電話応対でCS向上コラム

「声かけ」からつくる心理的安全性

記事ID:C10171

心理的安全性づくりと言うと、制度や風土といった大きな話に聞こえるかもしれません。しかし実は、今日の「一言」から始められるのです。今回は、職場の声かけを2種類に分けて捉える考え方をご紹介します。

報告がなくなる会話

 ある職場で、機器のトラブルを発見した部下が、上司に報告した。そんなシーンを思い浮かべてください。上司は部下の報告に対してこう返事をします。「なんでそんなことやらかしたんだ」「気をつけろって、いつも言ってるよね」。
 上司に悪気はありません。むしろ再発を防ぎたい一心で、指導のつもりで言っています。しかし、報告した部下から見ると、どんな景色が見えるでしょうか。勇気を出して報告したのに、怒られるだけで助けてもらえない。ここで部下が学ぶのは「報告するだけ損だ」ということです。
 こうして、報告は減っていきます。トラブルそのものが消えるわけではなく、報告されなくなるだけ。問題は水面下に隠れ、大きくなってから発覚する。再発を防ぎたいはずの一言が、かえって組織のリスクを育ててしまうのです。

声かけには2種類ある

【図:2種類の言葉(きっかけ言葉・おかえし言葉)】参照資料: 原田 将嗣(著)、石井 遼介(監修)『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)2022年

 このすれ違いは、上司の人柄の問題ではありません。言葉の選び方の問題です。職場の声かけは、その働きによって大きく2種類に分けられます。
 一つは「きっかけ言葉」。望ましい行動を、行動の前に促す言葉です。もう一つが「おかえし言葉」。起きた行動を、行動の後に受け止める言葉です(図参照)。
 これらは、二つでセットだと考えてください。「きっかけ言葉」は行動を促しますが、行動は一度起こしただけでは定着しません。もしも、せっかく促した行動が罰や不安で迎えられれば、二度目はないでしょう。例えば、「いつでも相談してね」と言われて相談に行ったら「後にして」と冷たい反応だったら、「それでも次は相談しよう」とはなかなか思えないでしょう。忙しい時でも「相談ありがとう。今はちょっと難しいのだけど、急ぎでなければ明日の10時からではどう?」と、「おかえし言葉」があるのとは大違いです。
 このように、起きた行動をきちんと受け止め「次もまたやろう」と思える声かけ。それが「おかえし言葉」です。
 相手が「よし、やろう」と思えない依頼、何をすればいいかよく分からない依頼は「きっかけ言葉」として働きません。行動した相手を萎縮させる応答は、「おかえし言葉」として逆効果です。冒頭の上司は、部下の「報告」という望ましい行動を、意図せず罰で迎えてしまっていたのです。

報告が「次もまた」に変わった現場

 ある製造業の開発部門での出来事です。部長は日頃から、メンバーにこう声をかけていました。「トラブルや困ったことがあったら、報告・相談大歓迎だから教えてね」。これが「きっかけ言葉」です。
 開発工程の終盤、担当者が意を決して報告に来ます。「ある操作をすると、不快な振動が出ることが分かりました…」。完成間際の悪い知らせに、部長はこう返しました。「今発見できて、それはちょうど良かった」。起きた行動を受け止める、「おかえし言葉」です。
 すると、担当者からこんな言葉が返ってきました。「そう言ってもらえると、次も言いやすいです」。適切な「おかえし言葉」が、次の報告へつながった瞬間です。そして注目したいのは、この最後の一言もまた、部下から上司への立派な「おかえし言葉」だということ。上司も「こういう、心理的安全な対応ができて良かったな」と思え、行動が続きます。声かけは、上司からメンバーだけのものではありません。誰もが今日から使える、チームづくりの道具なのです。
 明日、誰かに何かを頼む時「きっかけ言葉」を、誰かの報告を受ける時「おかえし言葉」を、意識してみてください。あなたの一言が、チームの次の行動をつくります。

石井(いしい) 遼介(りょうすけ)

株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所 理事。武蔵野大学 しあわせ研究所 研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。

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