ICTコラム

第6回 (最終回)回 RPAの導入・推進における注意点

第5回では、RPAを導入する際の推進体制と、推進の手順を具体的に解説しました。この連載の最終回となる今回は、これからRPAを導入・推進していく上での注意点を解説いたします。

RPAツールをうまく使いこなせない

 始めに、RPA導入・推進をしていく中で、発生しやすい問題をいくつか挙げてみる。

 まず、RPAツールの選定を、ICT部門や推進部門を中心に行った際に起こりがちな問題の一つが、業務担当者が「選定したRPAツールをうまく使いこなせない」ということである。ICTツールの扱いに長けている業務担当者であれば、どのようなツールでも特に難しく感じないだろうが、ICTが本務ではない業務担当者が難しいツールを選定してしまうと、うまく使いこなすことができず、本格導入の段階で現場が困ることになる。

 また、せっかく導入したRPAツールを業務担当者が使わず、取り組み自体が浸透しないケースもある。この問題の原因として考えられるのは、実際に作業を行う業務担当者を巻き込むことなく、難しいツールを採用したということだ。このケースでは、業務担当者はツールも使いこなせないし、RPAの進め方も分からない状態になり、結果的にRPA導入に抵抗感を抱くことになるだろう。

自動化するような業務が見つからない

 また、RPAで自動化するような業務が見つからないというケースもある。それは、RPAの対象業務を組織の推進部門やICT部門が机上だけで考えてしまい、「現場」を巻き込んでいないからである。なぜなら、自動化したいような業務は、「現場」に埋もれているからだ。業務を把握している現場の担当者に、どのような業務が自動化できるかというアンテナを立てていれば、自ずと自動化すべき業務が見えてくるはずである。

導入後に“野良化”してしまい、メンテナンスできなくなる

 さらに、RPAツール選定の際にツールの使いやすさだけを評価し、シナリオの可視性を評価していないという問題もある。シナリオを作って自動化するということは、属人化していた業務を引っ張り出して“見える化”し、組織としてロボットに処理させるということである。そのため、作った本人しか分からないような自動化シナリオは、“野良化”(適切に管理されず放置された状態)の元である。ツール選定の際、そのRPAツールに対する知識のない人でも、シナリオさえ見れば「業務が想像できるか」というチェックをしてもらいたい(図参照)。この可視性こそ、自動化の継続性や保守性に最も影響するものでもある。

▲図:自動化を可視化・共有化するRPAのシナリオ

費用対効果が出ない

 また、RPAツールの選定において、繰り返し回数(業務回転数)の少ない作業を選定してしまっているケースも多い。

 RPAツールによる自動化では、RPAが業務をなぞって行うためのシナリオを構築し、そのシナリオを繰り返すことにより効果を出す。

 例えば、1回あたり10分を要する業務を自動化するためのシナリオを60分かけて作るとすると、6回処理すれば投資と利益が相殺され、7回目から利益が出始めることになる。この業務の実施頻度が四半期に1回であれば、1年でも4回しかないため、効果が出るまでに1年9ヶ月(7回)を要するし、毎日1回行う業務であれば7日目から効果が出ることになる。さらに、6名が毎日1回行う業務であれば2日目から効果が出ることになる。なお、実際にはシナリオ作成時間に加え、RPAツールの利用料も投資として考慮する必要があるため、効果の算定はさらにシビアなものとなる。

 参考までに、特に大きな効果が出たケースとしては、「毎日50,000件ある帳票の処理をOCRも活用して自動化し、約25人を要していた作業を5人で処理できるようになった」というものがある。一つのシナリオを、1日あたり50,000回も繰り返し活用できるのだから、効果は絶大だ。このように費用対効果は繰り返し処理回数(回転数)で決まるということも、留意してもらいたい。

最後に

 これまでも、仕事の遅い社員の作業について、「まだそのような仕事を手作業でやっているのか」など、作業の非効率性などを指摘されてきた。それが、RPAを導入した企業では「そのような作業はRPA(ロボット)がやれないのか」という議論に変わっていくのだ。

 このように、一人ひとりが「RPAでやれないのか」という感覚を持ち、業務を改善していくことが重要である。特に税収で活動する公共機関の場合は、税収の効率的な活用に対する住民の目もあるため、内部の「そのような仕事はRPAでやれないのか」という議論だけでなく、将来的に「そのような仕事をRPA(ロボット)ではなく職員にやらせているのか」とか、「RPAを活用している自治体に比べて、税収を無駄づかいしているのではないか」といったクレームを受けるような時代になることも、想像に難くない。

 あらゆる業務に適用でき、また個人単位でスモールスタートできるRPAの利点を活かし、ぜひご自身の業務から自動化し、RPAによる改革の波を起こしていただきたい。

 最後に、RPAの導入に失敗しないためのポイントを3つにまとめてみた。

①研修やトライアルプランなどのサービスメニューを活用し、RPAの勘所をつかんだら、身近な定型のパソコン作業をいくつか挙げてみる。

②RPAの適用が難しい紙処理などの業務にこだわらず、自動化しやすい箇所からコツコツシナリオ作成を進める。

③RPAの管理・統制も重要ではあるが、それ自体が目的にならないように注意する。管理・統制方法も含め、試行錯誤を重ねて育てるのがRPAである。

 ポイントと言っても、この程度のものなので、RPAによる自動化の実現に向け、まずは技術研修の受講という第一歩を踏み出してもらいたい。

参考文献:NTTデータ監修『RPA ホワイトカラー革命』(日経ムック) https://winactor.com

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中川 拓也氏

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 社会基盤ソリューション事業本部 社会基盤部ソリューション事業部 RPAソリューション担当課長

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