企業ICT導入事例
-船場化成株式会社-徹底的なデジタル化で高い離職率を改善したメーカーの取り組み
記事ID:D20017
昨今、業務管理のデジタル化は中小企業の大きな課題でありながら、具体的な実行へ至っていない会社も多いかと思います。今回は、アナログな環境をデジタル化で徹底的に改革することで業績効率を飛躍的に向上させ、高い離職率も改善した船場化成株式会社の取り組みについて、総務部長の村田道彦氏と人事・経理課課長の黒川真吾氏に話をうかがいました。
残業&ミスを招く業務環境を改善すべくデジタル化を推進
船場化成は徳島県を拠点に包装資材全般のポリエチレン商品の製造を行っています。直近10年間の売上高は毎年5%程度の成長を続け、2023年には過去最高の売上を達成する見込みです。そんな同社の業務実態について、黒川氏は「2014年頃までは完全なアナログ体質で、業績も伸び悩んでいました」と話します。
人事・経理課 課長
黒川 真吾氏
「当時は基幹システム(ソフトウェア)への投資が皆無で、事務用にパソコンはあっても社内ネットワークがありませんでした。製品管理はノートに手書きされた出来高をエクセルへ手入力していたので誤りも多く、進捗状況は現場に足を運んで確認するのが当たり前という状況でした」(黒川氏)
大がかりな機械を稼働させての製造指示も同様で、現場経験者の村田氏は「業務効率が悪く、その不満が高い離職率を招いていた」と振り返ります。
総務部長 村田 道彦氏
「製造はホワイトボードに貼られた手書きの指示ラベルをもとに行っていたのですが、指示する側は一人あたり1日100枚ほどラベルを書いていました。ラベルが剥がれたり書き間違いがあると製造の遅れなどを招き、その遅れが社内ですぐに把握できず、残業や休日出勤で対応することが常態化していました。ひと昔前の世代にはこれが当たり前でも若手社員は不満を募らせ、当時150人規模だった会社で毎年30人近く離職する悪循環を引き起こしていました」(村田氏)
こうした中で2015年、当時営業部門の最前線に立ち、自社の業務管理が時代に乗り遅れていることをいち早く危惧した美馬直秀氏(現在の代表取締役)が打開策を検討し、一つのクラウドに社内の全情報を取り込み、データベース(以下DB)とネットワークを形成して業務を一元化・効率化するデジタル化を進めました。
一つの成功から広がったデータベースの導入
デジタル化を打ち出してはみたものの社内では反応が乏しく、また、構想が漠然としていたため、システム開発業者からは開発に数千万円かかると言われてしまったそうです。そんな何から手をつければ良いのかという状況の中、同社はまず現場が毎日手書きしていた指示ラベルのDB化(図1①参照)から着手しました。
①製造指示が記された手書きラベル(左)をDB化して見やすくプリンターで出力(右)
②2017年には指示ラベルの出力も廃止され、電子掲示板(右)での管理へ移行した
「美馬から『これ(ラベル)から変えてみよう!』と言われるがままに、ラベル情報のDB化を行いました。当初は手書きよりキーボード入力のほうが手間だという人もいましたが、一度DB化すれば、その後は少しの入力でラベルをプリンター出力できるようになり、毎日書き続けていた時間が短縮されたことで驚きとともに受け入れられていきました」(村田氏)
開発は外注で費用は30万円程度だったということですが、黒川氏によると、経理部門は当時「コストをかけてDB化しても、従来の方法に馴れた社員から拒絶反応が起きるのではと心配でした」と明かします。「結果的には不便さの解消が圧倒的に勝り、ラベルのDB化で担当者の作業が1日4時間も削減され『とても便利だ』と話題になったことで、営業や経理、総務などの現場から『この業務もシステム化できないか?』と要望が上がり始めました」(黒川氏)
その後も基本的には現場からの声をもとにシステムは徐々に進化を続けたと言います。2016年には営業から現場へFAXで送られる発注指示書と、現場と事務間を手書きノートで行き交う製造進捗をDBで紐づけ、いつ誰が何を発注し、その製造の進み具合をどこでも共有・確認できる環境が整いました。また、指示ラベルとホワイトボードによる管理方法から電子掲示板での管理・運用へ移行(図1②参照)するなど、一度改革した業務の見直し・再効率化も行われました。このほか、製品に付与したバーコードをスキャンし出荷指示と照合すると送り状が自動発行される仕組みが改善されました。
2017年から2019年にかけては、人事課の要望で勤怠管理システムを導入しタイムカードを廃止、経理課の要望で出荷から入金までの管理を製造システムと連携させることで取引先への経理書類を9割方PDF化、メールでの送信へ移行することで郵送費と郵送作業を削減できました。こうしたDBの活用による業務の一元化・効率化がどんどん進んでいきました。
「その効果として書類のペーパーレス化が進み、紙は9割方削減されました。またDBを介し業務状況を共有することで『私しかできない、ここでしかできない』という作業の属人化が激減し、作業手順の標準化が進みました。さらに残業時間は年間平均で20時間以下に減り、有給取得日数は年間9日以上に増加しました」(村田氏)
年間MVP選挙で社内コミュニケーションが活発に
現在、船場化成のシステムは、社員のさまざまな意見を取り入れ「社内のコミュニケーションツールとして活用されるようになりました」と黒川氏は話します。
「2019年に人事課の要望で、社員情報の閲覧(図2参照)や社内情報の発信ができるようになり、社員交流の機会が増えました。また、2021年8月には青森県の三信包装株式会社をグループ化し、同じシステムを導入することでグループ内の社員交流や進捗のリアルタイム共有を実現、シナジー(複数の組織が協力し、より高い成果を生み出す)効果を増大させています。また美馬が、システム化を自ら相談してきた各部門担当者の自発性を刺激しながら進めたことで、社員に業務改革の意識が定着し会社の雰囲気も明るく変化しました」(黒川氏)
【図2:人事管理システムで閲覧可能になった社員情報】
村田氏もデジタル化が「離職者の減少にも貢献している」と言います。
「例えば、今製造している製品を営業の誰が受注したのか、どのくらいの売上なのかなどの情報が現場でも見える化されたことで、目の前の製品を担当することが会社にどのように貢献しているかを実感できるようになり、一人ひとりがモチベーションを上げて働く環境が整いました」(村田氏)
こうしたデジタル化によるコミュニケーションやモチベーションの向上は、社内に思わぬ波及効果ももたらしています。
「2020年からは、『この一年間、会社で一番がんばった人』を選ぶ年間MVP選挙を実施しています。グループ会社を含む全従業員の投票で、長年勤続の部長から新入社員まで、さまざまな社員が選ばれています。社内でどんな人が評価されているのかが現場の視点で選ばれます。投票時にはDBで社員を検索したり交流したりできますので、社内のコミュニケーションが活発になり、離職を防ぐ効果も確実に上げていると思います」(黒川氏)
同社は2014年当初から社員数をグループも含め約300人に倍増させ、成長を続けています。身近で手軽な業務から始めた脱アナログの取り組みは、業績不振や人材確保に苦慮する中小企業が活路を切り開くためのヒントになるはずです。
会社名 | 船場化成株式会社 |
---|---|
設立 | 1959年(昭和34年)1月 |
本社所在地 | 徳島県徳島市国府町観音寺梨ノ木666-1 |
代表取締役社長 | 美馬直秀 |
資本金 | 5,000万円 |
事業内容 | ポリエチレン樹脂を主原料とした環境型レジ袋や地方自治体のゴミ袋、産業用のフィルム・袋などを製造、販売 |
URL | https://www.senbakasei.com/ |
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