企業ICT導入事例

-株式会社タニハタ-
伝統工芸「組子」の販路拡大を支えるクラウドシステムを独自に開発

ICT技術の進化に伴い、企業の業務管理もアナログからデジタル化が進み、クラウドサービス※を導入する企業が増えています。この流れは、古い商慣習が残る業界にも波及。今回は、独自のクラウドシステムを開発するなど、デジタル化を進めることで業績を回復させた株式会社タニハタに着目し、同社の代表取締役社長・谷端 信夫氏に話をうかがいました。

 近年、社内システムやデータ管理などにクラウドサービスを導入する企業が増えています。クラウドサービスは、従来のようにITインフラを自社で保有・運用する必要がなく、場所を問わずに業務を一元管理できるため、中小企業にとっても有効な手段と言えるでしょう。また、中にはクラウドサービスを基盤に、独自のクラウドシステムを開発し、より自社の業務に適したシステムを構築する企業が増えています。総務省の「令和2年通信利用動向調査」によると、令和2年の時点でクラウドサービスを一部でも利用している企業は約69%であり、導入企業の87%超が「効果があった」と回答しています(図1参照)。

インターネット通販導入を契機に販路を大幅に拡大

代表取締役社長 谷端 信夫氏

 クラウド化により業務効率を向上させ、業績を向上させた例はいくつも見られますが、古い商慣習が色濃く残る伝統工芸の世界でも見受けられます。その一つが飛鳥時代から続く伝統工芸「組子」を作る株式会社タニハタです。「組子」とは、釘を使わずに木を幾何学的な文様に組みつける木工技術のこと。現在は、その美しさから国内外の高級ホテルや豪華列車にも使われていますが、以前は主に和室の建具に使われていました。しかし、1990年代初頭から若い世代の和室離れが進み、組子の需要が激減。このため、同社は顧客層を一般消費者にまで広げようと、2000年からインターネット販売をスタートしました。同社社長の谷端氏は、「これが復活の契機になった」と話しています。

 「インターネット通販で一般消費者への販路を確保できましたが、ほかにもホテルや店舗の事業者から高度な技術を使った組子の工芸品の需要も高まってきました。そこで、2006年に事業者向けの通販サイトを自社で立ち上げました。建設業界はピラミッド構造と言われ、一番上に施主、その下に設計・デザイナー、建設会社、その下に施行業者や納入業者、そして一番下に私たち建具屋、組子屋などが位置づけられます。そして、従来は上から下へ順に仕事が回り、私たちはそれを待っているだけだったのですが、自社で通販サイトを持つことにより、最上位の『施主』などと直接やり取りすることが可能になりました。おかげで販路を大きく拡大できました」(谷端氏)

 しかし、販路拡大により新たな問題も出てきたそうです。

顧客情報、物件情報をいつでも、誰でも分かるようにし、連絡ミス・連絡遅延ゼロを達成

 一般消費者向けのインターネット通販では既製品を販売したため、顧客とのやり取りはあまり発生しませんでした。しかし、事業者向けのサイトでは注文生産となり、顧客とのやり取りはもちろん、デザイナーや設計事務所などとの打ち合わせが必要になったり、見積もりやデザイン提案など新たな業務も増加。さらに、建設業界は仕事が決まるまでの期間が長く、1~2年前の問い合わせが注文に結びつくこともあるため、従来の方法では誰がどのように対応してきたのかの経緯が把握できず、業務が滞ってしまったそうです。そこで、谷端氏は「2013年からクラウドの『会員管理システム』の開発に着手しました」と、振り返っています。

 「システムには、顧客ごとに問い合わせや対応を管理する『顧客管理』と、大口物件の製作工程を管理する『物件管理』の機能があります(図2参照)。そして、管理のためには、取引先の担当者ごとに会員登録をしていただく必要があるのですが、『面倒だから登録したくない』と思われるとシステムが機能しなくなるので、無料サンプルやカタログ、CADデータのダウンロードなどのメリットを提示し、7年間で7,600人以上の担当者さまに登録していただきました。また、現場でパソコン作業をするのは難しいため、『タブレットにタッチペン一本』の操作で、簡潔に入力できるようにしました。今では、問い合わせから受発注、製作工程までこのシステムで管理しています」(谷端氏)

 このシステム導入により、いつでも、誰でも、どこからでも業務の進捗を確認できるようになり、連絡のミスや遅延が激減。その結果、販路拡大により増えた受注量に対応できるようになり、月に40~50件の注文依頼にもスムーズに対応できるようになったそうです。また、谷端氏は業務の効率化だけでなく、クリエイティブな仕事に時間を使えるようになったことも大きな成果と語ります。

いつでも、誰でも、進捗を把握できるようになっ たおかげで案件の引き継ぎがスムーズに

 「一昔前、建設業界では上流から仕事が流れてくるのが当たり前という考えがありました。今の時代、その姿勢では生き残ることはできないと思います。デザイン・意匠だけでなく、使い方の提案をするなど、自分たちを選んでもらう努力をしなければなりません。数年前、一泊200万円という高級ホテルのスイートルームに組子の装飾品を納めたのですが、その際は『風と雲と空のイメージで造ってほしい』というオーダーでした。初めは戸惑う部分もありましたが、職人と話し合って積極的に図案を提示し、先方のデザイン担当者と何度もやり取りを重ねて素晴らしいものができました。従来のように、待ちの姿勢ではできなかった仕事だと思います。これらの経験を踏まえて、私たちはクリエイティブな仕事に時間を使うことをとても大切にしています。それには、ITシステム等を使って効率化できるところは徹底的に効率化し、お客さまのご要望にスピーディーに対応することが基本となるため、今後も積極的にITの力を活用していきたいですね。ここに至るまでには、既製品を工場で大量生産する体制に踏み切った経験など、紆余曲折がありました。クラウド化で業務管理がスムーズになったおかげで、今のような高度な案件の受注増にも対応できるようになり、本当に良かったと思っています」(谷端氏)

※ クラウドサービス:ユーザーが大規模なインフラやソフトウェアを持たずとも、インターネット上で必要に応じてサービスを利用できる仕組みを「クラウド」と呼び、この仕組みを用いて提供されるサービスを「クラウドサービス」と称する。

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会社名 株式会社タニハタ
設立 1998年(平成10年)5月
本社所在地 富山県富山市上赤江町1-7-3
資本金 2,100万円
事業内容 組子建具(格子の引き戸)、間仕切り(衝立・パーテーション)、組子欄間など組子技術を使用した製品の製造
URL https://www.tanihata.co.jp
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