企業ICT導入事例

-株式会社九州パール紙工-
都市圏のプロ人材の経験を、地元の若手へ継承 外部人材を活用した地方企業の成長戦略

記事ID:D20031

少子高齢化による労働人口の減少に伴い、地方の中小企業のデジタル人材の確保はより困難となっています。この問題を、外部人材(副業・兼業)の雇用で解消したのが佐賀県小城市の株式会社九州パール紙工です。今回は、同社の皆良田かいらだ 吉博常務取締役に外部人材活用の取り組みについて話をうかがいました。

都市の副業人材を活用しデジタル人材を育成

常務取締役 営業本部長
皆良田かいらだ 吉博 氏

 佐賀県の九州パール紙工は、食品容器や包装資材の製造・販売を、主にルート営業によるオーダーメイド受注で行っていますが、2017年に県の支援を受けながら楽天市場にてネット通販を始め、新たな販路開拓を目指しました。その当時を、人事も担当する皆良田氏は次のように振り返ります。

 「県の担当者から『ECサイトを片手間で運用することは難しいため、ネットに精通した専任スタッフをおくことが理想的』と助言をもらいました。そこで、デザインセンスのある女性スタッフにECサイト専属の担当者として取り組んでもらいましたが、社内で相談できる人材がいない中、一人で孤軍奮闘してもらったものの、大きな成果は得られないまま退社してしまいました。しかし、彼女が作った楽天市場のECサイトのぺージは残ったままでしたので、少ないながらも注文は継続してあり、その対応・発送を事務職に託す状態が続いていました」(皆良田氏)

  当時のネット通販は、おせち料理の需要が高まる年末に紙重箱の注文が集中し、月100万円を超える売上があったものの、それ以外の月は10万円にも満たない状態でした。そんな状態を一変させたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大だったと言います。

 「コロナ禍でルート営業による売上が大幅に減少しましたが、幸いなことにECサイトには注文が殺到しました。そのため、再び専任スタッフの必要性が高まったものの、募集しても適任者が見つからず困っていました。そんな時に佐賀県主催の副業人材のセミナーに参加し、これが外部人材の活用を考えるきっかけになりました」(皆良田氏)

 佐賀県は、新卒・専門人材の県外流出に苦慮する地元企業の経営を後押しするべく、副業・兼業で雇用する外部人材の活用を支援していました。セミナーを受講した翌日、皆良田氏は早速、人材紹介サービス企業の協力を得て採用活動に取り組みました。

 「外部人材の方とは、月3~4回のリモート会議(写真①参照)とLINE WORKSでのやり取りを通して業務を進めています。最初はまず2021年1月に東京のクレジット会社の部長職の方と1年間契約を結び、新卒社員へECサイト運営に必要なノウハウを指導してもらい、指導方法も吸収させてもらいました。実績のある方による的確な指導のおかげで、社員は現在、ECサイトの店長として活躍中です」(皆良田氏)

写真①:外部人材とのリモート会議の様子

外部人材の提案からSNSで思わぬ効果も

写真②:九州パール紙工のInstagram より。得意先が自社の容器を使用した商品写真とPR文を投稿

 外部人材の活用は、さまざまな効果をもたらしました。オーダメイド受注が主力だった同社では商品パンフレットを制作しておらず、新規営業に役立てられていないことを前述の部長職の方から指摘を受け、皆良田氏は「新たに外部人材と契約し、制作をお願いしました」と話します。

 「東京のデザイナーと3ヶ月契約しました。この方には、パンフレットを活用するには『有名な得意先に商品の良さを話してもらうと説得力が増す』と提案をもらい、得意先のホテルニューオータニ佐賀の支配人にご協力をいただきました。デザイナーの提案は、私どもでは思いつかないアイデアばかりで、とても良い刺激になりました」(皆良田氏)

