企業ICT導入事例
-株式会社ビヨンド-顔の見えないアバター同士の面接、AI面接を導入したIT企業の挑戦
記事ID:D20034
人手不足が社会的課題となり、若い人材の獲得競争が激化する中、クラウド/サーバー事業などを展開する株式会社ビヨンドは、採用活動にメタバースやAIを取り入れて注目を集めています。アバター同士の面接で求職者の内面を引き出すというこの取り組みについて、同社の代表取締役・原岡 昌寛氏と広報担当の小松 麻華氏に話をうかがいました。
学歴や外見に左右されないバーチャル面接を実施
代表取締役
原岡 昌寛氏
大阪市や横浜市に加え、海外にもオフィスを構える株式会社ビヨンドは、クラウド/サーバー事業、システム開発事業、Webサービス事業などを行っています。従来、同社は中途採用を中心に採用活動を行ってきましたが、人材不足により優秀な人材の獲得競争が激化したことで、新卒採用にも取り組み始めました。しかし、同社の知名度の低さが大きな課題だったと、代表取締役の原岡 昌寛氏は振り返ります。
「どうしたら多くの就活生に知ってもらい、ユニークな人材を集めることができるのかを検討し、2020年2月からオンラインゲームの中で会社説明会を行ったほか、YouTube Liveでも生配信し、オンラインゲームを持っていない人でも参加できるようにしました」(原岡氏)
しかし、この当時はまだ面接はリモートや対面などで行っていました。そこで、社内から「面接についても何か新しいことに取り組みたい」という声があがり、検討を重ねていました。そんな時、同社はカナダオフィスを創設し、現地で採用活動を行いました。同社はメイン事業であるサーバー事業において、24時間365日稼働することが求められるWebサービスやゲームコンテンツなどの運用品質を保つために、オペレーターではなく、より技術力の高いエンジニアを配置しています。クラウドの普及により、現地に張り付く必要はなくなったものの、エンジニアの夜勤は存在しており、それが採用を難しくしたり、離職の要因になっていたと言います。そこで、夜間帯の運用保守業務を13時間の時差があるカナダ・トロントで行おうと思い立ち、オフィス創設をしようと考えました。原岡氏はその際の経験が新しい取り組みのヒントになったと話します。
画像①:バーチャル面接は、就活生(左)と面接官(右)双方がアバターで会話する
「カナダでの面接では、求職者のプライバシー尊重のため、年齢や性別、家族のことなど尋ねてはいけない個人情報がたくさんありました。そのため、当初は戸惑いつつも主にスキルやキャリア、将来の目標などを聞いたのですが、意外にもこういった面接でも十分成立すると感じたのです。それなら、この手法を新卒採用に応用してみようと考え、履歴書不要で外見の印象にも左右されないアバター※1形式で行う『バーチャル面接』(画像①参照)を行い、学生の内面、人間性を知ることを重視した面接を実施しました」(原岡氏)
こうして2023年度卒向けの一次面接では、学歴や性別、年齢、選考状況は聞かないというルールのもと、学生が自分で作成したアバターと、アバターになった面接官によるバーチャル面接が行われました。
メタバースからAIへ独自の面接を次々と実施
画像②:メタバース面接は、就活生(左)と面接官(右)双方がVRゴーグルを着けて、3D空間のオフィスで会話する
翌年、同社はメタバース※2面接(画像②参照)を開催します。原岡氏は、前年のバーチャル面接からアップデートした経緯について、「当時はメタバースが旬の技術でしたので、新卒採用の面接に取り入れました」と話します。
しかし、メタバース面接はVRゴーグルなどの機材が必要なため、就活生が手配する手間が発生したり、3Dで画像がリアルになる分、通常のリモート面接と差がなくなったという課題がありました。そこで、2025年度卒向けでは「AI&バーチャル面接」を実施しました。
「昨今、生成AIが注目を集めていますので、一次面接にAIを取り入れました。AIを活用することで、先入観のない公平な選考を実施することができたと思います。AI 面接の後はバーチャル面接、最終面接という流れで開催しましたが、これまでのバーチャル面接やメタバース面接においても、最終面接はすべて私自身が実施しています」(原岡氏)
今後もバーチャル面接やAI面接を実施したい
広報担当
小松 麻華氏
一般的に、バーチャル面接やメタバース面接は、求職者にとって、「面接会場までの移動時間や交通費などが軽減される」「アバターで会話するので、心理的なハードルが下がる」といったメリットがあると言われています。一方、企業側にとっては、「遠方の人材も獲得できる」「求職者の本音が聞き出しやすい」「企業の先進性をPRできる」などの効果が期待できます。
実際に実施した同社はどう感じたのか、広報担当の小松 麻華氏は次のように語ります。
「独自の採用活動について各種メディアに取り上げられたことで、おもしろいことをする会社というイメージが広まり、認知度は上がったと感じています。現在は、それが採用につながるという良い流れができていると思っています」(小松氏)
一方、原岡氏は独自の採用活動に一定の手応えを感じつつ、課題も出てきたと話します。
「バーチャル面接やAI面接は、質問内容を決めたりマニュアルの作成に多くの時間や労力を要しますので、準備がとても大変でした。また、顔や年齢が分からない面接ですので、当初は就活生以外の方が遊び感覚で応募するのではという懸念もありましたが、それは杞憂に終わりました。実際に実施してみた感想としては、アバターで行った一次面接と顔を見ながら行った最終面接でのギャップを感じたことはあったものの、通常の採用活動では出会えなかったような人材に出会えたと思います。就活生からも『アバター同士の会話なので、口下手だけど自分が思っていることを話せた』という意見がありました。
ただし、AI 面接はAIが質問を深く掘り下げすぎて、結果的に同じような質問を繰り返していたという就活生の意見もありました。AI面接はこのような反省点はありますが、時間にとらわれず面接できることは大きなメリットですので、今後も質問を見直しつつ、時間の融通がつきにくい中途採用などにも活用していきたいと思っています」(原岡氏)
さらに、今後の採用活動について、原岡氏は次のように語ります。
「かつてエンジニアの世界は理系男性が中心でしたが、今では多様性が進み、女性や外国籍の方でも優れたスキルを身に付けた就活生が数多くいらっしゃいます。ですから、今後も年齢や性別、国籍などが見えないまま、スキルや人間性が見えやすいアバターを活用した面接を取り入れながら採用活動を続け、毎年数名は採用していきたいと考えています」(原岡氏)
コロナ禍を経て、リモートツールの活用をはじめとするコミュニケーションのスタイルは大きく変化を見せています。顔の見えない多彩なコミュニケーションに慣れた、若い世代を採用する上で、同社の取り組みは、大いに参考になるのではないでしょうか。
- ※1 アバター
- ネットワーク上の仮想空間でユーザーの分身として表示されるキャラクター
- ※2 メタバース
- インターネット上に構築された三次元の仮想空間
会社名 | 株式会社ビヨンド |
---|---|
創業 | 2007年(平成19年)4月4日 |
所在地 | 大阪オフィス/大阪府大阪市浪速区難波中1-10-4 南海SK難波ビル3F |
代表取締役 | 原岡 昌寛 |
資本金 | 900万円 |
事業内容 | クラウド/サーバー事業、システム開発事業、Webサービス事業 |
URL | https://beyondjapan.com |
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