企業ICT導入事例
-株式会社つばさ公益社-ICTで経営効率や労働環境を改善し遺族の負担の少ない葬儀を提供
記事ID:D20011
コロナ禍の長期化に伴い、葬儀スタイルも簡略化やオンライン化が進んでいます。そのような状況の中、I C Tを活用して葬祭業におけるさまざまな課題解消に努めるとともに、新しい葬儀スタイルを提案する、長野県の株式会社つばさ公益社が注目を集めています。今回は、同社代表取締役の篠原 憲文氏にクラウドサービスを活用した業務改革や、新しい葬儀サービスについて話をうかがいました。
生産性の向上が図りにくい葬祭業界の課題
代表取締役
篠原 憲文氏
近親者が亡くなった場合、病院が紹介する葬儀社に葬儀を依頼し、見積もりをしっかり精査することなく、葬儀費用を支払ったというケースは多いでしょう。この葬儀費用は全国平均で約156万円にものぼり、遺族の大きな負担になっています。こうした状況の中、葬儀費用の低価格化に取り組み、小規模な家族葬を専門に扱っているのが株式会社つばさ公益社です。同社代表取締役の篠原憲文氏は、葬祭業の問題点について「大規模に無駄なことが行われている」と指摘します。
篠原氏:葬祭業界では、電話に出る人、お茶を出す人、車を運転する人など、すべて別の人が担当するのが一般的です。ICT業界から転身した私は、そうした働き方が非常に非効率であり、その分改善の余地が大きいと感じました。さらに、職員の離職率も高く、生産性の向上が図りにくい業種と言えます。その背景には、24時間365日いつでも人がお亡くなりになる可能性があるため、昼夜を問わず急な連絡や仕事が入り、休日の予定が立てにくいなどの労働条件があります。
すべてがスマホで完結する!スマホ特化型のシステムを構築
このような葬祭業界の課題を解消するため、同社は多彩なクラウドサービスを活用して経営効率の改善や生産性の向上に努めてきました。例えば、業務をカードで視覚的に管理することでチームでの効率的な共有を可能にするツールを使用し、顧客管理・日程管理・発注管理などの業務を効率化したほか、未だにFAXを使用することが多い受発注業務においても、インターネットを介してスマホから送受信できるようにしました。さらに、出退勤管理や見積・請求、日報管理に至るまで、すべてスマホで完結できるようにしています。
また、これまでは受発注から火葬場予約などの各工程において、顧客情報の転記作業が何度も発生するという問題点がありました。そこで、顧客情報を入力すると自動的に内容が送信され、その情報を基に火葬の予約が簡単にできたり、社内のカレンダーアプリに葬儀の日程が自動登録されるなど、転記作業を伴わない便利な機能を搭載したアプリを自社で開発しました。これらの改善により、現在はスマホですべてが完結できるシステムが整備されています。
こうした取り組みの結果、同社の固定費は2005年と2021年の比較で43%削減されるなど、経営指標が改善されたほか、労働環境の改善にも大きな効果が見られています(図1参照)。
篠原氏:葬祭業界は、一旦葬儀が始まったら4日間は休めないという勤務体系が通例でした。それが離職を招く要因の一つになっていたので、週休3日制を導入し、事前に決めた休日は必ず休み、業務を職員間で引き継げる体制を構築しました。さらに、リモートワークが社内全体に広がり、職員の30%以上が勤務中どこにいてもよいという「自由出勤」体制にすることで、労働環境を大幅に改善することができました。
“オンラインで弔う”葬儀など新しいスタイルを提案
時代とともに葬儀のスタイルも変化していますが、コロナ禍で特に進んだのがオンライン化です。同社もお葬式のライブ配信を行うと同時に、「オンライン弔問」や「オンライン追悼」などのサービスを展開しています。
篠原氏:コロナ禍において最初に提案したのが、ホールや式場の混雑状況が分かる「3密回避メーター」です。次に、緊急事態宣言下で帰省できない方などに向けて、お葬式のライブ配信を行いました。それに合わせて、オンラインストアからお花屋や電報、香典などを送れるサービスを開始し、「オンライン弔問」として展開しました。
「オンライン弔問」では、お花のお届けサービス(供花)や電報サービス、 クレジットカード決済による香典などが可能
さらに同社は、遠隔地から故人に向けたメッセージや、思い出の写真や楽曲などが送れる「オンライン追悼」を行うなど、コロナ禍の新しい葬儀スタイルを提案してきました。これらは、すべてICTを活用したもので、クラウドサービスを活用することで、スピード感をもって展開されています。
篠原氏:米国の9.11同時多発テロで生まれた言葉に「曖昧な死」というものがあります。これは、遺体もなく現実感もない中、死だけが告げられるという状況を意味します。コロナ禍で病院の面会が一切できずに亡くなり、お骨だけ渡されるという状況は、まさに「曖昧な死」を引き起こし、遺族や友人などの関係者が死を受け入れられないといった事態を招きます。葬儀に参列できないことも、死を実感できない一因となるでしょう。それを少しでも緩和することが「オンライン追悼」の目的です。
さらに、同社が注目されるきっかけとなったのが「DIY葬セット」(図2参照)です。これは棺や骨壺など、葬儀に必要なキットをワンセットで提供するもので、法律上の手続きなどを記載したガイドブックまで入っています。これはコロナ禍で一般葬が難しくなる中、安価でも“故人らしく”見送る弔い方として注目を集めています。
このようにコロナ禍が契機となり、葬儀スタイルにも多様性が生まれています。今後は、慣習などにしばられず、それぞれの事情や想いに応じた葬儀を行うための選択肢が増えていきそうです。
会社名 | 株式会社つばさ公益社 |
---|---|
設立 | 2017年(平成29年)4月 |
本社所在地 | 長野県佐久市小田井906(つばさホール 小田井内) |
代表取締役 | 篠原 憲文 |
事業内容 | 家族葬専門の葬儀事業 |
URL | https://so-gi.com/ |
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