企業ICT導入事例

-武州工業株式会社-
ICTフル活用で、新興国に負けない“持続可能なものづくり”

「ものづくり」の拠点が海外移転するケースが増えている日本において、武州工業株式会社は、高い技術力を武器に自社の生産体制を磨き、着実に成果を上げ続けています。同社の競争力は、製造設備を自前でつくり、少量多品種の注文に即応できる「一個流し」という生産方式を採用していることに加え、長年にわたってICT活用を工夫し、働く従業員の能力も伸ばすという努力から生まれたものです。その取り組みとブレない志は、事業の持続可能性を考える上でも大いに参考になります。

高難度加工のパイプ製造で創業以来黒字経営を維持

  • ▲代表取締役 林 英夫氏

    東京都青梅市に本社工場を置く武州工業株式会社の主力事業は、自動車の熱交換器や医療の腹腔鏡手術、介護用品などに用いる各種パイプの製造です。口径が小さく、曲げ半径の小さなパイプや3次元形状のパイプなど、加工難度の高い製品を短納期・低コストで仕上げる技術力には定評があります。しかも、労務費が日本の10分の1と言われる新興国・LCC(ローコストカントリー)との厳しい競争に打ち勝ちながら、創業以来60年以上にわたって黒字経営を続けています。その競争力を支えているのが、ICTをフル活用した独自の生産管理体制です。

    「生産性をより高めるため、5カ年計画を立てて努力を重ねてきました。その取り組みは大きく分けて三つあります。一つ目は一人の技術者が材料調達から加工、品質・出荷管理まで一貫して担当する『一個流し生産方式』(セル生産方式)を採用していること。二つ目は必要最小限の機能を備えた生産設備や治具(じぐ)(補助工具)を自前で開発していること。三つ目は20年前から開発している独自の生産管理システム『BIMMS』※1の活用です」(林氏)

手づくりの設備と多能工による「一個流し生産」の現場

「従業員は、いわばラーメン屋の店長。検査を含めて多工程を一人で見ています。従業員は、少量多品種生産に即応できる多能工※2なのです」(林氏)

同社の取り組む「一個流し生産」の現場では、一人の従業員が材料や加工機に囲まれて作業しており、パイプに何度か圧力をかけて成型しています。その成型機にはスマートフォンが装着され、内蔵の3軸センサーが感知した情報はスマートフォンから、Wi-Fiによってサーバーに送られます。また、機械の動作状態などの情報を収集し可視化する「機械動作情報収集装置」は、市販の超小型コンピューター「ラズベリーパイ」※3を使って自社製作したもので、先のセンサーと同様にIoT(モノのインターネット)を構成しています。なお、スマートフォンは中古品を活用。ラズベリーパイも数千円という安さの機材で非常に低コストです。これらの情報はさらにクラウドを経由して、BIMMSに集約され、処理された情報はウェブ形式で事務所や現場の端末で閲覧が可能です。

「日次の作業管理は、コンビニエンスストアなどがPOS※4で棚卸と発注を毎日やっているのと同じことです。その情報から、現場ごと、製品ごと、そして工場全体の稼働状態をどこからでも見ることができます」(林氏)

情報をすぐに把握できることは、フレキシブルな生産体制づくりや、作業の待ち時間削減、工程不良などの無駄を減らす活動へ寄与しています。また、刻々と変化する急な注文、納期変更やキャンセルなどの情報を、正確かつよりスピーディに現場に展開することで少量多品種・低コストのニーズに対応しています。

こうした一連の活動の積み重ねは、絶大な効果を生み出しています。設備コストは市販で設備を購入した場合の4分の1以下になり、注文から納品までのリードタイムが72時間から48時間に減少。作業時間が半年で2割も短縮された作業もあり、情報化により品質も安定しました。

  • ▲「ラズベリーパイ」を活用して自社製作した機械動作情報収集装置

働き方改革につながる生産性向上を目指したい

  • ▲業務情報を各生産現場の担当者と共有しているスマートフォン

    また、ICT機器の導入に伴い、従業員の働き方の改革にも積極的に取り組んでいます。

    同社の場合、従業員は単純作業が減って知的かつ多様な能力が求められるようになりましたが、それにも慣れてくると作業への「飽き」や集中力不足が課題になりました。この課題は、従業員たちの発案により、半日交代でセル(担当作業場)を変える方法で克服しました。

  • ▲自動的に製品のサイズを測定してくれる画像検査機のモニター

    また、タイムレコーダーによる出退勤管理の代わりにBIMMSを活用。出勤時に各現場のスマートフォンに当日の自分の体調を5段階で入力させることで出勤確認と健康状態を同時にチェックしています。このように、従業員の健康や働きがいの向上、労働環境の改善に努め、経営に関する情報も従業員に公開しています。

    「従業員が、自分の仕事を日々工夫し、協力して改善を続けることで、もっとやりがいのある仕事、働きやすい職場になること。つまり私たちは、働き方改革につながる生産性向上を大切にしています」(林氏)

「300年企業」に向けて持続する経営への取り組み

「価格を下げるだけのものづくりならLCCに移転すればいい。私たちはこの青梅で、日本で、ものづくりを続けたい。100年どころか300年先でも持続している会社になりたいのです。その時にはパイプづくりをしていないかもしれません」(林氏)

この言葉どおり、同社は「300年企業」に向けて持続する経営への取り組みを始めています。現状の製品構成は7割が自動車向けですが、急速に比率を上げているのが医療機器向けで、3分の1を占めています。また、パイプを使った教育玩具「パイプグラム」も注目されており、新領域への進出も着々と進んでいます。同社は、自分たちが向かう方向を見定め、未来へ進むための手段としてICT、IoTを有効活用し、変化し続けています。

また、未来への重要な布石として、同社の製造現場で実績を重ねた生産管理システムをクラウド化して外販も始めます。中小製造業は自社開発せずに導入できます。

「技術進歩は早いですが、人の変化には時間がかかります。しかし、まず着手しないことには始まりません。中小製造業が生き残る武器として使ってもらいたいのです」(林氏)

林氏は、会社経営の傍ら、企業のICT推進や、EDI※6の国際規格導入、経営者交流会などの活動にも積極的に関わっています。それは、「一社だけ勝ち残ろうとする技術の鎖国主義をやめて、互いに協力し合う技術の開国に踏み出すしかない」という強い思いからなのです。

※1 BIMMS:Busyu Intelligent Manufacturing Management Systemの略で、武州工業独自の生産管理システム。
※2 多能工:生産や施工において、複数の異なった工程の作業を遂行する作業者。
※3 ラズベリーパイ(Raspberry Pi):英国で教育用として開発された安価な極小コンピューターで、小さくてもUSBやLANなどパソコン並みのインターフェイスを搭載。
※4 POS:Point of Sale の略。物品販売の売上実績を単品単位で集計すること。
※5 MRP:Materials Requirements Planningの略。工場などで使われる生産管理手法の一つである「資材所要量計画」のこと。
※6 EDI:Electronic Data Interchangeの略。電子データ交換と訳し、商取引のための各種情報を、ネットワークを通じてコンピューター同士で交換すること。

会社名 武州工業株式会社
創業 1952年(昭和27年)
所在地 東京都青梅市末広町1-2-3
資本金 4,000万円
代表取締役 林 英夫
事業内容 パイプなど金属加工部品 板金、プレス、樹脂加工自動制御機械製作
URL http://www.busyu.co.jp/
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