電話応対でCS向上コラム

第7回 自己表現の権利について

記事ID:C10066

私たちが感じること、考えることを言葉で表現することは、私たちの権利です。ただし「相手の表現の権利を侵害しない限りにおいて」を意識しなければなりません。

アサーティブネスと権利は 深く結びついている

 アサーティブコミュニケーションには、「自己表現の権利」が土台にあると言われます。「権利」と聞くとちょっとピンとこない、という方も多いかもしれません。なぜ「権利」なのかと、不思議に思われるかもしれませんね。
 アサーティブなコミュニケーションの理論をさかのぼると、実は「権利」の考え方と深く結びついていることが分かります。
 アサーティブネスの理論はアメリカを発祥地としていて、もともとは精神医療や心理学の領域で活用されていました。自己表現の権利という社会的な考え方と結びついたのは、アメリカ社会で人権擁護運動や女性解放運動のうねりが高まっていた1970年に出版された『Your PerfectRight』(ロバート・E.アルベルティ、マイケル・L.エモンズ)の影響があります。
 この書籍はアメリカでミリオンセラーとなりました(本書は版を重ね、現在では第9版になっています)。「Your Perfect Right」を意訳すると、「あなたはあなた自身であってよい、それは権利である」ということになるでしょうか。どのようなバックグラウンドを持って生まれようとも、一人の人間として自分が感じること、考えること、希望や願いについて表現することは、自分自身の権利である、という内容となっています。
 この本は日本語訳されましたが、タイトルが直訳されることはありませんでした。日本語版は『自己主張トレーニング』となり、残念ながら「権利」という言葉がタイトルになることはありませんでした。

自分と相手を尊重する 権利と責任がある

 私(筆者)が最初にアサーティブネスの考えに出会ったのも、一冊の本でした。
 1980年代にイギリス国内で大ベストセラーになっていたのが、『AWoman in Your Own Right』(日本語訳は『第四の生き方』AnneDickson 著)という本でした。「女性だから」「若いから」「上司だから」「部下だから」など、役割や立場によって自分の主張をためらったり、反対に防衛的になって相手を攻撃したりするのでなく、自分も相手も尊重しながら落ち着いて主張することは可能であり、大人になっても学ぶことができるというものでした。
 当時の私は常に、相手が嫌な気持ちにならないようにどう伝えたらよいかを考えていたのですが、この本を手に取り、自分の思いを言葉にするのは自分の権利である、というメッセージに触れて、目から鱗が何枚も剥がれ落ちたのを覚えています。
 書籍には、「私たちの権利」という章があります。「私たちには感じること、考えることがあり、それを表現することは権利である」というものです。
 例えば、以下のようなものです。
・自分の役割にとらわれることなく、感じることや考えることを言葉にする権利
・一人の対等な人間として、敬意をもって扱われる権利
・周囲の承認に縛られることなく、自分の意思を決定する権利
・間違える権利、感情を表現する権利、そしてアサーティブでない自分を選ぶ権利
 それと同時に、私たちが自分の考えや意見を主張する際には、「相手の権利を侵害しない限りにおいて」ということを覚えておく必要があります。つまり、これらの権利は自分にも相手にも同じようにあり、それを私たちは意識する責任があるということです。

アサーティブの考えは多様性や 心理的安全性と親和性がある

 以上の観点から、アサーティブな考え方やアプローチは、これから社会がますます多様化していく中で、十分に活用ができるだろうと思います。
 多様性を推進していくということは、一見素晴らしいことのように聞こえますが、実際にはとても難しいことです。なぜならば、多様性を理由に一人ひとりが主張を始めると、ぶつかりや対立が必ず増えていくからです。そこで、自分も相手も尊重して対話を進めるのは、容易なことではありません。
 多様性を絵に描いた餅にしないためには、私たちが対立やぶつかりを乗り越える“(すべ)”を持つ必要があるでしょう。お互いを尊重したアサーティブな主張のスキルは、対立を解決していくための方法の一つとなるのです。意見の異なる相手を攻撃したり、反対に言葉を飲み込み諦めたりすることなく、権利を持つ対等な一人の人間として向き合いながら、誠実に、率直に言葉を尽くして話し合いを進める力。そうした権利の考えが、アサーティブの土台にあることを、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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