ICTコラム

中小企業が今、取り組むべきこと

記事ID:D40054

これまで本連載では、企業経営に持続可能性への変革(SX)が求められている理由と、その中でのICTツールのお役立ちポイント、実際にICTを活用した具体的な事例を紹介しました。最終回となる今回は、日本でのSXの取り組み状況を踏まえつつ、実際に中小企業がSXを実現するためにICTで何ができるのかを考えていきます。

SXに取り組む日本企業の実態

 まずは、SXについて、現在の日本企業の立ち位置について説明します。
 私の所属する株式会社日本能率協会コンサルティングでは、グループ会社と合同で、2023年11月に『サステナビリティ経営課題実態調査』を実施しました。本調査は、日本企業のサステナビリティ経営(環境・社会・経済の観点から、持続可能性の向上を目指す経営)の実像を探るため、国内主要企業約5,000社にウェブアンケート調査(有効回答率3.2%)を実施したもので、2022年5月に続き2回目の実施となります。
 サステナビリティ経営の進め方としては、まず自社の企業価値と関係が深い重要課題(サステナビリティ経営目標)を特定し、それぞれ指標を定めて(数値化)取り組みを推進するのが一般的です。そこで、ここではサステナビリティ経営の取り組みの実態として、数値化段階の企業の割合と推移について見てみましょう。
 調査は、回答企業に「サステナビリティ経営目標のうち、数値目標を設定している割合」を聞くことで実施しました。いくつかの特定した目標のうち、半数(50%)以上の数値目標を設定している企業を「数値化が進んでいる企業」とした場合、該当する企業の割合は、1回目は回答企業全体の31.6%であったのに対し、2回目では全体の41.3%と9.7ポイント増でした。中でも東証プライム上場企業に限定して見ると、1回目の38.7%に対し2回目は52.6%と13.9ポイント増えています(図1参照)。

図 1:サステナビリティ経営目標のうち、数値目標を設定している割合

 このように、全体としてサステナビリティ経営目標の数値化にまで取り組んでいる企業の割合は、1回目から2回目の1年半の間でもしっかり増えていることが分かります。特に東証プライム上場企業は、TCFDに基づいた情報開示が求められ、サステナビリティに関する情報開示が義務化されていることから、SXの取り組みに積極的で、さらに取り組みを進めていくものと考えられます。このような取り組みは企業の信頼を高めるため、今後は中小企業も含めてその他企業にも波及していくでしょう。

ICTでSXに取り組むには

 ここからは、「SXに取り組む必要があるのは分かったけれど、実際にどう取り組めば良いか分からない」という企業に向けて、今、やるべきことを考えていきましょう。

図 2:バックキャスティング思考とは

 SXの領域では、常に「バックキャスティング思考」(図2参照)が重要だと言われています。バックキャスティング思考とは、現在の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報など)の制約をいったん置いておき、将来の「ありたい姿」を起点に考える思考法です。自社でSXに取り組む場合、現在あるものにとらわれていたら、必要な変革は起こせません。そのため、バックキャスティングで考えることがSXの第一歩となります。いったん既存の技術や製品を忘れ、自社を取り巻く社会の未来像について考えてみるのです。
 未来像が考えられたら、次のステップです。社会課題を解決し未来像に近づくために、現在の自社にどんなことができるのか、具体的な施策のアイデアを複数人で自由に出し合います。そして、これを体系的に整理し、取り組むべき重要課題をまとめます。この時、ただまとめれば良いわけではなく、自社らしさが明確に表れていることが必要です。同業他社が発表しているものも参照し、自社の社員が自社ならではの課題(目標)だと認識できるか見直してみましょう。自社らしさを明確にするためには、自社のミッションやビジョンに立ち返り、自社が大切にしたいこと、取り組みたいことは何か、を組み込むことが求められます。
 その後、重要課題を事業別、各部門への具体的な指標へと落とし込みます。指標設定が曖昧にならないよう、しっかりと現状把握をした上で、定量化した目標を設定することが重要です。
 これまでの第1回第2回の連載で、ICT導入の一番のポイントが「見える化」であることを説明してきました。今回の「取り組むべきこと」の中で最もICTが役に立つのが、現状把握から定量化までの指標への落とし込みの段階と言えるでしょう。本連載第1回でCO2排出量算定ツールをご紹介しましたが、現在の活動量からCO2排出量を推計し、削減目標を設定するのはまさしくこの局面です。
 また、SX実現にあたって、社員全員が理念・ビジョンに共感し、同じゴールに向かって進むことが重要です。特にSXは長期的に、かつ全社的に取り組むことなので、この意識がずれていると同じ方向に進みません。ICTにより目標を「見える化」することは、社員に対し展開しやすくなる上、達成度も計りやすくなり、結果、目標達成に向けた社員のモチベーション維持にもつながると言えるでしょう。
 このように、企業活動に必須と言われるSX実現に取り組むにあたっては、初期の段階でICTを活用することで「見える化」をし、取り組みのハードルを下げることができるのです。

※ TCFD
Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称で、各企業の気候変動への取り組みを具体的に開示することを推奨する国際的な組織。日本では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれる。

青木あおき 麻衣まい

株式会社日本能率協会 SX事業本部サステナビリティ経営推進センター コンサルタント。2020年日本能率協会コンサルティング(JMAC)に新卒で入社。入社後は、CS調査・VOC活動支援や営業業務改革、人事制度改革など、企業の顧客とヒトを中心に幅広く経験。サステナビリティ領域関連のプロジェクトでは、サステナビリティ取り組み情報開示推進支援、GHGプロトコルScope3排出量算定のコンサルティングのほか、サステナビリティ経営実態調査にも立ち上げ時より関わっている。

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