電話応対でCS向上コラム
第9回 耳の痛い言葉に対応する(その1)記事ID:C10072
耳の痛い言葉を受けた時に、反撃するのでもなく、黙って言葉を飲み込むのでもなく、お互いを大切にしながら粘り強く話し合っていく。それがアサーティブな対応となります。
批判への対処法を知る
自分に対する耳の痛い言葉は、たとえそれが正当なものであったとしても、手放しで受け入れることは難しいものです。いわれのない批判や一方的な決めつけの言葉に傷ついた、という経験を持つ人も少なくないでしょう。顧客応対の担当者であれば、クレーム応対の仕方について訓練していても、後ろにいる上司から「こんな書類は全くダメだよ」と突然言われれば頭が真っ白になり、思わず反論したくなるのではないでしょうか。
こちらの心の準備ができていないタイミングで批判の言葉が飛んでくる時や、相手の善意は分かるけれど自分にとっては耳が痛いなどの場合は、なおさら対応が難しくなります。心の中で「分かるけど、でも、納得がいかない」と感じても、それを言葉にすることは大変に難しいことです。
たとえ自分にとっては「耳が痛い言葉」であったとしても、言うほうも受け取るほうも事情はさまざまです。お互いの関係が揺らぐリスクのあるこうした場面でも、相手を尊重しながら、誠実に、率直に、対等にアサーティブに対処し、批判の言葉の陰に隠れている本当の問題を明確にして話し合っていくこと。それがアサーティブな批判の対処なのです。
反応のクセを知る
批判に対してアサーティブに対応するための第一歩は、自分の反応のクセを知ることから始まります。
批判の対応が難しくなる理由には、私たちの心の中の受け止め方のクセが影響しています。「自分が否定された」と思って防衛的になり、躍起になって自分の正当性を主張しようとすると“攻撃的”な反応となりますし、反対に「どうせ自分がダメなんだ」と自信をなくして自己嫌悪に陥ると、言葉を飲み込み沈黙するという“受身的”な反応となってしまいます。
批判のアサーティブな対応は、こうした自分の心のクセを認識し、思わず反撃したり黙ってしまいそうになる場面で、「ここではアサーティブに対応しよう」と自分の対応の仕方を選べる力のことです。反撃しない、黙らない。問題解決のために話し合う選択肢と覚悟を持つ。そこがすべての出発点となると覚えておきましょう。
批判の言葉にアサーティブに対応する
批判に対処する第一歩は、相手の批判の言葉に耳を傾けることです。会議などの席での厳しい批判や、上司から一方的なダメ出しを受けた時に、批判の言葉をきちんと受け止めることができれば、話し合いはぐっと生産的な方向へ進んでいきます。
まずは、“相手からの批判の言葉=(イコール)自分”ではないことを、覚えておきます。批判は自分を否定することではありません。相手が自分に対してそのような意見を持っていて、それを「相手はそう思っているのだな」と認識して受け止めるのが、第一歩なのです。
「受け止める」とは、必ずしも「受け入れる」ことではありません。自分の胸の前で、自分の手で相手のボールをパシッとキャッチする、そんなイメージです。
一呼吸おいて、「確かにそうかもしれませんね」と、はっきり言葉に出してみるとよいでしょう。
「そうでしたか、そのように感じられましたか」
「なるほど、確かにそれも一理あるかもしれません」
その時に、おどおどしたり、反対にけんか腰になったりする態度だと、こちらの真摯さが伝わっていきません。大事なのは、「あなたの言い分に、私は耳を傾ける準備があります」という姿勢で、相手と向き合うことなのです。
相手には相手なりに、伝えたいメッセージがあります。それに同意するかしないかは別として、まずは相手の意見を「大切なもの」として受け止める。
それが、アサーティブの「自分も相手も尊重する」出発点であると覚えておいてください。
具体的な対応については、次回に続きます。
森田 汐生氏
NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。