企業ICT導入事例

-株式会社マルブン-
“経験やカン”に頼らないマネジメントで食品ロスや人員不足を解消した飲食店の取り組み

記事ID:D20037

愛媛県でイタリアンや海鮮料理などの飲食店を展開する株式会社マルブン。大正時代創業で100年以上の歴史を持つ同社ですが、コロナ禍をきっかけに店舗のDXに挑戦しました。従業員のシフトや仕入管理など、スタッフの“経験やカン”に頼りがちだった経営を見直し、売上や生産性も大幅アップしたといいます。代表取締役の眞鍋 一成氏に、同社の取り組みについてうかがいました。

紙や手入力による管理をデジタルで自動化

代表取締役 眞鍋 一成氏

 長い歴史を通して地域の人々に親しまれ、県内に5店舗を展開するマルブン。以前はアナログな方法で行っていた、オーダー管理や仕入に課題がありました。

 「お客さまのオーダーは“ハンディ端末”での管理がメインでしたが、紙への手書きで管理している店舗もありました。日報作成業務もレジからレシート印字でその日の売上や来客数を見て、Excelのシートに打ち込むなど、煩雑な業務が多く、お客さまへの価値提供に関係のないタスクに時間をとられている状況でした」(眞鍋氏)

 生産性に課題を感じながらも、なかなか全社的な規模で手を打てずにいたところへ起こったのが、2020年からのコロナ禍です。飲食業界も大きな打撃を受け、同社も窮地に立たされましたが、それならばと思い切って店舗のDXに挑戦しました。

 「2020年5月頃から導入に向けて動き始め、12月にリニューアルした本店でスマホ・タブレットからのオーダーとクラウドレジ、それからマネジメントの効率化のためにAIによる来客やオーダー予測システムを導入しました。私は当時、本店で店長業務も担当していたので、まずは自分が使ってノウハウをためていこうと思い、これらに興味をもってくれた新卒の社員とともに数字やデータを見ながら使い方を学んでいきました」(眞鍋氏)

来客数・売上・注文数を予測してシフトや仕入の管理に活用

来客数や商品の注文数予測をもとに、シフト仕入れの計画を立てる

 新たにデジタル機器を導入した最初の一年で、顧客の反応やつまずきやすいポイントを見つけ、次の年からはそれらへの対応を含めてほかの店舗へもスマホオーダーや新しいレジシステム、AI予測システムを順次導入していきました。デジタル機器でのオーダーに抵抗を示す顧客もいたものの、コロナ禍では「非接触で利用できる」というメリットもあり、徐々に受け入れられてきたといいます。

 「AIは来客数と売上、商品の注文数の三つを予測して表示してくれます。来客数については当日と4〜5日先、45日先、そして年間の予測が見られるので、従業員のシフトや当日の動き方、在庫管理、予算の設定などに活用しています。予測から大きく外れるときには天候などの一時的な外部要因があることがほとんどで、精度も申し分ないですね。微細な振れ幅が続く場合には、内部で起きている変化に気づくきっかけにもなります」(眞鍋氏)

 例えば、飲食店にはランチタイムなどのピークタイムがあり、ほかの時間帯は比較的余裕があることもあります。そのため、その時間が具体的に何時なのかを予測できれば、スタッフの勤務時間を短縮するなどの対応ができ、余分な人件費の削減にもつながります。長期予測では繁忙期や閑散期がいつごろかわかるため、閑散期に休暇をとることで、減益を最低限に抑えながら休日数を増やし、働きやすい店舗づくりにも寄与しています。

 「また、5日先までの商品の注文数も分かるので、仕入のコントロールも容易になりました。例えば『オムライスが5日後までにこれだけ出る』という予測が出ていれば、材料がどれだけ必要か分かります。調理のための仕込み作業も同様にスケジューリングがしやすくなり、結果として急に仕込みが必要になって、突然キッチンが忙しくなる…というようなイレギュラーをなくすこともできました。どこに時間をかけ、どこで時間を節約するかが明確になり、労働時間のムダをなくせています」(眞鍋氏)

