電話応対でCS向上コラム

第18回 前向きに「ノー」の交渉をする

記事ID:C10098

頼まれた仕事に対して「ノー」を伝えるためには、まずは状況を正しく聞いて判断すること、その上で双方が満足できる解決策に向かってアサーティブに交渉していくことを、覚えておきましょう。

「ノー」を伝えられないことは信頼を失うリスクがある

 仕事上の頼まれごとを断るのは難しいものです。相手との関係上言いづらい(上司や取引先だから)、自分の立場上断るべきではない(責任者だから)、「できない」というのは自分の評価を下げることだ、と考えて「ノー」の交渉ができなかったことはないでしょうか。
 反対に、我慢に我慢を重ねた結果、「いい加減にしてください」と爆発してしまった、顧客からの無理な要求を「できません」と一方的にはねつけたなど、攻撃的にならざるを得ない場面もあると思います。
 「イエス」と言ったにも関わらず、できない結果になることは、仕事上の信頼を失う恐れがあります。とはいえ一方的な「ノー」は相手との関係を悪化させてしまいます。相手との信頼関係を保ちつつ、双方が満足する結果を導き出すために、適切に「ノー」を伝えるスキルを持っておきましょう。

例えば…先輩から 急な仕事を頼まれた

 入社2年目の酒井さん。まじめで人当たりの良い性格だからか、先輩の吉村さんから何かと仕事を頼まれます。吉村さんは入社当時から相談に乗ってくれた先輩なので、酒井さんとしても吉村さんからの頼まれごとはなかなか断ることができません。今日も「明日の会議で使うデータを、申し訳ないけど、代わりにまとめてもらえないかな」と頼まれました。つい「はい」と言ってしまいそうでしたが、このまま引き受けると、今自分が抱えている仕事が遅れてしまいそうです。先輩にどのように「ノー」を伝えたらよいのでしょうか。

相手の依頼内容を正しく確認する

 「私も忙しいので…今日はちょっと…」とやんわり断ったとしても、「ごめんね、こっちも今日は忙しくて。なんとか頼むよ」と押し切られてしまいそうです。
 ここでは、イエスかノーかの結論を出す前に、相手の依頼内容を正しく把握することが、第一歩となります。吉村さんの言う「明日の会議で使うデータ」とは、どれくらいの分量なのか、いつまでなのか、何に使うものなのか、など、判断に必要な材料を得るために質問することが先決です。
 最初は相手の言葉をいったん受け止めるところから始めます。「会議で使うデータですね。ちなみに、データの分量としてはどれくらいでしょうか。簡単なまとめでよいですか、それとも資料も含めた詳細なデータが必要でしょうか」「明日の会議ですが、ギリギリいつであれば会議に間に合いますか」などです。
 依頼の内容を正しく理解できたかどうかの確認作業も怠りません。「ということは、データ分量としてはスライド2、3枚程度、会議のスタートが11時なので、ギリギリ10時に先輩に提出すれば会議に間に合うということですね」。このように状況を正しく理解することができれば、自分の判断も明確になってきます。

自分の状況を具体的に説明する

 次に、自分が置かれている状況を具体的に説明します。合わせて、引き受けた場合に生じるリスクについても伝えておくとよいでしょう。例えば、「実は今、X社と Y社からの見積もり業務を抱えており、加えてデータのまとめとなると本日中のX社対応に支障が出てしまい、私としてもそれは避けたいと思います」と、自分の判断を具体的に説明していきます。
 先輩の状況、自分の状況を、それぞれ“見える化”するのだと考えるとよいでしょう。

双方が満足する代替案を出す

 その上で、代替案を提示していきます。自分だけが、あるいは相手だけが満足するのではなく、「明日の会議にデータをそろえる」という共通の目的に向けて交渉していきます。「私としては X社への対応は本日優先したいので、データのまとめは明日の朝イチで作成し、10時までに先輩に提出するというのはいかがでしょうか」。
 アサーティブな「ノー」は、相手という「人」に対しての言葉ではなく、「依頼されたこと」に対して対等に交渉する言葉であることを忘れないでいてください。その上で、自分ができることは責任を持って協力する姿勢も持ちます。共通の問題解決のためにこそ、「ノー」を伝えます。その意味で、「ノー」は建設的、かつ対等な対話であり、自分も相手も尊重した対応の一つであることを覚えておきましょう。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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