企業ICT導入事例
-株式会社NTTマーケティングアクトProCX-カスタマーサービスからマーケティングの要へ
AIで大きく変革したコールセンターの役割
記事ID:D20015
ICTの急速な進化により、私たちのライフスタイルやワークスタイルは劇的に変化しました。それにともない、企業とお客さまの架け橋となるコールセンターに求められる対応力や役割も変化してきました。今回は、その変化に対し、AIなど最新技術を駆使して対応力を向上させてきた株式会社NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部 シニアプロデューサーの米林 敏幸氏、事業推進部 チーフプロデューサーの井上 雅博氏に話をうかがいました。
企業の成長に欠かせない 「お客さまの声」の重要性
(左)事業推進部 チーフプロデューサー 井上 雅博氏
(右)CXソリューション部 シニアプロデューサー 米林 敏幸氏
お客さまとの重要な接点「カスタマーサービス」の 拠点となるコールセンターは、デジタル環境の推移とともに進化してきました。コールセンターの活用を通じて企業の業務向上を支援するNTTマーケティングアクトProCXの米林氏は、その歴史をこう振り返ります。
「2000年代、メールやSNSが普及したことで、それまで電話のみだったコールセンターへの連絡手段が増え、受付窓口の多様化(マルチチャネル化)が進みました。さらに、2010年代にはスマホを利用したネットショッピングが増えるなど、商品購入手段の多様化(オムニチャネル化)が起こりました。購入手段の選択肢が店頭以外にネットなどへも広がるとともに、カスタマーサービスも電話のほかにメール、チャットなどお客さまの購入手段に合わせた応対が求められ、コールセンターの役割も変わり始めました(図参照)」(米林氏)
この結果、コールセンターには連絡手段や世代ごとに傾向の異なる、多様な声が寄せられるようになりました。井上氏は「この『お客さまの声』(VOC=Voice of Customer)に向き合うことがコールセンターにとって、さらに大事になりました」と説明します。
「コールセンターにはクレームのように顕在化された声だけでなく、潜在的な期待や要望が数多く寄せられます。そうした問い合わせにこそ、『(商品を)もっとこうしてほしい』などお客さまの強い思いが隠れている可能性があります。その潜在的なVOCを分析することで、企業の価値やサービスの向上に役立てることが、コールセンターに新たな役割として求められています」(井上氏)
音声分析がもたらしたオペレーター業務の改善
新たな役割を求められたコールセンターが活路を見出したのが、AIの導入です。
「カスタマーサービスでは、企業ホームページの『よくある質問(FAQ)』に寄せられる質問への回答の自動生成、メールや電話の応対を自動で行うプログラム『チャットボット』の導入などにAIが役立てられており、VOC分析にはAI音声認識技術が用いられています。お客さまはなぜお怒りで、どんな感情で話されているかなど行動や思考、感情を分析し、お客さまのニーズ、企業が取り組むべき課題を読み取ります。分析は専門の研究施設で30名ほどの専門家が行い、これまで200社近い企業データを蓄積してきました」(米林氏)
このニーズの探り出しについて、米林氏はあるコスメブランドの事例を紹介します。
「新商品のヘアブラシへの反響をコールセンターに寄せられた声を基に調査しました。分析の結果、このブラシは主に百貨店で売られる高級品なのですが『近所のバラエティショップで買えないのか?』という声や、同じブラシを二つ並べた新聞広告を見て『男女ペアセット、大小のセットで買いたい』といったニーズを拾い上げ、今後の事業の検討材料となりました」(米林氏)
また、AI音声認識技術はオペレーターの応対力の向上にも役立てられています。
「お客さまの通話音声から感情の起伏を認識し、オペレーターに応対の進め方をリアルタイムで支援しています。また、通話の自動テキスト化や多言語化にも対応するほか、オペレーターの応対の評価・指導にも利用されています。その結果、ある大手インフラ会社では通話のテキスト化作業から解放されたほか、オペレーターを全件ログデータからデジタル評価することで精度向上と公平性が確立し、応対の質が平均で30%、お問い合わせの解決率も25%向上、顧客満足度は18%引き上がりました」(井上氏)
同社は金沢にお客さまの声の分析・利活用に特化した拠点「LINKSPARK VOC Support Center(奏色)」を 2015年より開設。徹底的なVOC分析による顧客理解を通して企業の課題発見に向き合うワークショップや AIを活用した分析レポート、改善活動に向けたディスカッションなどを体感できるオープンな施設となっている
攻めの立場へ進化するコールセンターの未来
このように現在ではコールセンターでAIが活用されるようになりましたが、そこに至る道のりは試行錯誤の連続だったそうです。
「当初は、AIへの淡い期待から、とにかく『AIを導入する』という目的が優先された試験導入なども行っていましたが、3年前に『AIも万能ではなく、闇雲に導入するだけでは何も解決できない』と考えをあらためました。AI導入に取り組むには、どんな業務もまずは『その業務で何をAIに託して、何を人がするべきか』を見極めることで、成果が上がり始めました」(井上氏)
こうした見極め以外にも、顧客のニーズをめぐる苦悩もあったようです。
「企業が商品を売るには、お客さまの真のニーズに応えられることが大切ですが、その『真のニーズ』に行き着くことが本当に難しいです。例えば、お客さまが『ドリルが欲しい』と言われたとします。しかし、それはお客さまにとってドリルではなく、ドリルで開けられる『穴』が真のニーズかもしれません。そうした真のニーズを引き出す上でコールセンターの存在は欠かせません。
また、コールセンターに声を寄せられるお客さまは、たとえクレームでも自ら対話を求めてくる積極性をお持ちの時点で、企業へ熱い思いを持っている方だとも言えます。その思いを真摯に受け止め、対応していくことも、これからのコールセンターの役割だと思います」(米林氏)
カスタマーサービスの要であったコールセンターは、AI技術を取り込むことで、その声から「企業の伸びしろ」を探り出すダイレクトマーケティングの要へと進化し続けています。
会社名 | 株式会社NTTマーケティングアクトProCX |
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設立 | 2021年(令和3年)7月1日 |
本社所在地 | 大阪府大阪市都島区東野田町4-15-82 |
代表取締役社長 | 室林 明子 |
資本金 | 20億円 |
事業内容 | コンタクトセンター(コールセンター)ビジネスなどの業務プロセスの企画・設計、実施 |
URL | https://www.nttactprocx.com/ |
〔ユーザ協会会員〕 |
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