電話応対でCS向上コラム

第28回 親の話を聞く

親子の関係は年齢とともに変わってきます。親に孫ができる年齢になると、子育てや社会的な役割から降りていきます。時に、親の話の内容は昔聞いたことだったりして面白くないかもしれません。ところが、親にとってその時々で語りの意味も、伝えたい気持ちも、全く違っています。「今、ここ」の気持ちの交流が大切であることを考えてみましょう。

話しながら人生をまとめる

人は60歳半ばを過ぎたころから人生を振り返るようになります。親は子どもに昔のことを「ああだった、こうだった」と語り始めます。そんな時、「昔はそんなことがあったんだろうけど、僕には関係ないよ」などと言わないようにしましょう。親は話をしながら、自分の人生をまとめようとしているのです。子どもは「またその話か」と思うことがあるでしょうが、話の内容でなく、その意図や意味をきちんと聞こうとすれば、同じ話ではなくなり、子どもにとっても意義深く、親にとっても心が落ち着くので、何度も繰り返さないでしょう。

小言を一度受けとめる

人には、ある年齢にならなければ話せないことがあります。罪悪感を持っていること、耐えがたかったことなどは、ある時期が来なければ話せないことです。そんな話を聞いてもらうことも、人生をまとめる上で大切です。一方、日常的なことでは、いつまでも親意識が抜けずに小言を言うかもしれません。そんな時は、まず「受けとめる」ことが大切です。「そうか、そうやってもらいたいんだね」と一度受けとめて、それから「私はそれをやらない」「私は違うやり方でやりたい」と言っても良いのです。

認知症の母親と娘のケースで考える

先日、こんなケースに遭遇しました。認知症のお母さんが娘さんに向かって「あなた、私の貯金通帳を盗ったでしょう」「どこに隠したのよ」などと言うようになりました。娘さんは「隠すわけないじゃない。自分でここに置いたのを忘れているだけでしょ」と言い返します。娘さんは「ちゃんと教えて、覚えさせよう」と思ってそう言ったのですが、お母さんは、探しても見つからないから「盗られた」と思ったのです。娘さんから「覚えてないの?」「困った人だ」と言われると、自尊心は傷つけられ、一層疑い深くなるかもしれません。

“いちいち対応”しない

娘さんは、以前の健康な親を知っているだけに、現在の状態を認めたくないという葛藤があります。そんな時に有効なのは、“いちいち対応”しないことです。お母さんが「あなた、盗ったでしょう」と言ったら、それを受けとめて「前にそう言った時、どこにあったっけ?」と返してみます。「前はここにあった」と覚えていれば、「じゃあ、そこを探してみようか」となり、「そうか、ここにあったね」という会話が成り立ちます。「盗られた」と言った時に「私は盗っていないよ」と言うのは、“いちいち対応”です。また、「また言っている」と言って無視するのも同じことです。「あなた、盗ったでしょう」と言われたら、「え?盗られたと思ったの?」と気持ちに寄り添うところから始めましょう。親をはじめとする多くのお年寄りの場合、まず言葉を否定しないことが大切なのです。

※アサーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

平木 典子氏

日本電信電話ユーザ協会 電話応対技能検定委員。立教大学カウンセラー、日本女子大学人間社会学部心理学科教授、跡見学園女子大学臨床心理学科教授を経て、統合的心理療法研究所(IPI)顧問。専門は臨床心理学、家族心理学。日本カウンセリング学会理事。

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