電話応対でCS向上コラム

第8回 感情を言葉にする力

記事ID:C10069

自分の感情を適切に言語化することは、アサーティブなコミュニケーションの重要な柱です。感情を適切に言葉にすることで、お互いの“温度感”を合わせやすくなります。

温度感を合わせるのが難しい

 文字コミュニケーションが主となるリモートワークでの課題の一つに、「お互いの温度感を合わせるのが難しい」ことが挙げられます。
 日々、対面で一緒に仕事をしていれば、表情やしぐさ、声のトーンなどから、相手がどう感じているかの気持ちを理解することができます。自分が何かを伝える時も、表情を曇らせたり、声の抑揚を上げ下げしたりすることで、こちらの気持ちを表現しやすくなります。
 チャットやメールで少し砕けた表現を使ったり、絵文字を入れて気持ちを表したりなどの工夫をしている方もたくさんいます。特に言いづらいことを伝える場面では、言葉の使い方、表現の仕方によっては、相手に冷たい印象を与えてしまうため、多くの方々が非常に気をつかって言葉を選んでいるようです。
 それでも、リモートワークの中では、こちらの温度感が伝わらない、相手の本音が分からない、お互いの気持ちのやり取りが難しい、という声を数多く聞きます。「大丈夫です」「分かりました」という返事に対して、「本当に大丈夫なのか、分かっているのだろうか」と考えつつも、それ以上に踏み込んで確認できずに困っている、というような声です。
 こうした伝わりづらさは以前も存在していましたが、文字コミュニケーションが主流となるにつれ、ますます顕在化してきたというのが現状ではないでしょうか。

感情を適切に言語化する

 温度感を合わせるためのコミュニケーションとして、必要なものの一つが「感情の適切な言語化」です。
 アサーティブなコミュニケーションの一つに、「自分の感情を適切に表現する」というポイントがあります。自分はどう思うのか、どう感じているのかを、適切な言葉にして表す。それは、アサーティブな自己表現の柱となる部分でもあります。
 職場では、論理的で分かりやすい表現が求められるため、私たちは自分の感情を言語化することをおろそかにしがちです。情報共有や小さな問題の指摘であれば、感情ぬきでも十分に伝わるのですが、こと、温度感が異なる相手に言いづらい話をする時は、ロジックだけでこちらの思いを表現することは難しくなります。
 例えば、新しい作業手順を守らないベテラン社員がいたとしましょう。これまで何度か「守ってください」と伝えていますが、なかなか行動が変わりません。このような相手に改善を求める時、何を意識して伝えればよいのでしょう。
 ことの重大性を説明することに加えて、ここでは自分が持っている危機感の大きさを言語化することを意識してみてください。自分はこの状況に対して、どれほどの懸念や危機感を持っているのか、不安や恐れがあるかを適切な言葉にするのです。その上で、相手自身が事態をどのように考えているのかを、丁寧に聞いていきましょう。

自分を主語にして話す

 感情の言語化とは、「みんなが迷惑しています」「やめてください」という攻撃的な表現(これを「Youメッセージ」と呼びます)ではありません。
 「この状況を私は非常に心配しています」「ミスが起きるのではと、毎日ひやひやしています」という表現(「I メッセージ」)で、自分を主語にして話しましょう。自分自身の感情に正直に向き合い、相手を攻撃しない形で表現することが、アサーティブな感情表現となるのです。
 起きている問題に対して、自分自身がどう感じ、どう思うのか。それは、私たちが自分自身に正直になることからしか始まりません。アサーティブな表現は、相手をどう変えるかではなく、自分がどう感じて何を望むのかを、適切に言葉にすることが出発点だからです。
 そのためにも、感情を表す語彙を増やしていきましょう。自分の状況を適切に表現し、相互の温度感を合わせていくためにも、感情を表現する力をつけていくことをぜひ意識してみてください。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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