電話応対でCS向上コラム

心理的安全性を築く「きっかけ言葉」

記事ID:C10174

心理的安全性を高める声かけには「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の2種類があります。
今回は相手の背中を押し、行動を促す「きっかけ言葉」に焦点を当てます。

悪気のない一言に、部下の手が止まる

 後輩や部下に仕事を任せる場面を思い浮かべてください。忙しい朝、つい、こんな一言で済ませていないでしょうか。「見たら分かるよね。行ってきて」。ベテランには当たり前でも、新人には見て分かるとは限りません。
 「これ、やっといて」。作業だけを渡すと、背景や目的が分からないまま仕事を進めることになります。応用や軌道修正ができなくなってしまいます。「気が利かないなあ…」と感じることすらあるかもしれません。
 これらの一言に共通するのは、悪気がないことです。むしろ、相手を信頼して任せているつもりかもしれません。しかし、相手の「よし、やろう」を引き出すには、もうひと押しの言葉が必要です。
 心理的安全性を高める声かけには、大きく2種類あります。行動の前にかけ、相手の背中を押す「きっかけ言葉」。そして、行動の後に、相手の行動や結果を受け止める「おかえし言葉」。この両方が必要です。今回は依頼や指示に使う「きっかけ言葉」に絞って考えます。

行動を引き出す「きっかけ言葉」

【図:きっかけ言葉のイメージ】

 ある管理職の方は部下に資料作成を頼む時、いつも「じゃあ、資料よろしくね」とだけ伝えていました。「あれこれ細かく指示すると、裁量を奪ってしまう気がして」。本人なりの気づかいのつもりでした。
 けれど部下からすれば、いつまでに、どのくらいの分量で、どの程度の完成度が求められているのか、見当がつきません。「軽いものでいいのか、しっかり作り込むべきなのか…」。決めきれないまま、念のためにと時間をかけて作り込み、いざ提出すると、どうやら上司はここまでは求めていなかったように思える。
 この管理職は「きっかけ言葉」を変えました。「来週の会議までに、紙1枚で、大きな方向性の分かるたたき台を持ってきてほしい。その後詳細に詰めて、来月の部門定例に持っていきたい」と、期限や分量、完成度、そしてその意味を伝えるようにしました(図参照)。これらの情報が加わっただけで、部下は迷わず着手できるようになり、提出までの時間も目に見えて短くなったと言います。

 それだけではありません。しばらくすると、部下のほうから「今回も、まずはペライチでいいですか」と、先回りして尋ねてくれるようになったそうです。きっかけ言葉とは、相手の能力や意欲を疑うことではありません。行動を始めるために必要な情報を、あらかじめ渡しておくこと。それだけなんですね。

「枕詞」をきっかけ言葉に

 上司の話す「戦略」が、正直よく分からない。そんな場面に心当たりはないでしょうか。きっかけ言葉は、上司から部下への一方通行の道具ではありません。上司の説明が分かりにくいと感じた時も、部下の側からも使えます。「戦略の浸透のために、私自身もしっかり理解しておきたいので、おうかがいしてもよろしいでしょうか」。
 こんな一言「枕詞」をつけたほうが「会社の戦略、全然分かりません」などと言うよりも、むしろ伝えやすくなります。聞きにくかった質問も、角を立てずに切り出せます。
 声かけは、誰か一人だけではなく、役職に関係なく、チームの誰もが少しずつ身につけていくことで、職場全体の空気が変わっていきます。ぜひ、チームの誰かに声かけの大切さを共有してみてください。それも一つの、チームを良くする「きっかけ」になるでしょう。

石井(いしい) 遼介(りょうすけ)氏

株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所 理事。武蔵野大学 しあわせ研究所 研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2026年8月「書くカウンセリング」上梓。

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