ICTコラム

第2回 RPAの導入目的とその効果

第1回では、オフィス業務の自動化を実現するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の概要と定義について、具体的事例を挙げながら解説いたしました。第2回は、RPAの導入目的とその効果について、さまざまな特徴などをふまえながら解説いたします。

コスト削減、代替労働力など、RPAの導入目的とその効果とは?

 RPAを導入する主な目的として真っ先に思い浮かぶのは、「コストの削減(人件費削減)」だろう。しかし最近では、地方を中心に人手不足が深刻化しており、「コスト削減よりも優先すべきは労働力の確保」ということで、RPA導入を“代替労働力”として検討するケースが増えている。例えば、税金収納のような季節性のある業務を効率よく処理するために臨時職員を入れたいが、人手が見つからないというケースがある。このような深刻な事態に陥る前にRPAを導入すれば、代替労働力として効率的に業務を遂行できる。

 特に2018年に入ってからは、国の人事を管轄する組織や自治体を管轄する組織などで、RPAによる自動化技術の評価が始まっており、労働力の減少が本格化する10年後を見据え、RPAによる労働力の補填に期待が高まっている。

 次に、コスト削減や代替労働力以外の、RPA導入目的や効果を挙げてみよう。

(1)ミスの削減

 業務をミスなく進めることを目的に導入するケース。「ロボットのミスが心配だ」という声を聞くこともあるが、定型の作業であれば、人間はミスをしても、ロボットはミスをしない。

(2)リードタイムの短縮

 例えばパスポートの発行作業の場合、人間が応対・処理して発行するまで10日から2週間ほどの時間を要するとしよう。そこで、RPAで高速処理を行うことにより3日で発行できるようになれば、住民満足度を高めることにもつながるだろう。

(3)機微情報の処理

 例えば、社内の人事情報など部外者には見せられない機微情報も、RPAであれば安心して取り扱いを任せることができる。

(4)本業に集中(ストレス減)

 突発的な雑務を、RPAに処理してもらうことで本業に集中できるようになり、「本業の作業効率まで上がった」という声をいただくケースが増えている。また、動きが遅く待ち時間が長いシステムを、イライラしながら扱わずに済むようになり、「ストレスが軽減された」という声をいただくこともある。本業集中(ストレス減)自体がRPA導入目的の決定打にはならないかもしれないが、重要な副次効果であることは間違いない。

RPA(ロボット)と人間(労働者)の性質を比較してみると

 RPAで作るソフトウェア型ロボットは、デジタルワーカー/デジタルレイバーとも呼ばれるように、何かと擬人化されることが多い。そこで、人間になぞらえてRPAの特徴を紹介してみよう。

(1)24時間365日フル稼働

 RPAは人の3倍の速度で、24時間365日働き続ける超人である。しかし、時にはシナリオ(業務操作ルール)の修正やメンテナンスが必要になることもあるため、手を止めて休ませることも必要である。

(2)人間関係のトラブルがない

 RPAは人が嫌がる仕事や単調な仕事に文句を言うことはない。人間関係のトラブルで職場の生産性を引き下げる心配もないため、管理職やリーダーにとって、人間より扱いやすいと感じるかもしれない。

(3)教育投資が不必要

 RPAは、正確な説明を1度受けるだけで業務を覚えてしまう。人間のように何度も同じことを繰り返して覚えさせる必要がない。

(4)業務手順の変更が容易

 法改正などによって業務手順が変更になるとしても、全ロボット一斉に新シナリオに更新さえすれば、業務手順を変更することができる。人間のように何度も集めて再教育する手間はかからない。

(5)増員しやすい

 人手不足が深刻化している現在、繁忙期に臨時職員を入れたくても見つからないケースが増えているが、RPAは複製するだけで“増員”できる。

(6)辞職しないのでスキルも流出しない

 RPAは会社を辞めることがないため、せっかく育てた育成投資が無駄になる心配がない。しかもノウハウを保有する人材が競合他社にスキルや情報を流出させることもない。

(7)同じミスを繰り返さない

 RPAは、同じ条件や同じインプットがあれば同じ結果を必ず出してくれるので、人間のように何度指導しても同じミスを繰り返すということがない。時に導入当初の設定不良などでミスを起こすこともあるが、一度再教育(シナリオを修正)すれば克服する。

 いかがだろうか。使わざるを得ない固定費として意識もされないような、OJT教育コストや採用コスト、ミスのチェック・リカバリーコストなども改めて意識し、RPAを評価してみていただきたい。

 一方でRPAは、人間のように創造的な仕事をしたり、自ら業務変更や改善をしたり、イレギュラーの要求に柔軟に対処したり、ということはできない。そのため、ホワイトカラーの業務のうち、RPAにより自動化できる割合は、当面は20%程度が目標となるだろう。

RPAにできること、できないこと

 RPAは、シナリオと呼ばれるロボット用の業務手順フローをなぞることで、人間がパソコン業務を行うかのように業務を自動処理することができる。なぞる元となるシナリオには、「A列をコピーして、Bの入力欄にペースト、それをデータがなくなるまで繰り返す」といった手順が、キーボード、マウス操作レベルで記載されているからである。ただ、あらかじめ決められた手順をなぞるだけなので、イレギュラーな事態が発生した場合、人間のように臨機応変に対応することはできない。例えば、コピー元のE x c e l様式のレイアウトが変更されていた時、レイアウトの構成を自動的に解釈して業務を継続したり、欄外に記載された補足コメントを見つけて処理内容を変更したり、データが1桁違う時に異常値かもしれないと気づいて処理を止めたり……といった、柔軟で気の利いた対応はできないのだ。これが、「RPAは定型作業を自動化できるが、非定型の作業は自動化できない」と言われる所以である。

業務改善を早く、確実に進められるRPAの利点

 RPAは、アプリケーションを構成するHTMLなどのプログラム構造を解析する技術(人間がプログラムを解読して対象システムを理解するようなイメージ)や、ディスプレイに表示されるアプリケーション画面を画像として解析する技術(人間が目により対象のアプリケーションの画面を理解するイメージ)を駆使し、人間のように自動化対象のアプリケーションを扱っている。このように、対象のアプリケーション側にRPAのために手を加えるようなことはしておらず、RPAが既存のアプリケーションを外側から(ある意味)勝手に解析して自動操作をしている。そのため、対象アプリケーションを改修するための費用やリスクを伴わないことも利点だと言える。

 例えば、対象アプリケーションを変更するとなると、公共団体の場合は何段階ものプロセスを複数年がかりで経る必要があった。業務部門からシステム部門に変更要望を提示→要望が通ると翌年度の変更予算を獲得→翌年度に変更を行うITベンダーの調達や改修作業を実施→翌年度から変更の恩恵を享受できる……という具合だ。

 その点RPAであれば、業務部門の職員が自らシナリオの作成や変更を行ったり、ツール操作を行う派遣スタッフを短期的に入れたりするだけで済むので、何段階ものプロセスを経ることなく、早く確実に改善が進められるわけである。これをRPAの利点として挙げる自治体職員も多い。

 次回は、これらRPAの利点もふまえて、RPAと従来型の技術やシステムとの違いについて述べていきたい。

(次回へ続く)

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中川 拓也氏

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 社会基盤 ソリューション事業本部 社会基盤部ソリューション事業部 RPAソリューション担当課長

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