企業ICT導入事例

-会津乗合自動車株式会社-
利用者減やドライバー不足の課題解決へ向けバス会社が挑むAIデマンドバスの取り組み

記事ID:D20032

会津乗合自動車株式会社は少子高齢化に伴い人口減少が進む中、バス利用者の減少が課題となっており、さらに2024年問題によってドライバー不足が加速する懸念もありました。これらの解決策として取り組んだのが、AIが生成したバス運行ルートや運行スケジュールによって効率的な配車・運行を行うAIデマンドバスです。この取り組みについて、同社バス事業本部の小澤 睦氏と穴沢 信之助氏に話をうかがいました。

AIが効率的な運行ルートやスケジュールを生成

バス事業本部 乗合バス部長
安全サービス課長
小澤 睦氏

 福島県会津若松市の会津乗合自動車株式会社は、路線バスや高速バス、貸切バスを運行するバス事業やタクシー事業などを行っています。人口減少が進む地方において、同社ではバス利用者の減少が課題となっていました。その解決策として着目したのが、AIデマンドバスでした。
 デマンドバスは、路線バスのように決められた時間に決められたバス停を回るのではなく、利用者が事前に予約を入れて指定された時間に指定された場所へ送迎するサービスです。そして近年は、AIを活用して最適な運行ルートや運行スケジュールを導き出すAIデマンドバスが注目されています。
 同社が最初にAIデマンドバスを導入したのは、会津若松市内の大手メーカー従業員用の通勤バスでした。

 「そのメーカーでは、自家用車で通勤する従業員が多いため、駐車場不足が課題となっていました。バス利用への転換を促すために定期バスを増便しましたが、利用が進まず、AIデマンドバスを導入しました。利用者からは『既存のバス停よりも自宅に近い場所で乗降できるため、遠いバス停まで歩かずに済むので助かる』といった声をいただきました」(小澤氏)

 その後、同社は国土交通省の助成制度などを活用しながら、市内の観光地を巡るバス、夜間に市内飲食店街へ向かうバスなどを期間限定で運行し、AIデマンドバスの実証実験を重ねてきました。

自宅から近くて便利なバーチャルバス停を設置

「西会津町デマンドバス こゆりちゃん号」の定員は12人

 2021年11月から2022年3月にかけて、同社は福島県西会津町でAIデマンドバス「西会津町デマンドバスこゆりちゃん号」の実証運行を行いました。西会津町では以前からデマンドバスを運行していましたが、老朽化した既存の予約システムの切り替えと、乗客の利便性の向上、町全体の交通の効率化を図るため町と協議を重ねた結果、AIデマンドバスの導入に至りました。同社バス事業本部の穴沢氏は、AIデマンドバス導入の効果について次のように解説します。

バス事業本部
乗合バス部・タクシー事業部
輸送管理課 主任
穴沢 信之助氏

 「以前のデマンドバスは時刻表が存在し、あらかじめどの便に乗りたいかを電話で予約するというものでした。しかし、AIデマンドバスを導入したことで、従来の便に加えてお客さまが利用したい時間帯に、自宅のそばにバスを呼ぶことができるようになりました。当社としても、以前は予約に合わせてドライバーなどが運行ルートを考えていましたが、AIで最適な運行ルートを導き出せるようになったため、ドライバーの業務負荷が軽減され、効率的な運行が可能になりました」(穴沢氏)

 また、バス停は既存の207ヵ所に加えて、バーチャルバス停が100ヵ所設けられ、利用者の利便性は大幅に向上しました。予約は電話受付(8~17時)のほか、24時間受付可能な専用アプリを導入したため、利用者は予約はもちろんキャンセル時に電話をかける手間も不要となりました。

 「西会津町デマンドバスこゆりちゃん号」は、実証運行後の現在も継続して運行しています。そして、2022年4月からはドライバー数を実証運行期間中の7人から1人減の6人とすることができました。

市街中心部の約500ヵ所から自由に乗り降り可能

道幅が狭く、中型以上のバスが通行できないエリアも通行可能な「MyRideどこでもバス」

 2023年12月には、国土交通省の地域公共交通共創事業により、会津若松市や病院など複数の団体と連携し、市内のまちなかエリアで、AIデマンドバス「MyRideどこでもバス」の実証運行を行いました。2021年にも一部の公共交通空白地域を対象に、AIデマンドバスの実証を行った経緯があり、今回はその結果と課題を踏まえ、さらに各団体と連携して地域全体で取り組みました。将来的な本格運行を見据え、今回はまちなかエリアで運行している定時定路線型の自主路線バスの日中便を一部運休し、AIデマンドバスに置き換えるという大きな取り組みです。予約は専用アプリと電話ででき、乗降ポイントは既存バス停190ヵ所にバーチャルバス停308ヵ所を加えて計498ヵ所となり、利便性が向上しました。

 「当初、実証運行は2024年2月までの予定でしたが、お客さまから『時間を気にしなくてよくなった』『今までの定時定路線バスと違って行動範囲が広がった』といった声があり、また、本運行に向けてより多くのデータを集めたいと考え、5月まで延長しています(取材後、さらに2025年1月まで延長)」(穴沢氏)

 また穴沢氏は、同社のIT化の取り組みについて、以下のように話します。

 「各種事務処理に関しては、いまだに紙ベースのアナログな処理が行われ手間がかかるものも多いので、ドライバーが毎日記録する日報をデジタル化するなどで、効率化を図っていきたいと考えています。さらに現在取り組んでいるのが、IT点呼です。これは離れた場所にある2つの営業所で、片方の営業所に出社したドライバーの点呼を、もう一方の営業所の事務員がリモートで行うというものです。従来、それぞれの営業所で事務員とドライバーが対面により実施していたのをリモートにすることで、将来的には営業所の集約や事務員の生産性向上に繋がると考えております。今後、実施営業所の更なる拡大を検討していきたいです」(穴沢氏)

 小澤氏は、今後の同社のAIデマンドバスの取り組みについて、次のように話します。

「バス事業者として、物流・運送業界の『2024年問題』も相まって、今一番悩ましいのはドライバー不足です。AIデマンドバスを導入することで、より効率的な運行を実現して、ドライバーの稼働を極力抑えながら、多くのお客さまに利用していただきたい。そのための施策を今後も続けていきたいと考えています」(小澤氏)

 会津若松市では現状、バスよりも自家用車の利用が一般的なため、AIデマンドバスによってバス利用者が大幅に拡大したというような明確な成果は得られていません。しかし、小澤氏は「この取り組みは何より継続性が大事。お客さまへ定着させるためにも、続けなければならない」と強調します。
 現在、高齢ドライバーの交通事故が問題視されているため、このまま高齢化が進むとバスなどの公共交通はますます必要不可欠な交通手段になるでしょう。一方、慢性的なドライバー不足の問題もあるため、同社のようにAIデマンドバスを活用した取り組みは、より一層注目を集めそうです。

※ バーチャルバス停
標柱を置かないバス停。利用者のリクエストに応じて乗降場所になる。
会社名 会津乗合自動車株式会社
創業 1943年(昭和18年)7月31日
本社所在地 福島県会津若松市白虎町195
代表取締役社長 佐藤 俊材
資本金 5,000万円
事業内容 一般乗合旅客自動車運送事業 一般貸切旅客自動車運送事業 一般乗用旅客自動車運送事業
URL https://www.aizubus.com/
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