ICTコラム
第4回 民間企業と行政機関のRPA活用事例第3回では、RPA(ソフトウェア型ロボット)と従来型の技術やシステムとの違いについて、工場で稼働する産業用ロボットと従来のオフィスワークとの比較などを例に挙げて解説しました。今回は、RPAの民間企業と行政機関の活用事例を紹介し、それぞれ解説いたします。
RPA活用事例(民間企業の場合)
RPAの導入について、業務・業種の観点から見て大きく先行しているのは、財務、購買、人事、給与の分野である。例えば経費精算業務では、これまで基幹システムに入力する経費情報の審査やデータの基幹システムへの投入、基幹システムからデータをダウンロードして変換、といった作業の自動化ケースが多かった。しかし、2018年前半からは、製造業における工場の生産管理や小売・流通業における店舗運営などの事例が出始め、2018年後半からは国や自治体、医療機関などでのオフィスワークを自動化する事例が増えている。そこで、民間企業におけるRPA活用の代表的な事例を、作業工程をふまえていくつか紹介する。
(1)電話会社が新規回線の加入申請入力や設定を自動化した事例
①電話の加入や変更の申請を受付
②申請書の受付内容を、申請管理簿に記載して管理
③Web上の申請受付システムに、申請書の記載内容や設定情報を反映
④申請受付システムに表示される受付番号をコピーし、申請管理簿に追記
⑤申請が完了した旨を、お客さまの担当者にメールで通知
①~⑤はRPAが自動で業務を行っている。この電話会社では、RPA導入により受付作業時間を削減できたことはもちろん、申請の受付から完了までの期間を短縮でき、顧客満足度も向上している。
(2)エネルギー会社が利用料金収納業務を自動化した事例
①基幹システムから滞納している利用者の顧客番号を出力(基幹システムから出力できるのは顧客番号のみ)
②顧客管理システムを立ち上げ、顧客番号で検索
③表示される顧客名や電話番号、滞納履歴、督促履歴などをコピーし顧客番号リストに転記
④督促すべき顧客リストを督促係に送付
①~④の業務についてもRPAにより自動化されている。効果としては、督促準備作業の削減や転記ミスの防止による業務品質の向上はもちろん、古くて反応の遅いシステムを検索してコピー&ペーストしなければならなかった職員の精神的負荷も軽減された。
(3)システム運用業務
①RPAが運用監視ソフトを起動後、操作対象サーバーを選択しログイン
②リストに基づき、取得するログの開始と終了日時を指定し、検索
③検索結果をCSV形式のファイルとして、所定のフォルダに保存
このようなシステムの運用ログを管理・集計する業務でもRPAによる自動化で効果が出ている。これは、上記作業をサーバーの数だけ繰り返して実施したケースである。
①~③では、RPA導入前はヒューマンエラー防止のために2名1組で実施していたが、RPA導入後は、人は最終確認だけで済むようになっている。その結果、1日に2名体制で1時間以上かけていた運用業務を、ほぼ完全自動化で行うことに成功している。
RPA利用事例(行政機関の場合)
(1)新規事業所登録業務
①地方税ポータルシステム(eLTAX)から、新規事業所の情報が届く
②情報をRPAツールが扱いやすいExcelの表形式に変換
③RPAツールがExcelの新規事業所データを個人住民税システムに登録
④登録した事業所情報の検索を行い、確かに登録されていることを確認
上記は個人住民税業務において、新規の事業所情報を基幹システムに登録する業務を自動化した事例である。RPAは、上記③~④の作業を事業所情報の件数だけ繰り返して実施している。これは、地方税ポータルシステムという自治体共通のASPサービスと、自団体の基幹システムをつなぐ作業をRPAにより自動化している。
(2)育児支援ヘルパー派遣業務
①前段として、ヘルパーの派遣を希望する住民は、基本情報を登録しておく
②住民が電子申請にてヘルパー派遣依頼を行う
③電子申請から、ヘルパー派遣依頼をダウンロードする
④ダウンロードしたヘルパー派遣依頼情報と、事前登録情報を照合する
⑤依頼情報を基に、ヘルパー事業者への派遣指示書を作成する
⑥派遣指示書をメールに添付し、ヘルパー事業者に送付する
この育児支援ヘルパー派遣業務の事例は、上記①~⑥の作業をRPAにより自動化したものだが、民間企業において受発注業務を自動化しているものと同じような仕組みである。電子申請を受け付けてから、ヘルパー事業者への依頼までをワンストップ化するシステムを作るとなると大ごとであるが、人手でもやれることはRPAツールに置き換えれば良いと割り切れば、この程度の仕組みで済むのだ。また、育児支援ヘルパー派遣業務のように、全国共通ではなく自治体ごとに異なる制度の自動化にも、RPAのような小回りの利く自動化は向いていると言える。
(3)申請書類や報告書類の自動入力
現在、AI-OCRの登場により、紙の取り扱い技術が劇的に成長している。OCRとは光学的文字認識技術(Optical Character Recognition)の略で、JPEGやPDFなどの画像ファイル中の文字を、テキストデータに自動変換する技術である。OCR自体は、40年以上も前から商用利用されてきたが、AI(人工知能)技術を用いた文字画像解析技術の進展により、手書きの文字も正確に変換できるようになった。
例えば住民や企業から提出される確定申告書や給与報告書、転出入届け、行政サービスの利用申し込み書、総務省から求められる各種報告書などの入力業務の自動化が期待される。
そこで、AI-OCRを用いた活用事例を作業工程をふまえて紹介する。
①申請書類や報告書類を受け付けて、整理する
②書類をスキャナで画像に変換する
③画像をAI-OCRに取り込ませ、文字をテキストデータに変換する
④RPAツールが、テキストデータを基幹システムに投入する
これは①~④の作業を、スキャナやAI-OCR、RPAツールなどを組合わせて自動化している事例である。AI-OCRの登場により、従来は自動入力できなかったような手書きの文字まで、自動入力できるようになった(図参照)。従来型のOCRの導入を検討し、断念した経験のある方には、ぜひ再評価してもらいたい技術である。
▲図:AI-OCRの活用事例
本来、申請書のレイアウトを自らコントロールできる立場の行政機関は、自動入力しやすいレイアウトを作成してから申請業務を始めるべきであった。適切な制度設計さえ行っていれば、従来型のOCRでも十分に自動入力できたのだ。それなのに、申請を受け付ける業務の効率性を考慮せずに制度を設計したがために、自らが作った申請書の入力作業で自らが苦しむ、というもったいない状態になっていると言える。AI-OCRであっても、好ましいレイアウトというのは存在するので、今後の制度設計の際は受付業務の自動化を考慮していただきたい。
次回は、RPA導入の基本方針に基づく「推進体制」や「推進手順」などについて解説する。
(次回へ続く)
中川 拓也氏
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 社会基盤ソリューション事業本部 社会基盤部ソリューション事業部 RPAソリューション担当課長
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