ICTコラム

第3回 RPAと従来型の技術やシステムとの違いとは?

第2回では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入目的とその効果について、さまざまな特徴や課題などをふまえながら解説しました。第3回の今回は、RPAと従来型の技術やシステムとの違いについて、具体的事例を交えながら解説いたします。

RPAの適用対象について

 これまでの連載を読んだ読者の中には「RPAとは、Excelマクロ(Excelの複数の操作を記録して、自動的に実行させる機能)と同じようなもの」と思った方もいるのではないだろうか。たしかに自動化ツールという点では、Excelマクロなどと本質的な違いはない。ただ違うのは、RPAには「適用対象にできるアプリケーションの幅広さ」があるということである。

 例えば、RPAであれば、人の手でやるしかないと思われていた自社の基幹システムと、外部のクラウドサービスをつなぐパソコン操作でさえ、両アプリケーションに手を加えることなく自動化できるのだ。従って、適用対象はいくらでもあることを理解していただけるだろう。特にクラウド型の外部サービスを使うことがますます増え、職場のシステム環境が多様化している現在、複数のアプリケーションをつなげることのできるRPAのニーズはますます拡大していくだろう。

 またRPAは、プログラミング知識不要の容易さから、業務部門の担当者が自ら使いこなすことが可能となっている点も大きな違いである。これまでのようにIT部門や外部ベンダーに業務内容を引き継いでアプリケーションを開発してもらう負荷がないため、IT部門のリソースや予算がボトルネックになることもなければ、システム化のための引き継ぎコストもなく、業務部門主導で改善活動を進められるようになった。

既存の情報システムとRPAとの関係

 そこで、既存の情報システムとRPAにおける自動化の比較を、ある大規模工場とオフィスを例にして解説してみよう。

▲図:「工場」と「オフィス」の自動化の比較

 まず、右下の図を見てもらいたい。この工場内にはベルトコンベアなどの生産設備が中心にあり、その周りで比較的安価で小回りの利く産業用ロボットが稼働し、産業用ロボットには真似できない繊細な作業や、設備と産業用ロボットをメンテナンスする作業をブルーカラーワーカーが支える、という三層構造になっている。

 一方、従来のオフィスワークは、ERPパッケージ※などの情報システムが中心にあり、その周りで情報システムを扱う作業をすべてホワイトカラーワーカーで対応するという二層構造である。もちろんホワイトカラーの作業を減らすことは検討され続けてきたが、発想の中心は情報システムの機能追加であり、どうしても大がかりになるため費用対効果の出ないケースが多い。そのため、ホワイトカラーで対応するしかないという結論になりがちであった。この二層構造を効率性の高い三層構造に変えることが、RPAという概念の神髄と言えるだろう。ここでは2層目(中間層)を形成するのがRPAツールである。

RPAツールとは何か

 RPAによる業務自動化を簡単に実現するためのツール(商品)が「RPAツール」と呼ばれているものであり、RPAのブーム以降、多数のツールが誕生してきた。日本国内では2010年にNTTの研究所で生まれたWinActor(ウィンアクター)/WinDirector(ウィンディレクター)がシェアNo.1となっている(RPABANK調べ)。

 WinActorは、「Windows端末上のアプリケーションの操作を学習し、自動実行するソフトウェア型ロボット」だ。利用できるアプリケーションに制限はなく、あらゆる業務を自動化してくれる。また自動化のロボット作成も容易で、プログラミングの知識も不要であることから、企業の情報システム部のようなIT部門でないユーザーでも簡単に自動化が可能だ。そのため、業務改善のタイミングやシチュエーションを問わずロボットに定型処理を任せることで、本来の業務や新規ビジネスに専念することができる。

 一方、WinDirectorは、WinActorを利用したユーザーの声から生まれた、管理統制運用ツールである。複数のWinActorの実行のスケジューリングや多重実行、即時実行の管理を行ってくれるほか、各WinActorの実行結果やステータス確認などを容易に行うことができる。WinActorがWindows上のアプリケーションを自動実行する、ユーザーの業務自動化に特化したロボットであるのに対し、WinDirectorはそれらの実行ロボットを一元管理し、ユーザーの代わりにロボットの実行をスケジューリング、実行指示する「秘書」のような役割を担うのだ。

 これらRPAツールの価格帯は数十万円から数百万円前半が中心で、初期開発費なども大きく発生しないため、導入効果が出しやすい点もブームを後押ししている。

 なおRPAツール選定の際は、業務担当部門に馴染むものか、業務担当者が自ら扱えるものか、という観点はぜひ押さえていただきたい。RPAの導入は、継続的な運用・改善が不可欠なものなので、業務担当部門に馴染まないツールだと使われなくなったり、運用委託コストが高くなったりする。また、所属する組織(会社)が扱うシステムを自動化できるRPAツールであるかも確認してもらいたい。RPAツールの中には、例えばExcelとウェブしか扱えず、基幹システム操作を自動化できないというものもあるからである。

 次回は、民間企業と行政におけるRPAの活用事例を紹介したいと思う。

(次回へ続く)



※ERPパッケージ:Enterprise Resource Planningの略で、企業の持つ資源を統合的に管理するサポートをしてくれるシステムやソフトウェアのこと。

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中川 拓也氏

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 社会基盤ソリューション事業本部 社会基盤部ソリューション事業部 RPAソリューション担当課長

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