電話応対でCS向上コラム

第12回 アサーティブに対話をする先にあるもの

記事ID:C10081

相互尊重のコミュニケーションであるアサーティブな話し方。自分も相手も尊重することを出発点とし、最終的には誰もが尊重される社会を目指しているのです。

自分も相手も大切にする

 あらためて「アサーティブなコミュニケーション」を定義してみましょう。
 原則は、「自他尊重」です。つまり、自分自身の感情、考え、価値観を大切なものとして扱い、同時に相手の感情、考え、価値観も大切にする。相手の言い分に耳を傾けながら、自分の考えを誠実に、率直に、対等に伝えて、問題解決に向けて話し合う。
 そうした私たちの振る舞いや関わり方の土台にあるのは、「私たちは一人ひとり異なっていて、それぞれが価値ある存在である」という前提です。アサーティブネスの古典と言われる書籍、『Your Perfect Right』(M.L. エモンズ、ロバート・E.アルベルティ)のタイトルを意訳すると『あなたがあなた自身であることは権利である』となり、まさにアサーティブの思想を表すものになっています。
 多様化が進む社会の中ではさまざまな利害関係が存在し、対立を避けることはできません。その中で、こちらの正しさを証明するために相手を黙らせるのでもなく、反対に「自分が我慢すればいい」と思って口をつぐむのでもなく、たとえ答えがすぐに出なくても、時間をかけて話し合い、相互の信頼関係と問題解決に向かって話し合う、それがアサーティブな向き合い方なのだとご理解ください。

コミュニケーションは「点」ではなく「線」

 もう一つ、コミュニケーションは「点」ではなく「線」であることも覚えておきましょう。
 その場の話し合い(点)と、それをつなげていった関係(線)は、最終的にどこに行きつくのでしょうか。私たちはなぜ、言いづらいこと、対立が想像できることも、あえて話し合うというプロセスを選ぶのでしょうか。
 私が個人的に思っているのは、点を結んだ先には希望があるから、という気がします。お互いが尊重される関係、そして一人ひとりが尊重される社会。私たちが希望を持ち、あきらめないで対話を続けることは、最終的には誰もが価値ある存在として尊重される社会を目指しているから。だからではないでしょうか。
 線であるということは、何度でもやり直しができることでもあります。
 今日言い過ぎてしまったら、翌日「ごめんね、昨日は言い過ぎたよね」と言えばよい。今週失敗したら、来週もう一度チャレンジすればよい。それがたとえ半年後、1年後になったとしても、私たちが本当に望むもの、点をつないだ先にある希望を見失わなければ、失敗しても何度でもやり直して進んでいくことができるはずです。

対応の仕方を知ることで自信をつける

 スキルを身につけることは、生きる自信につながります。
 少し話がそれますが、20年ほど前、ある病院の看護師を対象に、アサーティブ・コミュニケーション研修を行い、研修効果の測定を行ったことがありました。45名の看護師を対象に、研修の前と研修終了6ヵ月後に調査を行い、研修を受けなかった看護師層との差異を測定するというものでした。
 その結果、受講した看護師は受講しなかった人に比べて、「個人的達成感(職務に係る有能感や達成感)」と、「自己尊重感(自分を大切にできること)」について、優位な変化があるという結果が得られたのです。
 また、コミュニケーション上では、「交渉する力」と「正当な批判を受け入れる力」が、いずれもアップしていました。
 コミュニケーションのスキル、つまり対応の仕方を知っていることは、人間関係の問題解決に対応する自信につながります。たとえぶつかったとしても、「自分は対応できる」と感じることができれば、大きく揺らぐこともありません。
 とはいっても、コミュニケーションは私たちのクセが影響し、難しい場面ではいつものクセが出てきます。方法を学んだとしても訓練しない限り、なかなか身につけることはできません。アサーティブなコミュニケーションは「練習して身につける」ものだとおすすめするのは、それが理由です。
 次回からは、具体的なケースを取り上げながら、身につけていくための実践的なお話を紹介していきましょう。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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