電話応対でCS向上コラム
第5回 コミュニケーションにおける自己責任記事ID:C10061
「相手が…だから、自分はこうなる」と、物事を“相手軸”でとらえていると、自分がどんどんしんどくなります。「相手が…だから」ではなく、「自分はどうしたいのか」。“自分軸”を立てて、自分の望みを言葉にしていきましょう。
相手軸にすると自分が被害者になる
職場の隣の席にいる同僚が、仕事と関係のない話をしてきます。仕事の話から始まり、上司や取引先の愚痴、プライベートの悩みなど、いつも最低20分くらいは聞かされます。そのたびに仕事を中断され、本当に困っています。
こんな時、あなただったらどうするでしょう。「いい加減にしてください!」と言うわけにはいきませんから、忙しそうな様子を見せて相手に察してもらうとか、用もないのに席を立つなど、作為的に伝えますか。それとも、相手の気持ちを優先し、相槌を打ちながら話を聞いてしまうでしょうか。
このような状況で私たちは、自分が困るのは相手のせいだと考えたくなります。「相手が話しかけてくるから仕事が中断される」、「相手が困っているから聞いてあげないといけない」。これは、相手の状況に自分を合わせる“相手軸”の考えになります。一見、優しさの表れのように見えますが、この関係が続くと、「なぜ自分はこんな目に遭うのだろう」と、相手から迷惑を被っている被害者になってきます。すると、相手に対する不満がどんどんたまっていき、ある日突然爆発するか、相手を避けたり嫌いになったりと、お互いの人間関係までぎくしゃくしてしまうことにもなりかねません。
「相手のせいで自分は…だ」と考える限り、いつまでも相手に振り回されることになります。相手に何か伝えようとすると、「相手が変わるべき」という攻撃的なものになるか、「あきらめる」という受身的なものになってしまうでしょう。
コミュニケーションにおける自己責任
アサーティブなコミュニケーションでは、「相手がどうか」の“相手軸”ではなく、「自分はどうしたいのか」という“自分軸”から始めます。「相手は…だ、に対して自分は何を望むのか、どうしたいのか」が出発点となるのです。自分の望みを明確にするのは、自分自身です。その望みについては、誠実で率直な「言葉で」表現していきましょう。
双方向のコミュニケーションでは、「相手が(あるいは自分が)100%悪い」ということは、ほとんどの場合ありません。双方が関わっている状況なので、先の「一方的に話しかける同僚」であれば、自分にも「聞き続けてきた」という責任があります。相手のせいで自分の仕事ができない、のではなく、自分が「今は聞くのが難しい」を言わないできたために、この状況が続いていると考えるほうが、次のアクションに結びつきやすくなります。
会話の責任は自分にもある。それを意識すれば、むやみに相手を責めたり、自分が相手の犠牲になっていると考える必要はなくなってくるのです。
「聞きたい気持ちはやまやまなのですが、今は…を仕上げたいので、一息ついたら僕のほうから声をかけますね」。そんな風に率直に、さわやかに言葉で表現してみましょう。相手が悪いからでも、迷惑をかけていることを分からせるためでもなく、自分が何を望むのかを正直に、誠実に、言葉にすること。それが、お互いの人間関係を尊重したアサーティブな対応となることを覚えておきましょう。
問題は小さなうちに早めに対処する
「たいしたことはない」と自分の気持ちをごまかす癖はなくしていきましょう。我慢した期間が長くなればなるほど、「あの時もこの時も」と過去の出来事を持ち出して、相手を責めたくなります。相手としても「実はずっと聞くのが嫌だった」と言われたら、とても困惑してしまうでしょう。
言わなかったのは自分自身です。それを自分の責任として引き受けた上で、あくまで「今は…で難しい」「今後は…でお願いしたい」と、相手を尊重しながら言葉にすることを意識してみてください。
変えられるものは、現在と未来です。現在の問題を話し合いで解決したいのであれば、過去のことを持ち出して相手を責めるのではなく、現在と未来について建設的に話しましょう。
積み重なった問題を持ち出すことにはエネルギーも準備も必要ですし、人間関係を揺るがすリスクも高くなります。積み重なった問題にどのように対処するかは後半で論じていきますので、まずは、「ことが起こったら、なるべく問題が小さなうちに、早めに」、自分軸にしてアサーティブに対処することをおすすめします。
森田 汐生氏
NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。