企業ICT導入事例
-学校法人アルコット学園/しみずがおか幼稚園-チャットツール&AIで業務を着実に効率化!コロナ禍に幼稚園が取り組んだ先進的なDX
記事ID:D20027
昨今、幼稚園は少子化による入園児童の定員割れ、教職員の過酷な労働環境などの問題が重なり、経営難にある園が少なくありません。そのような状況の中、DXを推進して労働環境を改善した神奈川県横浜市の「しみずがおか幼稚園」が話題です。今回は同園の運営元・学校法人アルコット学園の鈴木 雄大副園長に、その取り組みの詳細についてうかがいました。
連絡共有の効率化が幼稚園業務の課題
副園長 鈴木 雄大氏
横浜市旭区の「しみずがおか幼稚園」は1960年に創立、これまでに5,000名以上の卒園児を育成してきました。園の周辺は宅地開発が続き、新たな子育て世代の転入が期待される地域ですが、それでも「子どもの数は毎年減少傾向にあり、幼稚園を取り巻く環境は厳しい状況が続いています」と、副園長の鈴木氏は話します。
「幼稚園は子どもの心身発達を育成する教育施設です。そのため、幼稚園は保育園と比べ、より充実した教育環境が求められますが、近年は保育園のように預かりといった保育面の充実も求められるようになってきました。この人手不足の時代に、そんな幼稚園を運営し続けるには、まず教職員の労働環境の改善が必要でした」(鈴木氏)
幼稚園は園児の安全を守るため、細やかな配慮や教職員と保護者のコミュニケーション、教職員間の正確な情報共有が必須です。しかし、そのための業務の中には非効率なものが多く、それが教職員にとって大きな負担になっていたと、鈴木氏は振り返ります。
「例えば、以前は園から保護者へ一斉連絡する際、印刷した手紙を園児一人ひとりのカバンに入れて届けていました。しかし、保護者に渡らなかったり、配り漏れといったことがあり、それを確認する術も整っていませんでした。また、園児の休みや早退などについても、保護者から口頭で伝えられていた情報が教職員全員に共有されていなかったために、送迎に支障が出たこともありました」(鈴木氏)
そんな状況の中、鈴木氏は「少しずつデジタル化を進めて業務の効率化を図っていった」と言います。
「以前は朝、私が保護者からの電話やメールの連絡をすべて確認、メモへ転記し、Excelで連絡事項をリスト化して業務開始前に教職員へ共有していました。連絡ミスと教職員の負担を減らすためでしたが、腱鞘炎になってしまうほど厳しい作業でした。そこで2019年頃から保護者の連絡手段として、文書のフォームを手軽に作成できるGoogleフォームを導入するなど、少しずつ効率化を図りました。それでも情報共有に負担を感じ、より本格的に仕事のやり方を変革するべくDXをスタートさせました」(鈴木氏)
Chatworkを導入しワンストップで連絡共有
しみずがおか幼稚園では180名ほどの園児を1組20名前後、9組で預かっている
2020年2月、しみずがおか幼稚園は情報共有の効率化を目指しビジネスチャットツール(以下チャットツール)を業務に導入しました。
「ちょうど新型コロナウイルス感染拡大が問題視され始めた頃です。濃厚接触者の確認や感染者が出た場合の伝達など、これまで以上に業務負担が増えました。そういった負担をチャットツールを使うことで軽減したいと考え、Chatworkを導入しました」(鈴木氏)
導入にあたり、鈴木氏が最初に考えたことは、慣れないデジタルツールに対して教職員がストレスを感じて使用を敬遠するようになれば、逆効果だということ。そのため、導入から1ヵ月は役職についている人だけで試験運用を行いました。
「使い方の疑問点を解消し、運用規則を定めた上で3月から教職員全員へ導入しました。きちんと使いこなすためにも『連絡は出欠確認用、お知らせ用、相談用など内容や目的ごとのグループ別に行う』『連絡への意志表示は、顔文字などで簡易返信するリアクション機能を使う』など、規則の明確化に時間をかけたのですが、これは上手に運用していくために重要な作業だったと思います」(鈴木氏)
