企業ICT導入事例

-株式会社斉藤総業-
建設業界の常識を打破し、働き方改革を推進した中小企業の取り組み

記事ID:D20036

千葉県船橋市を拠点に公共建設事業などに携わる株式会社斉藤総業は、近年ICTの活用で業務効率を向上させ、残業時間の削減や休日の増加など労働環境を大幅に改善して、注目を集めています。「従業員の健康を守りたい」との一心から同社の働き方改革をけん引した、専務取締役の中尾 美紀氏に、建設業界の常識を覆し、働き方改革を成功させたポイントについて話をうかがいました。

建設業界の厳しい労働環境を働き方改革で改善したい

専務取締役 中尾 美紀氏

 建設業界は長年にわたり常態化した長時間労働など、厳しい労働環境に課題がありました。特に中小企業の場合、休日は日曜祝日だけで土曜出勤は当たり前の会社が多く、残業時間の管理が不十分なケースも珍しくなかったと言います。30年以上建設業界で働く中尾氏は、残業時間の削減や休日の確保などがなかなか進まない現状が、いつか従業員の健康を損ねる原因になるのではないかと、常に不安を感じていました。そんな中尾氏が、自ら率先して働き方改革を推進するきっかけとなったのが、長時間労働が原因で発生した、ある大企業における過労自死事件だったと言います。

 「2016年にこの報道に触れ、会社がここまで従業員の健康に無関心で良いのだろうかと、大変なショックを受けました。当時は、弊社も月30時間近くの残業が当たり前の時代だっただけに、このままでは明日は我が身かもしれないと、強い危機感を覚えました。そして、早急に働き方改革を実践して、従業員の健康を守らねばならないと考えました」(中尾氏)

 同社の働き方改革は、まずタイムカードや日報などを導入し、従業員の勤務状況を正しく管理することから始まりました。しかし、昔ながらの働き方に慣れた従業員の中には、改革を窮屈に感じる考え方もあったようです。

 「打刻はするのですが、夜中や早朝にこっそり仕事をする従業員が現れました。『早く帰って休んでほしい』と伝えても、『では、誰がこの仕事をするのか』と問われ、返事に窮しました。2019年には『年間休日カレンダー』を制定し、土曜日にも休日を設け、盆暮れなどの季節休暇は連続10日程度を確保しました。年間を通じて休日を把握できれば旅行など計画が立てやすくなりますし、何より働き方にメリハリがつくと考え、これにより従業員もさぞや喜んでくれるだろうと期待しましたが、逆に『そんなに休んでばかりいたら仕事が終わらない』と不満の声が上がりました」(中尾氏)

ICTの導入により働き方改革が一気に浸透

スマホ入力の便利さはすぐに理解されたが、ルールの浸透には時間がかかった

 休暇をしっかり取れる環境にして、社員の健康を守りたい。しかし、それでは現場の仕事が回らない。そんなジレンマを克服し、働き方改革を推進するため、同社はDXに活路を求めました。

 「まず勤怠管理システムを導入し、従業員の勤務状況を可視化しました。以前のタイムカードや日報では、月末に締めた後でないと直行直帰や残業時間などの勤務状況が判明しないため、どうしても対応が遅れていました。しかし、導入後はリアルタイムで従業員個々の勤務状況が把握できるようになり、迅速な問題発見と対応が可能になりました」(中尾氏)

 同社は現在、スマホを利用した勤怠管理システムを活用しています。従業員は出退勤や休日出勤、残業や早出、有給休暇の申請をスマホへ入力するだけで完了できるようになったため、わざわざ出社して打刻する必要がなくなり、現場への直行直帰が可能になるなど、業務効率が大幅に向上しました。これにより、全員の労働状況がリアルタイムで把握できるようになった上、入力情報は給与システムに転送されて給与計算にも活用されるなど、現場だけでなく管理部署もさまざまな事務作業から解放されました。

 「導入初期は入力忘れなどが相次ぎ、定着には時間がかかりました。これまでの慣習から新しいルールへと転換するのは一筋縄ではいかず、定期的にシステムの入力や申請のルールを回覧し、高齢のスタッフを始め、従業員への周知を粘り強く図りました。さらに、個別の対応も積極的に行うことで徐々に理解が得られ、新しいルールが定着していきました(写真参照)」(中尾氏)