 また、皆良田氏は「外部人材の方の助言を受けながらInstagramを活用し、大きな効果が生まれました」と話します。

 「会社のPR向けに開設していたTwitter(現X)の公式アカウントを、2022年にInstagramへ移行させ、投稿がしっかりフォロワーの目に届くよう毎日更新しています。その中で気をつけていることは、受注開拓に結びつくように目的を絞って更新すること。フォロワーを無闇に増やしても、投稿の反応が測りにくくなるので、投稿は仕事関連の内容に絞り、主に弊社の容器が用いられた得意先の商品を投稿しています(写真②参照)。その結果、今ではルート営業の際に得意先から『投稿みたいな盛りつけをしたい』と注文や相談を受けるようになったほか、『うちの商品も載せて』と言われるなど、好意的な反応を受けることが多くなりました」(皆良田氏)

 このほか、皆良田氏は「学生の求職率が上がりました」とInstagram活用の意外な効果を明かします。

 「弊社のInstagramアカウントの二次元コードつきの会社資料を地元の高校へお渡ししたところ、会社見学の応募が殺到し驚きました。採用面接でも『Instagramで御社に興味を持ちました』と必ず言われます。以前は学生が業務内容をきちんと理解せずに就職し、早々に離職することもありましたが、学生がInstagramの投稿を目にしていたおかげで仕事への理解も高まり、離職率も下がっています」(皆良田氏)

 現在、同社はウェブマーケティングの外部人材として新たに2名と契約中です。

 「二人とも熱量が高く、通常のリモート会議以外でも深夜にLINE WORKSで『どうやって商品をアピールするか?』『メルマガの文言をどうするか?』など、私や社員が携わらずとも積極的に取り組んでくれています。最近も、弊社が楽天市場のECサイトとは別に立ち上げたオンラインストアについて、外部人材の一人が『お箱やさん』というサイト名を提案してくれました。この名称は、『その人の最も得意とする芸や技』を表す言葉の『十八番(おはこ)』と、弊社の主力商品でもある折箱、紙重箱などの『箱』をかけ合わせたもので、とても気に入っています。オンラインストアの知名度の向上 は、ウェブマーケティングの今後の課題でもありますので、ぜひ『お箱やさん』の名称を広めたいと考えています」(皆良田氏)

外部人材を活かすために中小企業に必要なこと

 同社は外部人材の活用などさまざまな取り組みが功を奏して、経常利益が倍増したほか、社内のデジタルリテラシーも向上し、大きな効果を上げています。その経験をふまえて皆良田氏は、外部人材を雇用する上で大切なことを次のように話します。

 「外部人材の活用は、自社に不足しているノウハウを低コストで早く得るという意味で、とても有効な手段だと感じています。しかし、契約は長くても1年、短期的に結ぶのが良いというのが私の教訓です。専門性の高い外部人材とは明確な目標の達成が目指せますが、その期間が長引くとどうしても業務のマンネリ化が生じてしまい、お互いにとって良い結果になりません。そのため、弊社では短期的に人材を入れ替えながら、新しいアイデアを取り入れるようにしています」(皆良田氏)

 一方で、外部人材の採用に対する「社内の理解を得ることがとても重要です」と、話を続けます。「リモート業務で仕事が見えにくい外部人材は、現場からは『何をしているのか分からない』『本当に必要な人材なのか』などと思われがちです。こうした疑念から不協和音が生じないよう、必ず社内で理解を得るべきです」(皆良田氏)

 外部人材の活用は、社風次第では特に環境作りが難しいかもしれません。それでも中小企業にはデジタル人材を育て成長し続けるための大きな手段となるはずです。

会社名 株式会社九州パール紙工
設立 1966年(昭和41年)10月1日
本社所在地 佐賀県小城市牛津町大字柿樋瀬468
代表取締役 坂本 正光
資本金 3,000万円
事業内容 紙容器・ウッド容器各種の製造・販売、包装資材の販売など
URL https://www.kyusyu-pearl.co.jp/
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