チャットツールはその後、保護者からの連絡メールなどを自動転送・一斉共有できるよう改良することで、教職員同士のやり取りにも積極的に活用されるようになり、業務が大幅に効率化されました。その結果、2020年4月~5月の新型コロナウイルス感染拡大を受けての緊急事態宣言時には、園児の出欠連絡もすべてチャットツール内で確認できる環境が整いました。
「園児がお休みするとの連絡メールを受信すると、教職員全員がチャットツールで一斉に確認・把握でき、確認したらリアクション機能で返信します。おかげで、教職員間の伝言の必要も私の朝の業務もなくなり、全体で年間1,270時間分の業務圧縮を達成できました」(鈴木氏)
連絡帳の文章をChatGPTが提案
図:AI連絡帳の使用例(ケガの報告の場合)
しみずがおか幼稚園のDXはさらに進化し、2022年頃からChatGPTを活用して教職員の業務をAIでサポートする「質疑応答機能」の作成に取り組みました。その後、ChatGPTの研究を重ね、チャットツールと連携させた「連絡帳支援機能」を開発しました。
具体的には、連絡帳へ記載する文章のパターンを学習させたChatGPTに、教員からの依頼を受けた指導員(教員のサポート役)が園児の状況など必要項目を入力すると、下書きが提案され(図参照)、それを基に依頼した教員が連絡帳に文面を手書きします。同時にチャットツールにより、依頼した教員以外にも共有され、全員が参考にできます。この結果、以前は園児一人あたりに10分ほど要していた連絡帳作成時間が4分ほどに圧縮され、2023年度は教職員の業務時間をさらに1,000時間減らせる見込みです。
「保護者への連絡業務で、特に悩ましいのはケガの報告などです。例えば、園児が転んで膝を擦りむいた場合、担任は『きちんと状況を伝えて、保護者に安心してもらうにはどう書けばよいか』と悩み、それだけで1時間近く考えることもありました。さらに、悩んで書いた文面を上司の確認を経て書き直して…という業務を、園児を見守りながらこなすことは、教員の大きな負担になっていました」(鈴木氏)
このような業務負担を軽減するなど、4年間に及ぶ取り組みによって合計2,200時間以上の業務を圧縮できたことで、しみずがおか幼稚園では、教職員の残業ゼロと年間140日以上の休日を達成し、現在も継続中です。
「残業がなくなり業務の質も着実に上がったと感じています。このほかの効果として意外だったのは、求人です。この業界は20代の働き手の入れ替わりが多いのですが、取り組みの記事などを見た方からの問い合わせが増え、広告を出さずとも人材が集まるようになり、求人コストも削減できました」(鈴木氏)
幼稚園として先進的かつ高い成果を上げたDXの取り組み事例を基に、しみずがおか幼稚園は、DXを包括的にサポートするアプリケーション「DXプランナー※」を開発しました。
「『DXプランナー』はChatGPTをカスタマイズ(使用目的に合わせて設定変更・調整)したカスタムGPTで、私たちが取り組んだ実際のDXの事例を基に課題解決を提案してくれます。例えば、メールの非効率性の課題についてはビジネスチャットを提案します。業種や業界に適したDXの手順についてもアドバイスしてくれます」(鈴木氏)
DXを加速し続け、経験・蓄積を「DXプランナー」で広める取り組みが今後、全国の幼稚園や保育園へ波及することで、教職員にも、保護者にも、そして子供たちにもプラスになる環境が広がるはずです。
- ※ DXプランナー
- https://chat.openai.com/g/g-SqofDFpVi-dxpuranna
作成者:TAKASHI SUZUKI
※ChatGPTの有料プラン加入者のみが利用可能です
法人名 | 学校法人アルコット学園 |
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創立 | 1960年(昭和35年) |
所在地 | 神奈川県横浜市旭区中沢2丁目27番地1 |
学園長 | 鈴木 孝司 |
基本金 | 8億3,210万7,789円 |
事業内容 | 「しみずがおか幼稚園」の運営・教育事業 |
URL | https://www.arcott.ac.jp/ |
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