 残業時間の削減には、システムのアラート機能が役立っています。ひと月の残業時間が設定時間を超えそうな場合には、管理者と従業員本人にアラート通知が発信されるため、迅速な指導や仕事量の調整が可能になりました。こうした改革を進めるうちに、従業員にも労働時間を自己管理する意識が定着し、改革当初は月20時間に設定していたアラート通知を10時間に短縮した現在でも、アラートが鳴ることはないと言います。働く時間を自己管理する大切さが従業員に浸透してきたと、同社では分析しています。その結果、かつて月30時間近くあった残業時間が、今では約5時間程度と大幅な削減を実現しました。

 「今では残業が減った時間を活用して資格取得に励んだり、有給休暇を取って子どもの行事に出かける従業員の姿が当たり前になりました。従業員が働き方改革への理解を深めてくれていると実感しています。ちなみに2024年9月~2025年度の総休日数は103日です。お正月休みは9連休、ゴールデンウィークは11連休、お盆休みは9連休に設定し、2019年以来、事業年度開始前には『年間休日カレンダー』を制定しています(図参照)。このカレンダーは取引先にも公開されていますので、カレンダーを元にスケジュールを調整するなど、会社間の業務の効率化にも貢献しています」(中尾氏)

【図:年間休日カレンダーの抜粋(2024年12月〜2025年1月)】
事業年度開始前に制定するので、仕事や余暇の予定も組みやすい。サイトにも掲載するなどして、取引先にも周知している

原価管理システムの情報を社員全員で共有し積極活用

 勤怠管理システムで勤務状況を調整するだけではなく、業務の効率化によって働き方改革をさらに進めるため、同社は新たに工事原価管理システムを導入し、見積もりから仕入れ、請求、支払いなどの業務をシステム上で一元管理するようにしました。これにより、現場監督が見積書や受注案件の予算組み、仕入れの発注書などをシステムに入力すると同時に、経理部などの管理部署が金額チェックや請求書発行、支払い業務を行えるようになり、業務の精度やスピードが向上しました。
 また、工事原価管理システムは従業員全員が閲覧可能なため(入力には権限が必要)、誰がどの仕事にどのような形で関わっているのか、受発注金額はいくらなのかなど、情報の共有化も進んでいます。その結果、従業員の仕事に対するモチベーションまで変化が見られたと言います。また、担当者が不在の場合でも状況確認などに戸惑う事も減り、業務がより円滑に進むようになりました。

 「自分が携わっている仕事の利益率が一目瞭然になったため、従業員に収益意識が芽生えたことも成果の一つです。先日も利益率の低い現場に配属された若手従業員が、社長に『利益を上げたら金一封出してください!』とかけ合い、見事報奨にあずかりました」(中尾氏)

 同社が導入した管理システムは、いずれも既存の製品ですが、現場の従業員と管理部署が徹底的に話し合い、自社仕様の運営方法を確立しています。大企業と比べて、現場と管理部署の距離が近く、コミュニケーションが図りやすい、中小企業ならではのメリットを上手く活用している事例とも言えそうです。
 働き方改革を進めて約5年が経過した2020年、同社は経済産業省が制定する「健康経営優良法人」に社外の人に勧められて申請し、認定されました。さらに2023年、2024年には、中小規模法人でも優良な上位500法人しか選ばれない「ブライト500」に認定されました。この認定をきっかけに、同社の取り組みを知った企業からの問い合わせや、求人への応募が増加しています。働き方改革は、同社のブランディング強化にも結びつきました。
 建設業界は、以前から3K(きつい、汚い、危険)のイメージがあったものの、現在はICTを活用した業務改革を進めることで、イメージを払拭することが可能です。国土交通省も新3K(給与、休暇、希望)の方針を打ち出すなど、イメージの向上を図っており、その実現に向けて同社の取り組みは大きなヒントになると思われます。

会社名 株式会社斉藤総業
創業 1973年(昭和48年)4月
本社所在地 千葉県船橋市夏見5-23-13
代表取締役 斉藤 一昭
資本金 27億円
事業内容 公共事業を中心に、舗装工事、排水工事、構造物工事、河川工事など、数多くの建設事業を主に展開し、地域のインフラ整備に貢献している
URL https://www.saitousougyou.co.jp/
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