企業ICT導入事例

-株式会社フジワラテクノアート-
2050年のビジョン実現のために創業91年の醸造食品製造機械メーカーが取り組んだDX

記事ID:D20030

岡山市の株式会社フジワラテクノアートは、麹を全自動で製造する装置において国内で圧倒的なシェアを誇る醸造食品製造機械メーカーです。その圧倒的なシェアに慢心せず、さらなる発展を遂げるために策定したビジョンの実現へ向けて取り組んだDXが、経済産業省の「DXセレクション2023グランプリ」に選ばれるなど高く評価されています。そこで、同社のDXを推進するDX推進委員会の委員長である (らい) 純英(すみえ) 氏に話をうかがいました。

シェア8割が招く危機感から「2050年ビジョン」を策定

経営企画室 課長 DX推進委員会
委員長 (らい) 純英(すみえ)

 株式会社フジワラテクノアートは、醸造食品を製造する機械・プラントのメーカーです。同社の顧客は主に醤油や味噌、日本酒、焼酎などの醸造食品メーカーであり、同社が製造する機械・プラントは、顧客の立地や設備、取り扱う原材料などに合わせてフルオーダーメイドで作られています。納入後はメンテナンスなどのアフターフォローも行い、現在、醸造に欠かせない麹を機械で製造する全自動製麹装置では国内シェア8割となっています。しかし、経営陣は現状に満足することに対して大きな危機感を感じていたと、同社でDXを推進する頼氏は振り返ります。

 「以前はシェア拡大を目標に全社一丸となっていましたが、国内シェア8割を獲得できたことで現状に満足すると、さらなる進化を怠ってしまうのではないかと、経営陣は危機感を抱いていました。さらに醸造分野に加えて、社会や未来に向けてイノベーションを起こしたいという思いもあり、2050年の未来を描いたビジョン『醸造を原点に、世界で微生物インダストリーを共創』(図参照)が策定されました」(頼氏)

 微生物インダストリーとは、麹菌などの微生物の力を高度に利用する産業分野のこと。同ビジョンでは、これまで醸造の分野で培ったノウハウや知見を食糧、飼料、エネルギー、バイオ素材などの分野でも活かし、世界が直面している環境問題やエネルギー問題、食糧問題などの課題解決に貢献することを目指しています。
 そのような壮大な目標を実現するには、個人の経験や現場の対応力のみに頼るのではなく、全社で情報共有し、組織として対応する仕組みを構築するためにデジタル活用が必須と考え、DX推進委員会を立ち上げました。

図:2050年ビジョン「醸造を原点に、世界で微生物インダストリーを共創」

業務の課題を洗い出し社員へのビジョン浸透を図る

課題を畳2畳分もの大きな紙にまとめ、全社員で情報共有

 DX推進委員会が最初に取り組んだのが、業務の棚卸しです。

 「当社の製品は大半がフルオーダーメイドで製造しているため、毎回材料や手順が異なります。そのため製造工程の共通化が困難で、ほとんどの業務がシステム化されていませんでした。そこで、今一度業務の課題を洗い出すために、業務の棚卸しを行いました。具体的には、各部署の業務を聞き取りし、その内容を業務プロセス図にまとめ、社員全員が目にする場所に張り出しました。そして、各プロセスにおける課題や疑問に感じたことを社員が付箋紙に書き、直に貼りつけていきました(写真参照)」(頼氏)

 この結果、抽出された課題は100項目にものぼり、その中から優先順位を検討し、システムの構想に活かされました。また、業務プロセス図を社員の目につくようにしたのは、社員一人ひとりの参加意識を高める狙いがあったと言います。

 「業務プロセス図には、自分の部署以外のことも掲載されています。そのため、社員が自部署のことだけでなく、他部署の業務や課題を知ることができ、全体像を把握できるという効果がありました。おかげで社員の参加意識が高まったと思います」(頼氏)

 社員の参加意識を高めると同時に、DX推進において最も重要だったことは、社員へのビジョンの浸透だったと、頼氏は語ります。

 「DX は あくまでもビジョンを達成するための手段ですので、まずは社員がビジョンを理解し、“自分ごと”として捉えてもらうことが大事です。経営陣は事あるごとにビジョンを語り、ワークショップなどを通じてビジョンの浸透を図りました。しかし、ベテラン社員の中には、これまでみんなで頑張ってきて国内シェア1番になったのに、なぜ今までのやり方を変える必要があるのかと反発される方もいました。そういった声にも真摯に耳を傾け、経営陣がねばり強く向き合って対話を重ねることで、理解してもらいました」(頼氏)

3年間で21システムを導入 DX人材も急増中

 同社は3年間という短期間で21のシステムやツールを導入しました。最初に導入した の は LINE WORKSで、多くの社員がLINEを日常的に使っていたこともあり、抵抗感なく受け入れられました。その後もさまざまなシステム導入により、あらゆる業務において業務改善が図られ、例えば製造部では生産管理システムの導入により、原価や進捗が全社で共有できるようになりました。

 「この生産管理システムについては、欲張って必要以上に多機能なものを導入しても使いこなせないと考え、自分たちの業務にとって重要なポイントに絞って、必要な機能が十分に備わったものを導入しました。さらに、極力カスタマイズをせず、標準機能に合わせて業務プロセスを変更し、改善につなげたいという思いもありました。カスタマイズすると費用もかかりますし、アップデートが困難になるという懸念がある上、カスタマイズに対応してくれたSEさんにしか分からないという事態が起こることも避けたいと考えました」(頼氏)

 同社はこの生産管理システムと連携した、仕入先など協力会社向けの受発注システムを導入し、従来FAXなどで発注していたのをオンラインに切り替えました。協力会社の中には、切り替えに戸惑っていた会社もありましたが、説明を重ねることで、ほとんどの会社に賛同してもらい、導入できたと言います。発注データが協力会社と共有されたことで、受発注ミスが無くなったうえ、月間400時間の発注作業時間削減や通信費などの削減、ペーパーレス化が実現されました。さらに、頼氏は思いがけない効果として、社内にデジタル人材が急増したことを挙げます。

 「2018年時点でデジタルスキルと呼ばれる資格保有者は1名でしたが、2023年12月現在では延べ21人となっています。これにより、社内のDX推進体制が強化されました。今では2050年ビジョンの実現に向けてAIを活用して麹の画像を解析し、日本酒を造る杜氏をサポートする研究などにも取り組んでいます」(頼氏)

 フジワラテクノアートは、2022年の日本DX大賞(中小規模法人部門)に続いて、経済産業省のDXセレクション2023でグランプリを受賞し、DX2冠に輝きました。受賞理由としては、同社の経営戦略とDXが連動していて、ビジョンの実現に向けて進んでいることが評価されたとのことです。DXに失敗する多くの企業は、特定のメンバーだけでDXを進めてしまい、大半の社員が“他人ごと”と感じてしまう事態を招いているようです。しかし、同社では社員へのビジョン浸透をねばり強く実施したことで、社員がDXは“自分ごと”と捉えて、自主的に業務改革に取り組む環境が作られています。このような取り組みは、DXで業務改革を進めたいと考える中小企業にとって、学ぶべき点が多いと思われます。

会社名 株式会社フジワラテクノアート
創業 1933年(昭和8年)6月15日
本社所在地 岡山県岡山市北区富吉2827-3
代表取締役社長 藤原 恵子
資本金 3,000万円
事業内容 醸造機械・食品機械・バイオ関連機 器の開発、設計、製造、据付、販売 及びプラントエンジニアリング
URL https://www.fujiwara-jp.com/
〔ユーザ協会会員〕
PDF版はこちら

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら