企業ICT導入事例

-株式会社デリシア-
地域密着型で取り組む長野県のネットスーパーの挑戦

記事ID:D20033

近年、コロナ禍による「巣ごもり需要」などをきっかけに、スーパーマーケットや日用品などのネットショッピングが、すっかり消費者の生活に浸透しました。2022年にネットスーパーのリニューアルを行い、それまでの約1.5倍の売上を達成した、株式会社デリシアのネットスーパー事業課長の宮下 竜矢氏に、ネットショッピングの現状、成功に導くためのポイントや将来の可能性などについてうかがいました。

地域に密着した店舗型のネットスーパーを展開

ネットスーパー事業課長
宮下 竜矢氏

 経済産業省が発表する日本の電子商取引に関する市場調査によると、2022年度の日本国内の消費者向け電子商取引(BtoC EC)の市場規模は22兆7,000億円で、前年比9.91%の伸びを記録しました。ネットショッピング市場は、高齢化や過疎化で増加する「買い物困難者」や、コロナ禍で生まれた「巣ごもり需要」の急増などを背景に、この10年間ほぼ右肩上がりの成長を続けています。長野県下を主な商圏とする、地域密着型のスーパーマーケット「デリシア」が運営する「デリシアネットスーパー」も、2022年にそれまでの宅配サービスをリニューアルして開設して以降、従来の約1.5倍の売上を達成するなど、業績は好調に推移していると言います。

 「長野県は面積が広い上に人口密集地が少ないため、リアルな店舗展開が大変難しい土地柄です。そこで弊社は、買い物にお困りのお客さまを主な対象に、1984年にネットショッピングの前身となる宅配サービスを始めました。当時は注文を長野市と松本市の配送センターにいったん集約し、そこから一括して県下に商品を配送する『センター型』のシステムを採用していました。2012年からインターネットによる受注も開始しましたが、どうしても商品到着までの時間がかかり、お客さまから不満の声が寄せられることもありました」(宮下氏)

 現在、同社が展開するネットショップ「デリシアネットスーパー」は、2022年9月にサービス提供を開始した「店舗型」と呼ばれるネットスーパーです。店舗型ネットスーパーとは、顧客の居住エリアをサービス圏内に持つ店舗から直接配送するもので、インターネットで注文のあった生鮮食品などをより短時間かつ鮮度の高い状態で配送できる、地域に密着したサービスです。
 同社は現在、県内17店舗で「デリシアネットスーパー」を展開しており、店舗からは1日3~4回の頻度で配送が行われ、原則として午後2時半までに受けた注文は、午後4時~6時に配送が完了します。また、配送料は購入金額が5,000円未満まで440円(税込)、15,000円以上で無料になるなど、5段階に分けて細かく設定し、顧客の負担軽減に努めています。

 「ネットスーパーの利用はコロナ禍に急増したのですが、当時は2店舗での対応だったため、対応が追いつかず大変苦労しました。そこで、2022年9月に多店舗型の『デリシアネットスーパー』を開始し、以降は会員数が順調に増加して今では1万人を突破しています。会員の定着・増加は、コロナ禍にネットスーパーを利用されたお客さまに利便性を実感していただけたことが大きな要因になったと思います。取扱商品も、従来の倍以上となる12,000品目を達成しています」(宮下氏)

アプリの導入で操作性や業務効率を改善

写真①:使い勝手の良いアプリを導入したことにより、若年層など新しい顧客層の開拓にも成功した

 「デリシアネットスーパー」の開設にあたり、同社が最も力を入れたのが、誰もが容易にスマホから注文ができる、分かりやすい操作性の構築です。

 「お客さまからの注文は、パソコンからでもスマホからでも可能ですが、特にスマホでの買い物のしやすさが以前と比べて進化しました。コロナ禍当時、想像以上の数のネット注文が殺到したのですが、当時のパソコンで使用することを想定したWebサイト中心に組まれたシステムですと、スマホでは画像などの情報が適切な位置に表示されないなど、使い勝手に難があり、多くの商機を逃していました。そこで、スマホアプリの導入で改善を図りました」(宮下氏)

