電話応対でCS向上コラム
第10回 耳の痛い言葉に対応する(その2)記事ID:C10075
批判の言葉の意図を正しく理解できれば、問題解決の方向に進んでいくことができます。上手く対処できれば、批判は自分が成長するためのプレゼントになるでしょう。
相手の言葉の意図を聞き出す
耳の痛い言葉に対して、「こんなことを言われた」「そんな言い方しなくても」と、相手の言葉や言い方に反応してしまうと、アサーティブに対応するのが難しくなります。批判への対応は、アサーティブのスキルの中でもハードルの高いものの一つです。相手の言葉やモノの言い方に感情的に反応してしまい、その場で反撃するか、傷ついて黙るかのどちらかに陥りがちだからです。
批判への対応の仕方を身につけることは意味があります。なぜならば、アサーティブに対応できることで、批判してくる相手を敵にすることも、自分が犠牲者となる必要もなくなるからです。相手のきつい言葉を受け止めつつ、自分の尊厳を保ちながら対処することは、可能であるということを知っておきましょう。
アサーティブな批判の対処には、基本的には次の三つのステップがあります。①相手の言葉を受け止める、②同意できるかできないかを判断する、③話し合って問題解決をしていく。相手への敬意を保ちつつ、自信をもって問題解決に向けて話し合うことで、お互いの信頼関係を築いていくことができるのです。
同意できるかできないかを判断する
前号では、批判の言葉を「受け入れる」のではなく、「受け止める」やり方について書きました。相手の言葉を受け止めた上で、次に行うのは判断し、対処することです。
実際批判の中身をよく聞くと、「確かにそうだと同意できる」ものもあれば、「それは事実に反しているので、同意できない」ものがあります。それを検証してみましょう。
例えば「こんな失敗をするなんて、あなたはいい加減だ」という批判の言葉はどうでしょう。「確かに今回は、○○という失敗をした、それは同意できる」、「でも、私がいい加減な人間だということについては、同意できない」と、いったん自分の心の中で判断することができます。
また、批判の言葉について、白か黒かの決着をつける必要はありません。批判の言葉は、抽象的であいまいなものや、相手視点に偏ったものが多いからです。あいまいなメッセージは受け取る側を混乱させ、対応は難しくなります。
そこで、「具体的には何があったのか」「どんなことで、相手はそう思ったのか」について、一歩踏み込んで聞いてみましょう。聞いてみると、「なるほど確かに」と思うこともあるかもしれませんし、相手も「聴いてくれた」ことで、怒りが静まることもあるのです。
大切なのは、耳の痛い言葉を言った相手と敵対することではなく、この問題が生じた出来事や背景について、真摯に話し合おうとする姿勢そのものなのです。
問題解決のためにこそ、批判の対処はある
私たちが批判に対処するのは、誰が正しいかの決着をつけるためではありません。そこにある問題を解決し、良好な関係を築いていくためです。相手を敵だと考える前に、立ち止まって考えてみましょう。
相手はこの状況を心配しているのかもしれない。
成長してほしいと願っているのかもしれない。
自分の知らないところで、何か問題があったのかもしれない。
何らかの課題があり、その課題を一緒に解決しようと思って相手と向き合うことができれば、私たちの姿勢も誠実で対等なアサーティブなものになっていくはずです。
アサーティブな対応法を身につけることは、自分が状況に対して無力ではないことを思い出させてくれます。「批判された事実」ではなく、「批判の中身の事実」の問題解決に向かって一歩踏み出すことができるからです。
批判へのアサーティブな対処は、対処の結果、より良い職場環境や人間関係を作っていくためにこそ使いたいもの。批判を怖がる必要はありません。アサーティブに受け止めることで、批判の矢も自分が成長するためのプレゼントに変えていけるはずです。
森田 汐生氏
NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。