電話応対でCS向上コラム

第4回 関係をつなぐ「ノー」の伝え方

記事ID:C10058

「ノー」の気持ちを率直に伝えられないことが続くと、人間関係にまで影響を及ぼすことがあります。お互いのため、そして良い結果を出すためにこそ「ノー」を伝える。そのための、アサーティブな対応の仕方について考えてみましょう。

相手を尊重しながら 「ノー」を伝える

 相手の依頼やお誘いに、「ノー」を伝えるのは難しいと感じる時はないでしょうか。相手が気を悪くするのでは、関係が悪化するのでは、能力がないと思われるのではと思って、言葉を飲み込んだり、言いづらくて後回しにした結果、「ノー」をうまく言えずに人間関係でストレスをためてしまうこともあるでしょう。反対に、思い切って伝えようとして一方的できつい言い方となり、その後の関係がギクシャクすることになった、などもあるかもしれません。相手の気持ちや善意を大切にしつつ、自分の考えや気持ちを大切にして意見を伝えるというのは、どのような伝え方になるのでしょうか。

相手の気持ちを受け止める

 例えば「あなたのためになるから」と、お世話になった人からセミナーのお誘いを受けました。
 「忙しいので無理です」と、結論だけを言うのは攻撃的な対応となります。反対に相手の気持ちを考えて自分が我慢するのは、受身的な対応となります。アサーティブであれば、相手の気持ちを尊重しながらも、自分の「ノー」を率直に伝えます。
 その最初のステップは、相手の気持ちを受け止めることから始めます。「お誘いいただきまして、ありがとうございます。お気持ちは大変嬉しいです」
 相手と誠実に向き合って、相手の善意に感謝しましょう。〈気持ち〉を受け止め、〈お誘い〉は断る。そう考えれば、逃げ腰になることなく相手と向き合うことができそうです。言いづらいのであれば、「せっかくお誘いいただきながら、大変申し訳ないのですが」と自分の気持ちを開示することで、次の言葉が出やすくなります。

「ノー」の的をしぼり、代替案を出す

 次に、自分の中の「ノー」の理由をはっきりと説明します。相手の依頼やお誘いの、「何」に対して「ノー」なのでしょうか。日程、時間、内容、あるいは参加費の問題なのか、明確にさせるのです。
 なんとなくでは相手もこちらの真意を測りかね、「自分のことが嫌なのだろうか」と別の憶測をしてしまいます。断りたい理由を具体的に、的をしぼって伝えることで、相手に納得してもらいやすくなるのです。
 自分の理由が日程の問題の場合は、それを率直に伝えましょう。その時、語尾まではっきり言うことも大事です。「今は忙しいんで…」と、「…」で濁さず、最後まで言い切ることで、相手はこちらの状況を理解しやすくなります。
 また、自分の「ノー」を伝えることは、裏を返せば自分の「イエス」を明確にすることです。参加の時間帯が難しいのであれば、どの時間帯ならOKかの代替案を示すことで、前向きな形で話を終えることができます。
 「平日の日中の時間に同様のセミナーがありましたら、ぜひまたお声掛けください」
 真摯な態度で前向きに伝えていけば、今後の関係をつないでいくことができるはずです。

自分自身が誠実になることから

 責任感の強い人も、「ノー」を言うことをためらいがちです。「新人だから/リーダーだから、断ってはいけない」、「ここで『ノー』と言ったら評価が下がる」と自分を縛ったり、あるいは、「無理をすればできるから」と、自分の「できる、できない」の境界線を上手く引けなかったり、という人もいます。
 だからこそ、アサーティブでは自分自身に誠実になることを出発点とします。自分は本当にできるのか、自分は本当にどうしたいと思うのか、自分の胸に手を当てて考えてみるのです。その上で、やっぱり「ノー」と心が決まったら、誠実に、率直に、アサーティブに伝えましょう。決まらなければ、「決まらないので、少し待ってください」で構いません。
 出発点は常に自分です。自分自身が「難しい」と感じるのならば、それを大切にしてください。反対に、「難しいけどやる」という選択肢もあるでしょう。いずれにしても、自分自身が納得して選んだのだからこそ、誰をも責めることなくアサーティブに「ノー」を伝えることができるのです。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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