 これまではベテランスタッフの経験とカンに頼る管理体制だったため、どうしても人員の過不足や食材のロスが起こりがちでしたが、AIによる予測でロスを最小限に抑えられるようになり、また経験の浅いスタッフであっても、こうした管理業務に携われるようになるまでの育成時間も短縮されました。ここ数年の材料費の高騰も頭の痛い問題ではあるものの、DXによって在庫コントロールに取り組んでいたおかげで、状況は厳しいながらも対応できていると言います。
 デジタルツールの導入については、当初は年次の長いベテランスタッフから「使い方が分からない」「本当に意味があるのか」など、ネガティブな反応があったものの、「若手を中心に導入を進め、一定の成果があげられたり、実際に現場への負担が減っていくのも実感できたタイミングで受容が起こり、理解が深まっていった」と眞鍋氏は振り返ります。

 「当社は社員の平均年齢が31.1歳と若く、多くの高校生や大学生などのアルバイトもいます。データはすべてのスタッフに公開していて、誰でも閲覧可能になっているので、デジタルに慣れている人や抵抗のない人が先頭に立って数値を見たり、現場でシフト調整を行っていくうちに数値として成果が出始め、それまで難色を示していたベテランスタッフも『メリットがある』『やらねばならない』と感じるようになってくれました。さらに、日常のコミュニケーションにLINEを使っていたり、ネット通販を利用していたりと、デジタルに全く関わらない生活をしている人はとても少ないということへの気づきもあり、自分にも使えるという認識が広まっていきました」(眞鍋氏)

 また、以前は手で入力していた来客数や売上といった実績、顧客属性やリピート率などもクラウドレジでグラフ化され、これらのデータを分析しながら、各店舗が販売促進のためのアクションプランを練るようにもなっています。

生産性も向上し飲食業の魅力を感じる環境に

地元の大学にデータを提供し、研究に協力している

 同社は店舗DXに乗り出してから3年強で人時売上高(従業員一人、一時間あたりの売上高)が20%アップ、人時生産性(従業員一人あたりの生産性)は業界平均の約2倍と、しっかりと成長を続けています。その中で、従業員の変化も感じています。

 「店舗業務に追われることがなくなり、人材育成や顧客増加のためのプラン作成にしっかりと時間を割り当てられるようになりました。マルブンでは店舗の目標設定を各店舗に任せていて、スタッフが自主的に取り組めるようにしています。例えばどのようなキャンペーンを打つか、LINE公式アカウントのメッセージをいつ送るのか、ランチタイムとディナータイムで店先に出す立て看板を変えてみたらどうかなど、いろいろな施策とともに、その結果が数値として見えるので、楽しみながら取り組んでくれている印象です。最近は大学とも提携して、過疎地域の課題解決や人を呼び込む手法の研究などのために、マルブンのデータを提供しています(上記写真参照)」(眞鍋氏)

 以前まで眞鍋氏が経営課題として感じていた「人件費」と「仕入のコントロール」については解消しつつあり、2024年10月の最低賃金引き上げに伴う賃上げも、スムーズに実施できました。今後については「データ活用をさらに進化させていきたい」と抱負を語ります。

 「今後は、これらのデータを活かしてマーケティングへつなげたいと考えています。反響のあった施策をもとに、お店に来ていただける・リピートしていただけるコミュニケーション方法を考えて実践していきたいです」(眞鍋氏)

 人口減少による働き手の不足や消費者の外食頻度の低下など課題が山積する中、飲食業界で生き残っていくには、先端技術を積極的に取り入れ、問題にいち早く手を打つことが必須だと、眞鍋氏は力説します。

会社名 株式会社マルブン
創業 1923年(大正12年)5月24日
本社所在地 愛媛県西条市小松町新屋敷甲407-1
代表取締役 眞鍋 一成
資本金 1,000万円
事業内容 洋食店「マルブン」をはじめ、イタリアンレストランや、海鮮丼を提供する食堂などを愛媛県内で展開している
URL https://marubun8.com/
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