電話応対でCS向上コラム
エンゲージメントの本質と心理的安全性記事ID:C10168
部署のエンゲージメントスコアを前に「もっと数字を上げなければ」と頭を抱える管理職は多いものです。けれども、エンゲージメントとはそもそも、何のことなのでしょうか?
エンゲージメントは「体重」
人的資本経営の重要なKPIとして多くの上場企業で計測されている「エンゲージメント」という概念があります。しかし、エンゲージメントとは何なのか、何に効くのか、なぜ測るのかはあまり語られることがありません。エンゲージメントとは、社員が仕事に対して感じる熱意や、組織に対して感じる愛着のことを指します。
エンゲージメントは「体重」とよく似ています。重要な指標ではありますが、それ自体が目的ではありません。本当に重要なのは「健康」という結果・成果のはずです。また、体重を「改善しろ」と命じても簡単には変わらないのと同じように、エンゲージメントは直接コントロールすることができません。運動や食事という具体的な行動を変えることで健康状態が改善するように、エンゲージメントも日々の行動が変わってはじめて改善します(図参照)。
筆者はこれまで、多くの組織のエンゲージメントを向上させるお手伝いをしてきました。その中で、最も重要なはずの「健康」という大目的・得たい結果を設定しないままエンゲージメント施策だけを進めていたり、調査までは行うものの実際にエンゲージメントを上げる施策まで手が回っていなかったりといった状況を、よく目の当たりにしました。
【図:エンゲージメントと組織の健康の関係】
「仕事への熱意」と「組織への愛着」
ひとくちにエンゲージメントといっても、実は中身は複数あります。代表的なのは、仕事そのものに向かう「ワーク・エンゲージメント」と、組織への一体感を意味する「組織コミットメント」の二つです。 ワーク・エンゲージメントは、目の前の仕事に対する活力や熱意、没頭を意味し、チームや個人のパフォーマンスと強く関連します。
一方の組織コミットメントは、会社や組織への愛着で、定着や離職の抑制、組織全体の成果に効きます。冒頭で「健康という大目的を考えることが重要」とお伝えしましたが、エンゲージメントも同じで、上げたい成果に応じて、どのエンゲージメント指標を見るべきか、考える必要があります。
心理的安全性が、エンゲージメントを上げる
では、何を「運動」とすればよいのでしょうか。同僚同士のサポートや上司のリーダーシップなど、さまざまな要素はありますが、実は二つの主要なエンゲージメントどちらにも効くのが、心理的安全性です。日本企業を対象に筆者らが実施した大規模調査でも、心理的安全性はワーク・エンゲージメントと組織コミットメントの双方を強く後押しすることが分かりました。
具体的には「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」という四つの因子に紐づく、日々の行動です。例えば「助け合い」が低い職場では、業務の負荷が一部の人に偏りがちです。ピンチの時も誰にも相談できず抱え込み、属人化が進み、徐々に意欲が削がれていく。これがエンゲージメントの低下として表れます。
逆に、助けを求められる職場では、負荷が分かちあえます。助けてくれた相手に理由を言って感謝を伝えれば、相手の挑戦意欲もまた高まっていく。こうした地味な積み重ねが、数字を動かしていきます。
実際、NTTのグループ企業と伴走させていただいた際、管理職を中心に心理的安全性を継続的に高めた結果、経営陣から「エンゲージメント調査の数値が大きく改善した!」というお声をいただきました。スコアを直接動かそうとするのではなく、その手前の行動を変えていく。この順序こそが、確かな手応えを生むのです。
エンゲージメントは数字を眺めるためのものではなく、組織・チームを動かすための合図です。健康=「エンゲージメントを上げる目的」をあなたはどう考えますか? そして、運動=「どのようなアクション」を取ってみたいですか? 日々の小さな行動の積み重ねが、やがてエンゲージメントという数字にも表れてきます。
株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所 理事。武蔵野大学 しあわせ研究所 研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。