電話応対でCS向上コラム
第142回「語感で勝負!」記事ID:C10170
話し言葉は、意味のほかに微妙な感覚や、音の響き、リズムによって、聴く人に与える印象が違ってきます。それを「語感」と言いますが、話し言葉を磨く時に、この語感に拘る人が意外に少ないように思います。今回はこの語感について考えます。
ChatGPT(通称チャッピー)の登場
このところ、毎回、触れずにはいられないのが、生成AIの驚異的な進歩です。政治、経済、科学、教育、芸能、スポーツなど、さまざまな分野にAIは容赦なく入り込んできます。人間まがいの存在感を示すチャッピーは、人間の判断力まで支配しているように見えます。それは若者の世界の流行と思っていましたら、今や堂々と大人社会にその存在感を示しているのです。もちろん電話応対も例外ではありません。ただ、半年前、1年前のそれとは、状況が違います。チャッピーの成長が異常に早いのです。
インプロ力まで身につけた?
1年前には、「AIの電話応対と人間の応対とはどう違うか」などを真剣に考えていました。ところが今のチャッピーは、「間」を学び「アクセント」を覚え、「あいづち」をうち、「インプロビゼーション」まで分かっているのではないかと思うほど進歩しているのです。今年の電話応対コンクールの準備では、チャッピーを模擬応対者にして、研鑽に励んでいる選手が何人もいるのです。こうなりますと、コンクールの勝敗を分けるのは何でしょうか。狙いに沿った的確な解釈、お客さまを思う心配り、きれいな話し方、見事な組み立て。それらは今も昔も変わらぬコンクール審査の重要なポイントです。
しかし、見分けがつかない精巧なフェイク動画まで作る昨今のAIの進歩を考えますと、それらの条件も容易にAIがクリアしそうに思えます。となると勝敗を分けるのは何でしょうか。私が今大事にしているのは「語感」です。
語感が伝える人の「情」
「語感」とは、聴き慣れない言葉かも知れませんが、意味以外の、言葉から受ける感覚的な印象を言います。
話し言葉にとって、声の高低、緩急、強弱、大小、明暗、表声、裏声、息の声などの使い分けは非常に大事ですが、話し手の心情までも伝えられるのは、この「語感」なのです。しかし、お礼やお詫び、お願いのシーンがよく出てくるコンクールの応対で、感動するほどの語感表現はなかなか聴かれません。文言を練り上げて、何度も何度も、繰り返し練習なさるのでしょうが、語感として聴く限りは不自然さがぬぐえません。
俳優の仲代 達矢さんは「言葉には鮮度が大事だ」と言っています。電話応対は常に本番です。だからこそ鮮度なのです。新鮮な語感表現によってお客さまは感動と好感を持ってくださるのです。
敬語より敬意が大事
敬語は知識があれば使えますが、敬意は語感によって伝わります。大事なのは敬語より敬意です。文字文化優先で育った私たちは語感を軽視してきました。ことに心を伝える「ありがとうございます」「すみません」「お世話になっています」などの使い慣れた言葉の語感表現には鮮度がなく、ただ「言いました」だけになっているのです。語感表現がしっかりできた話し言葉は、丁重な文字言葉より、はるかに生き生きと聴き手の心に届きます。
とは言いましても、話し言葉は習慣です。日頃から語感を意識して話していませんと、かえって不自然な話し方になります。
語感表現で意味が変わる
語感による意味の違いについては、以前に触れたことがありますが、復習します。
赤いバラと白いバラは、「赤」と「白」という色の言い方が違います。東京の銀座と銀の皿の「銀」は違います。銀座の「銀」は地名であり、皿の「銀」は鉱物名です。白い雲の「白」と白いドレスの「白」は、違う「白」です。「チョコレートが好きです」と「あなたが好きです」では、同じ好きでも、全く違う「好き」です。従って語感による表現が全く違うのです。
ほんの一例を挙げましたが、日本語話し言葉では、こうした心情的な言葉の語感が大事になってきます。語感は、名詞にも動詞にも、形容詞にも副詞にもあります。
語感表現を磨くためには、書いた文字で言葉を覚えないこと。つまりマニュアル言葉やスクリプトに頼らず、言葉の表す気持ちを、場に合った自然な言葉で伝えてください。細やかな語感表現は、お客さまにきっと喜ばれるでしょう。
岡部 達昭氏
日本ICTテレコムユーザー協会電話応対技能検定委員会検定委員。NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。