみてください。声帯がピンとします。これを続けることで若々しい声と体が作られます。米山さんの話をもう一つ。フランスの作曲家レイナルド・アーンの言葉です。「音程が狂っていても、声が悪くても、とことん自分の感情を込めて歌う人の歌は、それなりに人の心打ち、よく聴こえるものです」。声は心の表現なのです。
岡部 達昭氏
日本ICTテレコムユーザー協会電話応対技能検定委員会検定委員。NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。