 現在、「デリシアネットスーパー」の商品カタログは、「野菜」「果実」「お肉」などが分かりやすく整理されているので、購入したい商品カテゴリーにワンタップでアクセス可能です。キーワード入力による商品検索も実現し、素早い買い物を実現しました。またスマホアプリにおける「お気に入り登録」、「買い物履歴からの関連商品検索」など、アプリならではのサービスに対しては、お客さまから「使いやすくなった」「買い物が楽しくなった」といった声が多く寄せられ、若年層を始めとする新規顧客の開拓や、売り上げ増の実現に結びつきました(写真①参照)。

「当初はネットスーパーがリアル店舗の売り上げに影響を及ぼすのではないかと言った議論もありましたが、杞憂でした。これまで月に1万円を消費されていたお客様に、両方併せて12,000円のお買い上げをいただくなど、新しい売り上げが生まれていると考えています」(宮下氏)

 また、店舗や本部のスタッフ向けのシステムも刷新し、商品ピッキングなどの作業にもスマホアプリを導入しました。スマホアプリは顧客の利便性を高めただけでなく、同社の業務改善にも貢献していると宮下氏は言います。

写真②:ピッキング作業の業務負担はアプリ導入により大幅に軽減され、ミスも激減した

 「出荷商品のピッキング作業が大幅に合理化されました。これまでは紙にプリントした出荷リストで一点ずつ商品を確認しながら行っていた作業が、今ではスマホのアプリに商品の写真が表示され、さらに商品コードにスマホをかざすだけでチェックが終了(写真②参照)するため、作業速度が飛躍的に早くなり、チェックミスも劇的に減りました。スピードや精度の違いなど、スタッフの経験値などで差が生じていた問題も大きく解消され、1時間当たりの作業点数も約1,3倍に向上しました」(宮下氏)

 このほか、「デリシアネットスーパー」と同社の基幹システムのデータを連携させたことで、商品の商品マスタ登録の手間が大幅に削減され、多店舗展開の大きな原動力になったと成果を語ります。

 「従来のシステムだと、ネットスーパー各店それぞれの商品マスタをすべて一から登録する必要がありました。しかし、現在はネットスーパー各店の商品マスタが基幹システムと連動しているため、店舗ごとに商品マスタを作る必要がありません。このことが、現在の17店舗で『デリシアネットスーパー』を運営する多店舗展開の大きな助けとなっています」(宮下氏)

生成AIを活用してさらなる進化を模索中

 高齢化や過疎化などを背景に、ネットスーパーの需要はまだ伸びそうですが、新規参入には慎重な姿勢と頼れるパートナーの存在が重要だと宮下氏は語ります。

 「新規でネットスーパーを運営するなら、いきなり多店舗で開始するのはおすすめできません。確実に利益が見込める店舗から小規模に始め、ノウハウを蓄積しながら徐々に広げていくのが成功のカギだと思います。ネットスーパーはリアルな店舗と比べて小売業よりも物流業に近い面もあるため、他業種の専門知識が必要とされる場合もありますので、ビジネスパートナーがいると心強いですね。弊社の場合は、アプリ導入後もベンダーがコンサルタント的な立場で継続して事業をフォローしてくれるサービスを積極的に活用しています」(宮下氏)

 また、今後の戦略について宮下氏は、生成AIの活用について抱負を語ります。

 「リアル店舗とネット店舗の顧客情報をきちんと結びつけて、互いの動向に最適な販促を展開できるシステムを開発中です。例えば一人暮らしのお客さまに、『まとめ買いはお得ですよ』とアピールしてもそれほど響かないでしょう。得られた顧客データをAIで解析し、一人ひとりの生活スタイルや嗜好に合わせた個別の販促プランをAIで生成するといったことを実現させたいと考えています」(宮下氏)

 今後、高齢化が進み、買い物に困る方のさらなる増加が予想される中、社会を維持していく上でネットスーパーは必要不可欠な存在だと言えます。そんな状況において、同社の取り組みは大きなヒントになりそうです。

※ 商品マスタ
商品ID、商品名、商品区分、仕入れ区分など、商品のさまざまな管理情報をまとめたもの。
会社名 株式会社デリシア
設立 1968年(昭和43年)3月
本社所在地 長野県松本市今井7155-28
代表取締役社長 萩原 清
資本金 5,000万円
事業内容 長野県内で60店舗を展開する、地域密着型の食品スーパー企業
URL https://www.delicia-web.co.jp/
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